66.マッド? さいえんてぃすと

「エ、エクストラヒールのポーション??」


「そうなんだな! なんだかできそうな気がするんだよ、ダヨ!」


「し、シアンちゃん? それは聖女セイント並みの能力が必要って事なんだよ? わかっていってる?」


「ジーナさんみたいな感じ? うん! 憧れのお姉さんだよ、ダヨ!」


 イマイチ意味が通じていないが、シアンは「オレンジーナの様な女性になれるのなら!」と喜び勇んで部屋へと入っていった。

 それを見てブルースとローザは固まっていた。


「ね、ねぇローザ、魔女ウィッチって確かに珍しいけど、聖女セイント並って事?」


聖女セイントは回復や味方の能力向上がメインだから、相手の能力低下が出来る魔女ウィッチの方が上……かも!?」


 実際にはエクストラヒールが多用でき、ある程度の攻撃能力のある聖女セイントの方が上なのだが、なにぶん魔女ウィッチという未知のスキルのため、正確な能力を理解出来ないでいる。


 そして翌日の朝。


「出来たんだよー! ダヨー!」


 どうやら徹夜をしたようだが、本当に出来てしまったようだ。

 朝食を食べていたブルースとローザは食事を吹き出しそうになり慌てて口に手を当てる。


「で、できたの?」


「うわぁ、出来ちゃったんだ」


 小さな薬瓶を五本持って、嬉しそうにブルースとローザに見せて説明する。


「こっちの青いのが贅沢なラグジュアリーポーションで、緑色がエクストラポーションなんだよ、ダヨ!」


「「ラグジュアリー?」」


 聞きなれない名前が出てきた。

 今現在使われているポーションは「粗悪クルード」「普通ユージュアリ」「高級エクスペンシブ」の三種類。


 贅沢なラグジュアリーというポーションは無い。


「そうなんだな、高級エクスペンシブよりも上だけど、エクストラにはかなわなかったんだな、ダナ!」


 そもそも極上エクストラポーションも無かったので、贅沢なラグジュアリーを含めると新しいポーションが二つ増えた事になる。

 

「これが赤痢せきりで、これはインフルエンザで、こっちが麻疹はしかの薬なんだよ、ダヨ」


 この時代に恐れられた病気三種だ。

 重症化したら死に至る病であり、治療法が確立していない。

 しかしまだシアンは止まらなかった。


「これが石鹸っていって体がキレイになるんだよ、これが消毒っていって悪いバイキンを倒してくれるんだな、ダナ」


「ストップ! ごめんシアン、それって意味あるの?」


 特にブルースは元貴族でありながら、しいたげられていたため衛生観念が全くできていない。

 ローザにしても手洗いの習慣はない。


「病気の予防になるの、ノ」


 エクストラポーションだけでもぶっ飛んでいるのに、全く知らない知識を持っているためブルース達には何が良いのか理解できない。

 なのでとある人物に助けを求めたのだ。


「へぇ衛生ですか。ごく一部の医者が言っていますが、私にもよくわかりません」


 デモンスレイヤー本部で受付嬢ジョディに聞いてみた。

 しかし聞いた事はあっても意味は分かっていないようだ。


「そうですね……いつもならそろそろ来るはずですが」


「ジョディ君! 今日こそ兎人コニードゥの少女の事を教えてもらいますぞ!!」


 扉を乱暴に開けて入ってきた男性は、どうやらシアンに用事があるようだ。

 髪は短くメガネをかけ、長身でとても痩せており白衣を着ている。

 そしてその目にはシアンが映った。


「見つけたー!! さあこっちへ来たまへ! おじさんと良い事をしよう!」


 男性はズカズカとシアンに近づいて手を取ろうとするが、ブルースとローザが立ちはだかる。


「へ、変態! シアンに何をするつもりよ!」


「シアンを渡しはしないよ」


「何だね? 君たちは。ジョディ君この若者は何だね?」


 ジョディはあ~あという表情をしている。

 ため息を一つ付いて、疲れた顔で説明を始める。


「ブルースさん、ローザさん、この人が前に依頼を断った医者のダニエルさんです」

 

「「え?」」


「お医者さん……なの、ナノ?」


「うぉっほん、医者のダニエルだ。分かったらさっさと兎人コニードゥを渡してもらおうか」


「「お断りします!」」


「な、なぜだ!?」


「なんかこのヒト変態っぽいし」


「怪しい人には渡せません」


「へ、変態!? 怪しい!? ジョディ君この子たちは何を言っているのかね!?」


「素直な感想かと思われますが」


「なんだとー! 私が、私が怪しくて変態などと勘違いもはなはだしい! 名誉棄損だ!」


 どうやら本人は気付いていないようだ。

 今のダニエルはよく言ってマッドサイエンティスト、悪く言えばロリコン。

 つまりどう見ても怪しいのだ。


 と、ここでジョディがブルース達を説得し、ブルースとローザがシアンと一緒に行くという条件で話が付いた。


「さあ、君の全てをさらけ出してもらおうか!」


「だからそういう所だって言ってるのが分からないんですか!」


 ダニエルの診療所にいくと、相変わらず誤解される事ばかりを言ってくる。

 ブルースはすでに諦めているが、ローザはまだ信用していないようだ。


「えっと、何から見せればいいのかな、カナ?」


「ふわーっふぁっふぁっふぁ! 全てだ、全てを見せるのだ!」


「分かったんだな、ダナ!」


 何を分かったのか知らないが、ブルースとローザはこの日だけで十日分の疲労を感じていた。

 

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