56.貴族たちの陰謀

 一応は依頼が終わったが、念のために教会に向かうブルース達。

 神父は無事だったが、年齢の事もありシスター達に無理やり休まされていた。


「良かった。神父さんは怪我も無くて」


「ほんとだね! これで神父さんが怪我でもしてたら謝っても謝り切れないよ!」


「牧草の人……悪い人なの、ナノ?」


 シアンも覚えているのだろう、神父にウソをついて荷物を受け取り箱を開け、麻痺の煙を出した事を。

 まぁシアンの場合はオッサンよりも、牧草をもらえなかったのが問題だろうが。


「この事で王都の神父さんに聞いても分からないだろうね」


「だと思うよ! だって神父さんもいきなり命令されたっていうし、たぶん上司は騙されたんだと思う!」


 後味の悪い依頼だが、一応は報酬をもらえたので王都に戻る事にした。

 襲われた事もあり警戒していたのだが、帰り道は安全に戻る事が出来た。


 本当はオレンジーナとエメラルダに連絡を取り、ボーダーレスとして襲われた事を伝えたかったが、二人はボーダーレスとは知られていないし、下手に心配させる必要はないと判断したようだ。


「どうするブルー君。デモンスレイヤーの依頼を受ける? てか受けよう!」


「おお! ローザがヤル気なんだな、ダナ!」


「そうだね、じっとしていても仕方が無いし、相手の情報も無いから調べようもない。依頼を受けて日常を取り戻そうか」


 そして討伐依頼をいくつか受けて、王都の外へと出るのだった。


 ところ変わって時間は少し戻る。

 アボット侯爵の屋敷に、二人の貴族が訪れていた。

 伯爵は含まれていないようだ。


「どうしたものかな、あの若造は」


「まだ敵に回ると決まったわけではないし、まだ手綱は握ったままだと思うが」


「若いが有能には間違いない。何とかこちらに取り込めないだろうか」


 雁首がんくび揃えて何の相談か知らないが、どうやら伯爵とは根本的な考えの違いがあるようだ。

 そんな事は知らずに伯爵が現れた。


「おや、皆さんもうおいででしたか。遅れて申し訳ありません」


「いや構わんよ。たまたま近くで用事があったから早く着いただけだ」


 伯爵もソファーに座ると、改めて話合いが始まる。

 

「ワイズマン家がらみですが、新たに貴族を任命しない様陛下へいかにお願いしました。先の決闘の件もありますし、ひとまずは新しい貴族が産まれる事は無くなるでしょう」


「うむ、ご苦労だった。それでワイズマン家を蹴落とす手配はどうだ?」


「流石に兄弟喧嘩で爵位剥奪は無理でした。やはり聖女セイント剣聖ソードマスターの存在が大きく、直接的には手を出すつもりは無いようです」


「やはりその二人か……聖女セイントは嫁入りすれば問題ないが、剣聖ソードマスターは家を継ぐからな、何か考えねば」


「全く忌々いまいましい。いっそあの地方がモンスターに襲われてしまえばいいモノを」





「ブルー君! 左からも大量に来たよ!」


「まかせて!」


 小型の人型モンスターが数十匹現れ、ブルース達に襲い掛かる。

 重装歩兵ファランクスの装備は付けているので、襲われても問題は無さそうだ。

 ローザはすでに囲まれているため、ブルースに任せるようだ。


「ひや、ひぃやぁ~! キモイんだよ! とってもキモイんだよ、ダヨ!」


「シアンは車から出て来ないで!」


「言われなくても出たくないんだよ、ダヨ!」


 森の木々の合間をぬって走ってくるが、とても素早く木の上からもたくさん来ている。

 だが既に近接防衛火器システムファランクス魔動力機関装甲輸送車ファランクスの荷台に乗っており、いつでも発射可能な状態だ。


「発射!」


 ローザが少し横にずれ、射線上にはモンスターしかいなくなったので攻撃を開始する。

 地面と木の上という事もあり、銃身は上下左右にと忙しく動き回るのだが、ほんの数秒で攻撃が終わった。


 木々は弾丸で伐採され、モンスターがいた直線上だけキレイに木がなぎ倒されている。

 それを見てモンスター達は怯んだのか、ローザは残りをあっという間に片付けた。


「ふぅ~スッキリしたー!」


「百匹くらいって言われてたけど、そんなにいなかったね」


「何言ってるの! 何百匹もいたじゃない、ナイ!」


 実際に居たのは百三十匹ほどだ。

 戦闘もひと段落ついたので、時間もいいので昼休憩をとるようだ。


「ねぇどうする? このまま次の依頼に行く?」


「そうだね、まだ時間もあるし、次のもやってしまおっか」


「ブルースのご飯おいしいんだよ~、ダヨ!」


 食事が終わり少し雑談をすると、次の目標へ向けて歩き出す。

 森の中を進み次のターゲットを探しているのだが、次は大型モンスターなのですぐに見つかる……はずだった。


 だが三人の背後から何やら知らない気配が近づいて来る。


「ブルー君……」


「うん、何かいるね」


 シアンは二人を見て何を言ってるのかと後ろを振り向くが、そこには何もいない。


「何もいないよ、ヨ?」


 木の葉が激しくこすれる音がする。

 音は背後から一気に三人の前方に移動し、目の前に四つん這いに着地する。

 

 その姿は人間……だと思われるが、全身に包帯が巻かれて血が染み出し、頭はヘルメットをかぶった上から包帯がまかれ、目と口だけがむき出しになっていた。

 目はまぶたがないのか充血した目玉、唇がないのか歯と歯茎はぐきがむき出しだ。


「な!? なんだコレ!!」

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