55.ボーダーレスになる為の条件

「ブルース・フォン・ワイズマン。お前はどうやってランクアップした? 重装歩兵ファランクスなどと言う時代遅れスキルで、どうやってボーダーレスになりえたのだ」


 ブルースがボーダーレスだという事は、実のところ一部の人間しか気が付いていなかった。

 過去の学者が出した予言は誰もが知っているが、誰もボーダーレスにならないため風化していたのだ。

 そのため周囲の人間はブルースの事を『ファランクスなのに強い奴』としか見ていない。


 精々でも一部の人間が、ゴミスキルと言われる自分のスキルに磨きをかけ始めた、という程度だ。

 なので予言の言葉を信じて動くものは本当に少ない。


「なんの、こと? 僕は、ただのファランクスだよ」


「ただの、じゃねーでしょうが。あんな子龍こりゅうや鉄の馬車を使役しておいて、ねぇ?」


 どうやら近接防衛火器システムファランクスの事を子竜と呼んでいるようだ。

 ブルースはイスに括りつけられているローザとシアンを見ると、小さなため息をついて目を閉じ、大きく息を吸うとともに目を開けた。


「どうやって、と言われても、僕にだってわからないよ。ある日突然使えるようになったんだから」


「だからそれを聞いておるのじゃ。使えるようになる前に何か無かったか? きっかけとなりそうな出来事があったはずじゃ」


「……暗殺者アサシンに命を狙われた」


「でもでもでも、暗殺者アサシンに狙われただけじゃ、他にもいっぱいいるよ?」


 暗殺者アサシンに狙われただけなら、他の者もボーダーレスになっているだろう。

 生きているかどうかは別として。

 しかしブルースも理由など知らないため、これ以上は言いようがない。


「他にあるじゃろ? 変わった訓練をしたとか、特殊なアイテムを使用したとかのぅ」


 変わった訓練と言われても思い当たらない。

 ただ少しだけ他人と違うところは心当たりがある。


「……まとにされた」


「「「「「はぁ?」」」」」


重装歩兵ファランクスだと分かってから、兄や先輩たちに色々な的にされた」


 ブルースの黒歴史と言ってもいいが、自分でもボーダーレスの理由を知りたいと思ったのか、思い付く事を素直に話ている。

 だがそれで満足する連中ではなかったようだ。


「ふざけるな! そんな事でボーダーレスになるのなら、他にも虐げられたスキルは山ほどある!」


 確かに他にも役立たずなスキルは沢山ある。

 それが原因でイジメや虐待などは当たり前と言っていい。


「いい加減しゃべっちゃくれねーかな。俺達もひまじゃ~ねーのよ」


 そう言って意識を失っているシアンの首にナイフを当てる。

 

「や、やめろ! シアンに手を出すな! 文句があるなら僕にやればいいだろう!!」


「ん……ん~……どうしたのブルー君、大声をだして……あれ? ここどこ?」


 ブルースの声でローザが目覚めたようだ。

 ローザは周囲を見回してブルースを確認すると、驚いて大声を上げる。


「ブルー君!? ちょっとなにその恰好! ちょっとまって、今助けて……ん?」


 急いで立ち上がろうとしたが、自分はイスにロープで縛られているのに気が付いた。

 普通ならばここで絶望するのだが……?


「ふん!」


 体に力を入れると腕を縛ってあるロープを引きちぎり、立ち上がると今度は足のロープをブチブチと引きちぎってしまった。


「「「「「な、なにぃ~!?」」」」」


 流石にコレは想像できなかった様で、シアンに当てていたナイフが床に落ちる。

 その音を聞いてローザはシアンのイスを素早くつかみ、片手に抱えてもってブルースの側へと走り寄る。


「待っててねブルー君! 今助けてあげるから!」


 イスを側に置いて、ブルースを固定してある各関節の金属をバリバリと引っぺがす。


「……あの金具は不良品か?」


「んなわきゃねーでしょうが」


「でもでもでも、バリバリーって壊れちゃったよ?」


「あの嬢ちゃんはただの剣士ソードマンのはずじゃがのぅ」


「あの怪力は我らよりも上かもしれぬな」


 金具が全て取り払われ、ブルースは自らの足て地面に立つ。

 

「ごめんねブルー君、遅くなっちゃって」


「大丈夫だよ。それより僕もゴメン、こんな事態になってしまって」


 キッと五人を睨みつけると、ブルースは重装歩兵ファランクスの装備を召喚して纏う。


「君たちは一体何者? 僕たちを捕らえて情報を聞いて、一体何をするつもりだったの?」


「ふん! 貴様などに答える理由がないな。家を追い出され、暗殺までされそうになる奴にはな」


 え? とローザがブルースを見るが、ブルースは少し歯を噛みしめる。


「僕はもうワイズマン家とは関係がない。これ以上はもういいよ、二度と手出しできないようにするから」


 近接防衛火器システムファランクスを呼び出し、問答無用で射撃を開始する。

 倉庫内の物が粉々に吹き飛び壁に穴が開く。

 煙や破片で倉庫内の視界が悪くなるが、五人はまるで煙の様に姿を消してしまう。


 だが近接防衛火器システムファランクスは射撃をやめる事なく、まるで見えない何かを追う様に右に回転しながら攻撃を続ける。

 何度か血煙が上がり、何かに命中したのかと思うと、近接防衛火器システムファランクスは射撃をやめた。


「もういない……のかな」


「最後に血が飛んだけど、見えない状態で移動してたって事?」


「恐らくね」


 煙が収まり、倉庫内の様子が見えるようになってきた。

 血の跡は確実にあるが、死体が無いことから逃げられてと見ていいだろう。


『クックックック。我らに手傷を負わせたことを誉めてやろう。だがお前達に安息が訪れる事は無い、永遠に怯えて暮らすがよい』


 フルフェイスの男だろうか、ごもった声が響き、それ以降は空気が変わった様に倉庫内が明るくなった。


「一体何者なんだろう」


「全くだね! ブルー君を狙うなんて、ぜーったいに許さないんだからね!!」


「ふあ……あれ、ここ、どこなの、ナノ?」


 シアンが目を覚まし、倉庫に開いた穴から外に出た。


 ☆★???★☆

「無駄足だったな」


「何の情報も無かったなぁ~。骨折り損のくたびれ儲けだぜぁ」


「でもでもでも、子竜に狙われても逃げられたよ?」


「うむ、対処できない物ではない様じゃな」


「弱点は多いようだ。我らの当面の目標は、あの子龍対策となるであろう」

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