80.ドローンの子機たち

 それは唐突だった。

 王都の地下に広大な施設が作られていたのが発見された。

 その存在は王ですら知らないもので、発見できたのは本当に偶然だった。


 井戸の水が枯れたかもしれないという報告から端を発し、井戸の中を調査したところ、水面近くに横道が発見された。

 どうやらくみ上げるおけが横道の石床に当たった事で、井戸が枯れたと勘違いしたようだ。


 その横道を進むと大きな部屋に繋がっており、そこから調査が始まったのだ。

 地上と繋がる出入り口もいくつか発見され、一斉に調査が開始された。


 だが地下施設はあまりに広大であり、まるで迷路のように入り組んでいたため、人員を増やした所で調査は遅々として進まなかった。


「こんな広大な地下施設が今まで発見されずに作られていたとは……一体いつからあったんだ?」


 アンソニー第一王子が司令部で唸っている。

 レジナルド第二王子は現場指揮に出ており、ジャレイ第三王子は方々への説明をしている。


「アンソニー殿下でんか! 地下施設の地図が完成しました!」


 司令部に伝令が入ってきた。

 その伝令は喉から手が出るほど欲しいものであったが、つい先ほどまで全く調査が進んでいなかったはずだ。


「よし! では一気に制圧を開始しろ!」


「はっ! レジナルド殿下でんかが待ちわびておりますので、これにて!」


 伝令は直ぐに部屋を出て行くが、去り際に近くにいた者に手紙を渡す。

 これには地図と各部屋や通路の詳細が書かれている。


「坊っちゃん、今日中に制圧が完了しそうですね」


「ああ、発見から制圧までが一日で終わるなんて、俺はいい部下を持ったものだ。それにしても、どうして一気に調査が進んだんだ?」


 手紙を受け取った執事が内容を確認する。

 小さく「ほうほう」と言いながら一人で納得した。


「どうした?」


「はい坊っちゃん。どうやらブルース様がご活躍されたようですね」


 地下施設の入り口の一つ、街の外れにある廃屋にブルース達は居た。

 ホコリまみれの倉庫の地下室が施設と繋がってたのだ。

 そこでブルースはレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスから大量の子機を放出し、地下施設の中をくまなく調べたのだ。


「こんな虫みたいに小さなのが、レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスの子供なの?」


「そうだよローザ。一センチほどの中に凄い機能が満載されているんだ。重力を制御して行動したり、メイン機が無くても子機同士でリンクを取って行動し、各種センサーを装備しているし、あ、攻撃は出来ないけどこの小ささだから逃げるのは簡単だし――」


 と、ブルースの説明を聞いているが、全く理解できていないローザ。

 いや、ローザだけではなくシアン、オレンジーナ、エメラルダはもちろん、近くにいる兵士達もちんぷんかんぷんだ。


 子機は潰れた四角形で、小さな翼が一対と目の様な二つのへこみがある。

 その子機が入手した情報をメインのレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスがまとめ、プリンターモードのレーザ―を使って紙に印刷している。

 かなり広大なので、一辺二メートル以上の大きさになっていた。


「こ、こんなに詳細な地図が、一体どうやって……?」


 兵士のリーダーらしき人物が地図を見て唸っている。


「あ、各所の詳細は別紙に書きますので、少し待ってください」


 レーザーで紙を焦がして書いているだけなので白黒だが、次々と地図が書き足されていく。

 その中で、地図ではなく絵が描かれたものが数枚出てきた。


「ブルー、この絵は一体何かしら?」


 オレンジーナとエメラルダが紙を見ているが、どうにも怪しいものが書かれていた。

 大きな試験管がいくつも並んでおり、その中に生き物が入っているようだ。

 生き物は……どう見てもモンスターだ。


「ブルース、これ、これを見て欲しいんだな、ダナ」


 シアンが一枚を手に取りブルースに見せる。

 指さしているのは一つの試験管であり、中のモンスターのようだ。


「このモンスター、バンデージマンの腕と同じモンスターだよ、ダヨ」


 沢山の種類が試験管に入っているが、その中の一つがバンデージマンの左腕と同じモンスターだった。

 

「これは……ゴブリン系のモンスターですわね。しかし人間につけるにしては腕が小さいですし……ホブゴブリンですわ!」


 するとレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスから新しい情報が紙に印刷された。

 バンデージマンの腕の解析情報と、試験管内のモンスターの比較だ。


 どうやら適合率九十九.八九%のようだ。


「バンデージマンのあの腕はホブゴブリンで間違いないみたいだね」


「じゃあじゃあ、やっぱりここでバンデージマンは作られたって事!?」


 無言で首を縦に振るブルース。

 それと同時に地下施設の全体地図が完成し、各部屋の詳細情報が追加されていく。

 そして危険度がレベル三と表示される。


「レベル三か、暴徒が居るかもしれないって所だね」


「え? バンデージマンが暴徒レベルって事?」


「ローザそうじゃなくて、中にはバンデージマンがいないって事だよ」


「それなら突入しても大丈夫って事ね?」


「うん姉さん。レジナルド第二王子殿下でんかに突入可能って連絡してくれる?」


 こうして地下施設への突入が再開され、いくつもある出入り口から兵士がなだれ込んでいった。

 しかし子機たちが調べた中には人間やモンスターの標本はあるものの、バンデージマンに繋がる情報は無かった。


 隠し部屋に隠れていた研究者、逃げ遅れた者、観念して捕まる者、バンデージマンや主要人物に繋がる情報が入ったのは少したってからだった。


「ブルーお兄様、レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスが新しい紙に何か書いていますわ」


「え? どれどれ……魔法で隠蔽された場所がある可能性アリ、外部からの調査の結果、すでに逃げた者が複数存在する模様。現在追跡ちゅうわぁ!!」


 外で爆発音が鳴り響く。

 レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスは引き続き印刷を続行しており、それによると城壁を何者かが破壊し、同時に結界が消滅・モンスターが王都に向けて侵攻を開始した、と。

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