63.安全のためには家だ!

「ワイズマン卿、戦いが終わったので、これで私は失礼します」


 本来は補給物資を置いたら帰る約束だったが、兄弟でシャルトルゼを探し始めたり、モンスターの襲撃があったりで帰るタイミングが遅くなった。

 

「そうか、協力感謝する。戦いの費用は傭兵扱いとして、後日王都に届けよう」


「え? いえ必要ありませんが……」


「受け取れ。物資を送られた上に戦いにまで参加させ、ただで帰したとあっては貴族としての面目が立たん」


「……わかりました、ではその様にお願いします。では」


 頭を下げて、ブルースは父親の元から離れていった。

 クリムゾナも金を払う理由は理解しているらしく、特に何も言わない。


「ブルー君、挨拶終わった?」


「終わったよ。じゃあ王都に帰ろうか」


「ブルース、なんだか悲しそう、ソウ!」


「大丈夫だよシアン」


 あまり会話もなく魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗り込むが、オレンジーナとエメラルダが駆け寄ってくる。


「ブルー!」


「ブルーお兄様!」


 ブルースは運転席の窓を開けて少し身を乗り出す。


「もう帰っちゃうの?」


「うん。これ以上いても父上も嫌だろうから」


「そんな事はありませんわ! お父様だって……その、強くなったお兄様に戻って来て欲しいとお思いのはずですもの」


「そうかもしれないけど、あの父上だよ? 簡単に意見は変えないよ」


「そう……ですが」


「ブルー、王都に戻ってからも気を付けて。私とエメは教会から呼ばれたけど、行った先では何もやる事がなかったの」


「そうなの? 主教様とか聖騎士団からのお呼びでしょ?」


「ええ。だからブルーも気を付けて」


 挨拶が終わりブルースは王都へと向かう。


「ねぇブルー君、私達は教会の依頼を受けたら拉致されたって、言わなくて良かったの?」


「言ったら心配するからね。それに今の二人にはどうする事もできないから」


「それはどうだけど……」


「……偶然、じゃないよね? 三つの事」


「わかんない。ジーナさんもエメちゃんも、私達も教会関連だから、関係はあるかもしれないけど」


「しばらくは教会関連の依頼は受けないでおこうか」


「そだね」


 ガタンと魔動力機関装甲輸送車ファランクスが揺れたが、二人の真ん中に座っているシアンは寝たままだ。

 遠出自体をあまりした事がなく、しかもボランティアもしたので疲労がたまっていたのだろう。


 王都に到着してすぐにブルースがした事がある。

 超高級宿を出て、家を探し始めたのだ。

 

「ま、まさかブルー君……私との愛の巣を探して――」


「宿屋ではいつ襲われるかわからないし、家を買ってしまえば侵入者を発見するのは容易になるからね。なんの巣?」


「なんでもない!」


 流石に街中では価格が高すぎるため、業者と一緒に隅っこにある家を見て回る。

 その中で少し古いが部屋数が多く、手入れをしたら住めそうな物件があった。


「おー、おっきいんだな、ダナ!」


「こちらでしたら……この位でいかがでしょうか?」


 どうやらお手頃価格だったようで、その場で契約をする。

 引き渡し前の掃除なども全てやることで、価格を抑えられたようだ。


「さて、それじゃあ掃除をしようか」


「「おー!」」


 掃除には三日ほどかかり、家具なども一通り揃えた事で生活が出来るようになる。

 部屋割で少々問題があり


「私はブルー君と一緒の部屋!」


「私も同じ部屋が良いんだな、ダナ!」


 と言われ、せっかく部屋が多いんだからと必死になだめ、なんとかブルースの部屋の両脇を二人で使う事で決着がついた。

 三人の部屋以外にも客室が四つもあり、リビング、ダイニング、キッチン、浴場、玄関前には庭と小さな噴水も付いている。


「そういえばブルー君、侵入者の発見が楽って言ってたけど、何かするの?」


「何かするっていうか、置いておこうかなって」


 そういうと近接防衛火器システムファランクスを玄関わきに置いた。


「ああなるほどね。ん? でも家の裏は?」


「裏にはこれを置くんだ」


 そう言って直径三十センチの白い球体、下が少し潰れた物を召喚した。

 これは全身包帯巻きの敵と対峙した際に使った物で、周囲を立体的に表示させる立体レーダーだ。


「これがあれば侵入者は直ぐに見つけられるよ」


「「りったいって?」テ?」


 説明が困難だったため、何とな~くで説明をしていた。

 ブルース達が王都にいる時は近接防衛火器システムファランクスを置いたままでいいし、出る時は三人一緒なので問題ない。


 ちなみにレーダーやセンサー類は数種類あるので、留守中も侵入者があった場合はその場でわかる。


「これなら……大丈夫かな」


「ブルースぅ……ごめんね、私が足手まといだからだよね、ヨネ……」 


「そうだね。だからシアン、訓練をしよう!」


「「へ?」」

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