64.魔女《ウィッチ》

「く、訓練って何をするんだな、ダナ?」


 シアンの訓練をするというが、シアンは兎人コニードゥであり戦闘には向いていない。

 なので無理に訓練をしてもあまり意味がない。


「まずは……シアンのスキルってなに?」


「あ、ホントだ! 聞いた事なかった!」


 二人ともシアンに戦わせるつもりは全く無かったため、スキルが何なのか聞く事は無かった。

 シアンも自分から言う事が無かったので、余計に知る機会がなかったのだ。


「んっと……魔女ウィッチ……なの、ナノ」


「「魔女ウィッチ?」」


 ブルースもローザも口をそろえて不思議そうな声を出す。

 それもそのはず、魔女ウィッチというスキルはかなりレアであり、その効果もハッキリしていないのだ。


魔女ウィッチだけど、どんなことが出来るか、わからないの、ノ」


「聞いた事の無いスキルだね!」


「名前的には魔法使いウィザードっぽいけど、違うの?」


「その、あのね……占いとか、えっと、呪い……ができるんだな、ダナ」


「占いいいよね! 私を占ってみて!」


「いいけど、全然当たらないんだな、ダナ」


「当たるも八卦! 当たらぬも八卦だから大丈夫!」


「当たった事は一度も無いんだな、ダナ」


「それは逆にすごいけど、じゃあ呪いって何ができるの?」


「呪いはね、相手を転ばせたり、鳥の糞が当たるんだな、ダナ」


「へぇ! 鳥の糞は嫌だけど、転ばせるのは戦闘でも使えそうじゃない!」


「転ばせれるのは、私くらいの大きさまでなの、ナノ」


 兎人コニードゥであるシアンの身長は百二十センチ程だ。

 小型モンスター相手なら通用するかもしれない。


「使っていくうちに強くならないかな」


「どうかな? 恥ずかしくて使ってなかったんだな、ダナ」


「じゃあ実践あるのみだね! 早速小型モンスターを狩ってこよう!」


 街を出て森の近くまでやって来た。

 そして中に入ってしばらくすると、まだ子供の狼が見つかった。


「狼に呪いをかけてみて」


「分かったんだな、ダナ」


 少し精神を集中させ、シアンの体からほのかな青白い光が発せられた。

 中々の演出だが、果たして効果はどの程度なのだろうか。


災難フォミス


 強い光を発し、ブルースとローザは思わず顔を背ける。

 そして効果を確認すべく狼を見ると何と……背中に鳥の糞が落ちて来た。


「……言われた通りの効果が出たね」


「そ、そうだね! じゃあ次は転ぶことを期待していってみよー!」


 その後は鳥の糞が三回、蜘蛛の巣が顔にかかって驚いたのが二回、栗を踏んで痛がるのが一回あった。

 どうやらどの効果が出るかはランダムのようだ。


「呪いの内容は選べないの?」


「選べないんだな……ダナ」


「別の意味で、狼の子供に同情したくなってきたね!」


 ここまでで一番ダメージを与えたのは栗を踏んだ事だが、ここで諦めてはシアンの為にはならないし、何より負い目を感じたままだ。


「それはそうと、お腹が空いたよ!」


「ああ、もうお昼だね。昼食の準備をしようか」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスを召喚しキッチンセットを取り出し、ブルースが料理を始める。


「わ、私もお手伝いするんだな、ダナ」


 何もできていないので、せめて食事の準備くらい手伝おうと思ったのだろう。

 しかし思わぬことが起きた。


「……あれ? ブルース、それにはこれを加えた方がいいんだな、ダナ?」


「え? これを入れるの?」


「うん、なんでか知らないけど、その方が美味しくなる気がするんだよ、ダヨ」


 少し取り分けて、そちらにシアンがいうモノを加えた。


「……美味しい! シアンよく知ってたね!」


「え、なになに? もっと美味しくなったの!?」


 ローザに一口食べさせると、目をまん丸にしてお替りをせがんで来た。


「美味しいよコレ! シアンすごーい!」


 その後もシアンは料理方法を変えたり追加したりして、とても美味しい昼食を食べる事が出来た。

 しかも食後には特製ドリンクとデザートも作り、優雅な食後となった。


「な、なんで私はこんな事できるのかな、カナ!?」


「ひょっとして、作り方が頭に浮かんできた?」


「そうなんだな、ダナ」


「それって、スキルの練度が上がったって事だよ!」


「スキル? 魔女ウィッチの事なんだな、ダナ?」


「そうだね。練度が上がると頭の中に新しい知識が浮かんでくるんだ。きっとシアンもそうだと思うよ」


「他にも知識は浮かんだ!?」


「うん、かぜ薬とか、お腹痛いのを治す薬とか、トカ」


「え? それって医者みたいな事が出来るって事?」


「ど、どうなんだろう、でも薬の作り方ならわかるんだな、ダナ」


「かぜ薬とか腹痛をおさえる薬があったら、子供なんかはスッゴク助かるね!」


 ブルースとローザは顔を見合わせ、コクリとうなづいた。

 一気に王都に戻り、街の中を歩き回っている。


「あ、あの子はどう?」


「お腹を押さえて泣いてるね! でも食べすぎじゃないかな?」


 屋台の前でしゃがみ込み、母親にお腹をさすってもらっている子供がいる。

 前には沢山の串があるので食べ過ぎて苦しいのだろう。


「大丈夫なんだな、ダナ」


 トコトコとシアンは子供に近づき、何か飲みものを渡す。

 それを子供が飲むと、楽になったのか泣き止んで立ち上がった。

 笑顔でシアンに礼を言うと元気に走っていく。


「大丈夫だったんだな、ダナ」


「胃腸薬?」


「胃腸薬だね! 食べ過ぎても安心だね!」


 魔女ウィッチ

 いにしえの女魔法使いの総称で、大きな釜で何かを煮込み、かき混ぜているあの魔法使いのお婆さんだ。


 薬全般の作成が可能で、ある程度の魔法を使う事が出来る。

 実は高度な回復魔法以外では病気の治療が出来ないので、治療には高額な金銭が必要となり、市民はもっぱら医者にかかる事になる。


 その医者でも医療が発達していないので、有効な治療方法がないモノも多い。

 その治療方法、薬の作成が出来るのが魔女ウィッチなのだ。

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