79.動き出した計画、止まらない動き

 バンデージマンへの対抗策が出来たことで、ゴールドバーク王国は秘密裏ひみつりに捜査を開始した。

 シアンが作ったバンデージマンの包帯を溶かす薬だが、大量生産は出来ないため区画ごとに一本の支給となった。


「衛兵総隊長、警備体制は今まで通りに出来ているか?」


「はっ! アンソニー王子の御命令通り、一部の者にしか伝えておりません!」


「よし。レジナルドの部隊はいつでも動けるな?」


「大丈夫だ。兄上の御命令通りにいつも通りの・・・・・・行動をさせていますよ」


「ジャレイ、貴族や元老院の動向は把握できているな?」


「はい兄上、抜かりはありません」


 王宮の会議室の中で、アンソニー第一王子、レジナルド第二王子、ジャレイ第三王子、そして衛兵総隊長の四人が打ち合わせをしている。

 この四人での打ち合わせは王都内のバンデージマン騒動以降、定期的に行われている。


「それにしてもシアンといったか? あの兎人コニードゥの娘が魔女ウィッチとかいうレアスキル持ちだったとはな」


レジナルド第二王子、その事はもういいと言ったはずだ」


「だが兄上、エクストラポーションなんていう物を作れるのですよ? 通常ならば国に所属させて、どんどん作らせるべきだ」


「レジナルド兄上、あの三人にはこれ以上の手出しは無用だと、話が付いたではありませんか」


「だがジャレイ第三王子、アイツらはまだ隠し事をしているはずだ」


レジナルド第二王子、その話は後にしてくれ。今はバンデージマンに集中するんだ」


「……わかった」


 諦められない様だが、レジナルドは話を打ち切る。

 そして衛兵総隊長が口を開く。


「それではバンデージマンの発見時、もしくは研究施設を見つけた場合の最終確認を行いましょう」


 


「ん~? なんか変な感じがすんなぁ?」


「街中は普通に見えるのじゃが、どうにもザワつくのぅ」


 五人組が王都に帰ってきたようで、微妙な空気の違いを感じているようだ。

 街を歩く五人に一人の少年がよそ見をしながら走り寄り、漆黒鎧にぶつかった。


「あ、ご、ごめんなさい」


「うむ、気を付けるのだぞ」

 

 ペコリと頭を下げてどこかへ行く少年。

 そんな少年を見送ると、他の四人が漆黒鎧に身を寄せる。


「本部からか?」


「うむ、紙を渡された。アジトへ戻るとしよう」


 街の外れにある倉庫内、そこに入ると五人は手紙を確認する。


「へ~ぇ? 遂にお国が動いたのかい」


「でもでもでも、また確証は得られてないみたい」


「遅い! そんな事だから国は当てにならないんだ!」


「まあそう言ってやるな。大きくなれば身動きがとりにくくなる物じゃ」


「今回の計画は、王子達が主導しているようだ」


 木箱やテーブルに座り、漆黒鎧が読んだ手紙の話をしている。

 極秘情報のはずだが、どこかから漏れたようだ。


「あちらがあやまちを犯したのは僥倖ぎょうこう。こちらが動きやすくなった」


「それは言えている。俺達クロスボーダー越境者教の事は、まだバレていないようだからな」


 茶髪の若い男性は鞘に入ったままの剣を手に持ち、鞘の装飾の隙間に入った埃を払っている。


「珍しく本部からまともな情報が来たのぅ。他には何と書いてあるのじゃ?」


「他には、持っている『経験値の石』を本部に送れ、と」


「うっひゃっひゃっひゃ! ざぁ~んねん! 持ってる石なんざね~よ」


「うむ、使ってしまった・・・・・・・からのぅ」


「でもでもでも、探してた事はバレてたんだよね?」


「気にする事は無いさ。『持っている石』なんて、俺達には無いんだから」


「その通りじゃ。ない物は送れん」


 漆黒鎧が手紙を握りつぶし、銀髪おかっぱの女性に放り投げる。

 

「うわぁ。燃やすの? でもでもでも……」


「もう我らには必要ないかもしれぬ」




「はぁっ!」

 

 エメラルダはグリフォンに乗りながら、空中戦をしている。

 空中戦の相手はレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクス

 人のいない山の中でこっそり訓練をしていた。


「んもぅ! 速すぎですわコレ!」


 空を自在に動き回れるグリフォンだが、レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスの動きには付いていけない。

 背後を取られるたびに殺傷能力の低い小さな鉄球を撃ちこまれ、小さな悲鳴を上げている。


「ううっ、これで何回目ですの?」




「ブルー君! 食らえー!!」


 ローザがブルースに大剣で上段から斬りかかり、それをブルースは盾で受け止める。

 重装歩兵ファランクスの状態で戦っているが、防御力だけなら非常に高いためローザの通常攻撃なら防いでいる。


「もう! ブルー君ったら守りが硬すぎる!」


「それが重装歩兵ファランクスだからね」


「それなら次はコレ! 『荒れ狂う闘志ランページスピリット』! からの~、『鉄槌アイアンハンマー』!」


 大剣から大槌おおつちに替わり、今度は横から振り抜いた。

 盾で受け止めるが、なんと盾にヒビが入り砕けてしまう。

 それだけでは勢いが止まらず、ブルースの体を吹き飛ばしてしまったのだ。


「ぐわぁ!」


「やったぁ! ってかブルー君大丈夫!?」


 吹き飛ばされたブルースに駆け寄り、ヘルメットを脱がせて膝枕をする。


「あいたたた、遂に重装歩兵ファランクスの防御を抜かれちゃったね」


「それはブルー君が本気を出してないからでしょ? はいエクストラポーション」


「ありがとう。でもこれなら包帯の上からでもバンデージマンに通用しそうだね」


「本当!? じゃあこれでブルー君を護ってあげられるね!」


 剣士ソードマンから剣闘士グラディエイターになったローザだが、剣聖ソードマスター剣豪グランドソードマンの戦いを見て、まだまだ足りないと感じていたようだ。


 元々ハイランクスキルの剣聖ソードマスター剣豪グランドソードマン勇者ブレイバーとは、根本的な能力の差がある。

 それを何とか埋めたいと思っていたようだ。


 一対一では勝てないが、汎用性という点では圧倒的に剣闘士グラディエイターが上だ。

 しかしそれでは満足できなかったのだろう。


「今までも十分に護ってもらってたけど?」


「まだまだだよ! ずっとブルー君の横に立ってたいの!」


 シアンとオレンジーナは魔動力機関装甲輸送車ファランクスのそばで、何やら実験をしていた。

 シアンの作った薬品を、オレンジーナの聖遺物せいいぶつで鑑定・改良をしている様だ。


「回復ポーションはこれだけなんだな。次はどれにする? スル?」


「次は溶解液にしましょう」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスに積載されている水や道具を使い、シアンが薬を作り、それをオレンジーナが鑑定しているのだが、オレンジーナの聖遺物も随分と数が増えているようだ。


「ふぅ~、本当に聖女セイントスキルと似た効果の薬が作れるのね。しかも全く違う方法で」


「私も驚いてるんだな、ダナ」


「じゃあもう少し調べましょうか」


「わかったんだな、ダナ」


 こうしてそれぞれが行動をしている中、地下の研究室では更なる研究が進められていた。


「博士、新しい実験体の調整が終わりました」


「できたか。今度の実験体は魔法使いウィザードだったか? では次のスキルは……」


「いえ、魔法使いウィザードの次のスキルは魔術師ソーサラーのようです」


「んんんん? 前の魔法使いウィザードとは違うようだが?」


「その様です。恐らくですが、個体によってボーダーレス後のスキルが変わるのではないかと」


「ほぅ? ほうほうほう、ほう! これはイイ! もっと、もっともっと実験体を増やさねばならんな!」

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