57.激闘
三人の目の前には異様な
四つん這いで姿勢を低くしているソレは、全身に包帯が巻かれて血がにじみ出し、包帯の隙間から見える
「シアンは
「わ、わかったんだな、ダナ」
ブルースとローザは武器を構えているが、ローザの様子がおかしい。
「ブルー君! コイツおかしいよ!」
「え? そりゃ見た目からしておかしいけど……」
「そうじゃない! コイツは人間? 人間だとしたらスキルは一体何よ!」
言われて気が付く。
この世界の人間は必ずスキルをもって生れて来る。
こうやって姿をさらすという事は戦闘系のスキル持ちだと思われるが、このような四つん這いの体勢で戦うスキルなど知らない。
「じゃあモンスター?」
「こんな人間みたいなモンスター、聞いた事がないよ」
姿は異様だが、体型や大きさは間違いなく人間に見える。
手、首、胴体、足、人間が四つん這いになったらこういう格好になる、そうとしか思えない形だ。
二人のやり取りなどお構いなしにソレは襲い掛かる。
ブルースに飛び掛かり両手で掴みかかろうとするが、盾で防いで剣で切り付けると防ぐことなく腕に命中する。
しかしソレは防御をするわけでもなく剣は包帯で止まり、何事も無かった様に更に力を入れてブルースの盾をどかそうとする。
「剣ならこっちの方が上よ!」
ローザが斬りかかると流石にかわして距離を取り、今度はローザに
大剣で斬りつけるが今度は左の手のひらでつかみ、ローザと力比べを始める。
「くっ! くぉんのお!」
ローザが全力で剣を押しているが徐々に押し返されていく。
「離れろ!!」
ブルースがソレの横腹に剣を突きたてるがやはり刺さらない。
しかし何とか引き離す事に成功して畳みかける。
「
少し距離があるので
「そ、そんな!?」
ソレは地面だろうか木だろうが平気で移動して、目で追うのもやっとなほどだ。
しかも
「キャー! 気持ち悪いんだよ! ブルース、ブルース、スー!」
目標を変えてシアンの方に行ってしまった。
運転席の窓にしがみ付いて全身を使って暴れ回っているため、
「シアン!」
「シアンちゃん!」
急いで
車内ではシアンが泣きじゃくっている。
「なんて速さだ。僕じゃ全く追いつけない」
「私もだよ。技を使おうにも追いつけないんじゃ意味がない」
周囲を見回すがすでに姿はなく、風で枝が揺れるだけだ。
「……どっか行っちゃった?」
「分からない。隠れてるかもしれない」
やはり反応がない。
どこかへと行ってしまったのだろうか。
そう気が緩んだ瞬間だった。
ローザが足を押さえて叫び声を上げた。
「きゃあ! ブルー君下だよ! 車の下にいる!!」
車の下を見ると包帯を巻いた腕が引っ込むのが見えた。
「このぉ!」
屈んで車の下に剣を刺し込むが反応はなく、警戒して覗き込むが何もいない。
今度は
だが右腕が折れて胴体が数か所へこんでいるが、変わらず素早く動いている。
「ばっ、化け物か」
そして今度は装甲車の前側に逃げていくと、やはり
まさかの
そのままアレは森の中へと姿を消す。
「いたたた、アレはどう? 倒せた?」
ローザはポーションを飲んだようで、足首の怪我は治っていた。
しかし二本飲んでいるので、どうやら毒も入っていたようだ。
「ダメだったよ」
「アレは一体何なんだろうね。相変わらずスキルも全くわかんないや」
ガラスを叩く音がする、音の方を見るとシアンがドアのガラスを叩いていた。
「ブルースぅ、出して欲しいんだな、ダナ」
「ダメだよシアン。あいつは危険すぎる!」
「違うんだよ。この車が邪魔だから、シアンはどこかに隠れてるんだな、ダナ」
確かに
だからと言って戦闘力のないシアンを外に出していいものだろうか。
「わかった。今のうちにスーツに融合しよう」
「ブルー君!?」
更に
「ローザ、シアンの護衛をお願い。僕はあいつを警戒するから」
「で、でもブルー君一人だけじゃ……」
「大丈夫、まだこいつには色んな機能があるから」
そう言って右肩にガトリングガンが装備されると、左肩には大きな球状のレーダーが現れた。
すると。
「見つけた!」
消えた方向とは違う方向を向くとレーダーを収納し、パワードスーツの足の裏にローラーが現れて高速移動を開始する。
ガトリングガンを発射しながら走っていくと、大きな木の枝の裏に隠れていたソレが姿を現した。
折れたはずの右腕が無くなっているが、やはり素早い動きで木の上を飛んで移動している。
「逃がさない!!」
二人と距離を置き、ここまで接近したら射角など関係ない。
ソレに向けてひたすら打ちまくり、逃げていく先の木をあらかじめ粉砕する事で逃げ道を無くしていく。
飛び移る木が無くなった事で、遂にブルースへと襲い掛かってきた。
「力比べなら負けはしない!」
ソレの左手を右手で受け止め、左手で肩を掴む。
流石にこの状態ならば力負けする事は無く、コレの左手を握りつぶす事が出来た。
「ウガァ! シャー! グガァァアアァア!」
左手が潰され右腕は無い、だが口があるといわんばかりに噛みつこうとしているが、力比べで負けているので届いていない。
ブルースはそのまま上にのしかかり、逃げられないように足で押さえつけようと肩から手を離した……その瞬間だった。
ソレは潰された左手を自ら引きちぎり、ブルースの腹を蹴って逃げ出したのだ。
「な!? くそっ逃がすか!!」
ガトリングガンを発射してローラーで追いかける。
姿が見えているがあまりに上下左右に動き回るためなかなか命中しない。
それどころか木が倒れて進路を邪魔されてしまう。
何とか避けながら追いかけるのだが、そうなると向こうの方が速度が出てしまい距離が離れていく。
そして最後には崖が現れて、ソレは崖の下へと飛び出してしまったのだ。
「これじゃぁ……レーダーからも消えてしまった」
だがここまで出来たのだから、もう追いかけてくる事は無いだろうと元の場所へと戻る事にした。
だが逃がしてしまった事が悔やまれる。
「ブルー君!」
「ブルース、ス!」
落胆して帰ってきたブルースを二人が出迎える。
ガトリングガンとレーダーを収納し、落ち込んだ声で二人の声に右手を上げる。
「ごめん、逃げられちゃった」
「そんな事いいよ、ブルー君が無事なら」
「ブルース、怪我無い、ナイ?」
「うん、大丈夫だよ」
しかし流石に疲れたのだろう、近くにある石に腰を掛けた。
瞬間、石は大爆発を起こすのだった。
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