65.調合は楽しいんだな、ダナ!

「ブルースさん、ご実家からお届け物が来ていますよ」


 デモンスレイヤー本部に依頼を探しに行くと、受付のジョディに呼び止められた。

 恐らくは領地を守るために戦った報酬だろうが、ブルースは受け取るのをためらっている。


「どうしたの? ブルー君」


「何でもないよ。ありがとうございますジョディさん、あ、この依頼を受けるので受付お願いします」


 ブルース達にしては随分と簡単な討伐依頼を受けるようだが、ジョディはそれを見て少し楽しそうだ。


「最近、面白いことをされているようですね」


「面白い、ですか?」


「ええ、シアンさんが街で酔い覚ましの薬を配っていたり、病気の治療をしているそうですね」


「そうなんだな、魔女ウィッチスキルが上がると、作れる薬の種類が増えていくんだな、ダナ!」


 今まではデモンスレイヤーだけでなく、戦いに関しては蚊帳の外だったのだが、最近では戦いにも参加し始めるようになった。

 薬を作れるので回復薬や解毒剤なども作れるからだ。


「こちらにも話が来ていますよ。モンスター討伐以外の依頼は受けないので、お断りしましたけどね」


 それ以外でも三人は王都では有名人なのだ。

 闘技場で魔法使いウィザードを倒し、知らない道具を使う重装歩兵ファランクス、ワイズマン領で剣聖ソードマスター剣豪グランドソードマンと並び戦った剣士ソードマン


 さらに二人は勇者を倒している。

 それにシアンという癒し手が加わる事で、三人は王都で時の人となっていた。


「私としてはブルースさんに、正式にデモンスレイヤーになってほしいのですが?」


「ええっと、すみません、今は王都がメインですけど、他の地域にもいきたいので」


 ローザが他の街でデモンスレイヤーだったので、今はローザの同行人として登録されている。

 実力者を取り込みたい気持ちはあるようだが、嫌われては元も子もない。


「ざーんねん、またフラれちゃいましたか」


「ちょっとジョディ!? まさかジョディはブルー君を狙ってるの!?」


「優しくて将来有望な若者ですよ? 狙わない理由が?」


「ダメー! ダメだったらダメー!」


 小型モンスターの討伐依頼を受けて、三人は山に入っていた。

 猿タイプのモンスターが巣を作って住み着いたらしく、その討伐が目的だ。


「えーっと? ああ、あそこかな? 崖になってる岩場の所」


「ん~と? いるねいるね! って、数多くない!?」


「猿型の群れはテリトリー内の全部だから、数は多いんだな、ダナ」


 猿の体は大きくないが、数は約五十匹ほどとかなり多い。

 二十~三十メートルの高さの崖の中腹に洞窟がいくつかあり、その中で暮らしているようだ。


「でもどうしよっか、結構高い場所にいるから降りて来てもらわなきゃ」


「降りて来て欲しいけど、何かいい手はないかな……」


 ローザとブルースが悩んでいると、シアンが手を上げてピョンピョンジャンプした。


「いい手があるんだな、ダナ!」


 シアンが崖の下で何かをすると、猿達は蜂の巣をつついたように暴れ出し、一斉に巣から出て降りて来た。


「うわすっごい! シアン何したの!?」


「猿が大好物の果物の香りを作ったんだな、ダナ!」


 大好物の匂いがして、急いで取りに来たようだ。

 しかし探しても果物などあるはずがなく、近くにいるブルース達に果物を取られまいと襲い掛かってきた。


「いっちょやっちゃうんだな、ダナ!」


 少し離れていたのだが、猿達が襲い掛かって来るかと思いきや、途中の岩で足を滑らせる猿が大発生した。

 手を付いて四つん這いで立ち上がろうとするが、やはり途中で転んでしまう。


「やったー! 成功したんだな、ダナ!」


「あはははは! 転んでる、転びまくってるよ! あはははは!」


「ひょっとしてシアンの呪い?」


「そうだよ! ふっふっふ、猿は嫌いだから転べばいいんだよ、ダヨ!」


 いつの間に呪いを発動させたのかと思ったら、崖の下に果物の香りを付けた際にすでに呪いを掛けていたようだ。

 それにしても……よく転ぶ。


「でもチャンスだね、猿を倒そうか」


 足のおぼつかない猿を倒すのは本当に簡単だった。

 なにせ重装歩兵ファランクスの状態で順番に倒せてしまえるのだから。

 十分も経たないうちに倒し終わると、あまりの拍子なさにもう一件依頼を受ける事にした。


「でもシアン凄いね。魔女ウィッチスキルって凄く便利だ」


「そう、かな、カナ?」


「便利だよね! 猿をおびき寄せたり転ばせたり、時間がかかると思ったらあっという間に終わっちゃったもん!」


「役に立てたんなら、嬉しいんだな、ダナ」


 その後に討伐はもう少し大きめのモンスターだったが、こちらもシアンの薬や呪いで簡単に終わらせることが出来た。

 役に立てたのが嬉しかったのか、シアンは帰ってきたら薬の調合を始めた。


「何作ってるの?」


「えっとね、エクストラヒールをポーションに出来ないかなって、テ!」


 エクストラヒール

 オレンジーナが多用しているが、本来は世界でも数えるほどしか使える者がおらず、死んでいなければどんな怪我でも病気でも治してしまう。


 今ある最上級のポーションでは、少なくとも腕や足を生やす事は出来ないし、病気も治すことは出来ない。

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