86.バンデージマンの落とし物

 王都内は城壁の修復や発見された地下施設の後始末で大変だった。

 その事で王子達から呼び出しをされたブルース達だが、新たな悩み事があるため足取りは遅かった。


「はぁ。あれから誘拐犯たちとは会わないし、思ったよりも平和だったから安心してたのに」


「本当だね。ジーナさんとエメちゃんはどっか行っちゃうし」


 クロスボーダー教の五人の事を姉妹に話すと、翌日から姿をくらましてしまった。

 なので嫌な予感がするのだが、相手はバンデージマンと戦える相手なので、そうそう無茶な事はしない……はずだ。


「う~ん、う~ん」


 シアンが歩きながら唸っている。

 最近ずっとこうで、何を悩んでいるのか聞いても本人にもわからないのだ。

 なのでブルースとローザはシアンと手を繋ぎ、少しでも不安を無くそうとしている。


 それにしても、三人の後ろから付いて来るシルバーは背が高い事もあり、街を歩いているとよく目立つ。


「ようやく来たか。まずは地下施設の調査についてだが……」


 最初はレジナルド第二王子だ。

 現場指揮をしている第二王子は、地下施設を使っていたのは何者なのか、どんな組織なのかを調べていた。


 いくつかの重要な情報が手に入ったようで、その検証を手伝っている。

 実際に地下施設に潜り、他に情報がないか調べているのだが、レジナルド第二王子はチラチラとシルバーアンドロイドの方を見ている。


「ごほん。あーブルースよ、そこの女だが、以前王都の上空で光を放った女ではないのか?」


 他の部下たちも気にしていた様で、ブルースの返答に耳を傾けている。

 目撃者が多数いるので隠しきれない事は知っているので、素直に白状した。


「はいそうです。僕の仲間です」


 シルバーはブルースの言葉に少し不満気だ。

 昨晩のうちに「シルバーは部下じゃなくて仲間」と言い聞かせていたため、何とか訂正はしないでいるようだ。


「初めまして、シルバーです」


「そうか。お前は俺の部下に――」


「なりません」


「う、うむ……」


 まだ諦めていないようだ。

 その後はすでに埋められた隠し通路を発見したり、髪の毛や床に落ちている皮膚のサンプルを回収し、地下施設を後にした。


「やあブルース、ローザ久しぶり。君はシアンだったね、それと?」


 今度はジャレイ第三王子の所だ。

 ジャレイ第三王子は襲撃の際に血を流して倒れていたジョシュ伯爵や、行方不明になっているアボット侯爵らの調査をしている。


「ところで、今日はオレンジーナは居ないのかい? え? 出かけてる? ああそうなのか……」


 目に見てえ落ち込むジャレイ。

 貴族たちの邸宅を調べていると、シルバーが発言の許可を求めた。

 ブルースが許可をすると、シルバーは説明を開始する。


「先ほどの地下施設にあった毛髪もうはつと、こちらの毛髪が一致しました。同一人物が出入りしていたと思われます」


 一致した場所はアボット侯爵の寝室、そしてその枕だ。

 侯爵夫人とは髪の色も違うので、アボット侯爵本人と思われる。

 その事は直ぐに使いを出してアンソニー第一王子の元へ伝令が向かう。


 行方不明の二貴族の邸宅でも、同じように地下施設と同じ毛髪が発見されたため、三貴族は地下施設との関連が深いと判断、改めて捜査が開始された。


 ふと、ロビーの階段踊り場でシルバーが足を止め、ブルースを呼び止めた。


「マスター、この肖像画の男性は、モンスター襲撃の際に先頭にいた人物と似ています」


「え!? でも僕たちが戦っている時には見当たらなかったよ!?」


「そちらではなく、後から現れた三方向のモンスター群です。それぞれの先頭に人間らしき影を確認していました」

 

 他の貴族の確認をする為に、もう一度他の貴族の邸宅に戻る。

 するとやはり先頭には三貴族がいたことが判明する。

 ジョシュ伯爵は違うようだ。


「それではシルバー君、アボット伯爵たちはどうなったんだい?」


「消滅しました」


 ジャレイ第三王子の動きが止まる。

 どうやら貴族を殺したという事で悩んでいるようだ。


「説明をしましょう。すでに三人の貴族たちはバンデージマンと同じ体になっていました。完成度は上ですが、中身は同じと判断し、モンスターと同様に消滅させました」


「な、なんだって!? アボット侯爵達はバンデージマンに改造されてしまったのか!!」


「いえ、随分と定着し安定していましたので、随分前から改造されていたのでしょう」


 その言葉にジャレイどころかその場にいた者全てが目を見開く。

 三貴族は関係者どころか当事者という事になる。

 しかも古くから王に仕える貴族が、国を脅かす行動をとっていた事で、一気に緊急度が上がる。


 他にも居るのではないか、と。


「シルバー、まだバンデージマンはいると思う?」


「はいマスター。確認した中ではバンデージマンは残り三体。うち一体は出来損ないです」


「いるのか!? まだバンデージマンが!!」


 ジャレイ第三王子が大声を上げるが、他の者も同じ気持ちだ。

 シルバーは更に言葉を続ける。


「一体は貴族と同じ完成形ですが、もう一体はマスターと同じ波長を感知しました」


「え? 僕と同じ波長ってどういう事?」


「マスターの親族の可能性があります」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る