47.対魔法戦 重装歩兵Ver2

近接防衛火器システムファランクス!」


 ブルースは落ち着いて近接防衛火器システムファランクスを呼び出し、襲い掛かる火の玉を全て撃ち落としてしまった。

 一瞬の爆音だったが、その一瞬で百近くあった火の玉全てが消滅してしまったのだ。


 流れ弾がスタンドの観客に当たる前に、防御フィールドにより止められた。

 だが弾丸が当たった箇所は亀裂が入ったため、専属の魔法使いウィザードたちは慌ててフィールドを張り直す。


 聞いた事の無い爆音に、観客はおろかシャルトルゼですら頭を押さえてしゃがみ込んでいた。

 何が起きたのか理解できないまま周囲を見回すが、シャルトルゼが発射したはずの火の玉は無くなり、目の前には見たこともない金属のがあった。


「な……なんだ今の音は? おいブルース! お前がやったのか! それにそれは何だ!!」


「これは僕のスキルだよ兄さん」


「ふざけるな! お前はファランクスだろうが! その不格好な鎧を纏って相手に突進するだけの存在だ!」


「そうだね、最初はそうだったよ。でも今はコレも使えるんだよ」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスを呼び出し、素早く乗り込むとシャルトルゼへ向けて突進する。

 鉄の馬車の事は知られているが、あくまでも鍛冶屋と共同で作った道具としてだ。

 スキルとして行使できる事はごく一部の人間しか知らない。


「うわっ!? な、なんなんだ! 一体どこから現れたんだ!」


 横に飛び辛うじて魔動力機関装甲輸送車ファランクスとの衝突を回避したシャルトルゼ。

 しかし知らない事の連続にすっかり冷静さを欠いてしまい、近接防衛火器システムファランクスの事を忘れていたのだ。


 一秒ほどの連続した爆音と共に、シャルトルゼの周囲は着弾の衝撃で砂埃や石の破片が飛び散る。

 まるで子供が怯えるようにしゃがみ込み、頭と顔を両腕で覆っている。


 砂埃が収まり姿を現したシャルトルゼは気丈に振る舞い立ち上がるのだが、その顔は強張こわばり、石の破片で服があちこち破れていた。


「これが今の僕の力だよ、シャル兄さん」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスから降りてシャルトルゼに向き直ると、シャルトルゼは必死に気丈に振る舞い、服に着いたほこりをはらうと、長い癖のある髪に手ぐしを入れて整える。

 何とか表情の強張りは無くなったが、その目はとても慈愛に満ちていた。


「凄いじゃないかブルース! 努力したんだな、その努力を称えよう。おめでとう」


 そう言って歩み寄ると右手を差し出す。

 握手をしようというのだろうか? ブルースは差し出された手を思わず握り返すが、その瞬間にシャルトルゼの顔は怒りで狂ったのかと思うほどの形相に変わる。


 力いっぱい握ったかと思うと空いた左手でブルースを殴り始める。


「ふざけるなこのカスめがぁ! お前は何だ!? ブルースだろうが! 時代遅れでグズで無能で不細工でクソの臭いがして人に迷惑をかけて腰抜けで盗人で空気が読めなくて万年負け犬で短小包茎でひき肉で病気持ちで存在感皆無でジーナ姉さんの金魚の糞の分際でぇ!!」


 何度も何度も殴っているが、しょせんは魔法使いウィザードの拳、ブルースには全くダメージは無かった。

 なかったのだが、流石にこれだけの罵倒を浴びせられて落ち込んでいる。


「お前など、お前などミンチになってしまえ!!」


 両手でブルースの首を絞めると、何やら呪文を唱え始める。

 ブルースの足元が凍り始め、腰のあたりまで氷で埋まってしまった。

 シャルトルゼは手を離して距離を取り、狂ったような大声で叫びだす。


「ははっははは! これで逃げられまい! 食らえ岩石落しロックフォール!」


 上空から巨大な岩が落下してくる。

 数百メートル上空から約十メートルはあろう岩がブルースめがけて落ちてきたのだ。

 数秒後、秒速百メートルを超えた巨大な岩石がブルースに直撃し、岩石は半分近くが地面に埋まった。


 衝撃で突風が吹き荒れ小石があちこちに飛んでいく。


「はーっはっはっはっはぁ! ミンチどころじゃなく、ただのズダボロのゴミになってしまったな!」


 埋まった岩石に近づいて数回手で叩く。

 もう勝負が終わった安心感からか、岩に背を向けて審判に合図をする。


「さあ勝負はついた! 審判、私の勝利宣言をしろ!」


 審判たちは岩石に近づいて来るが、その下に居るはずのブルースを確認できるはずもなく、またこの状態で生きているとは到底思えないため、シャルトルゼの腕を掴んで高く掲げる。


「勝者! シャルトル――」


 地響きがした。

 まるで巨人が歩いている様な音がするが、周りを見てもそんな者が居るはずがない。

 ではどこから……音は直ぐ近くでなっていた。


 音は回を追うごとに大きくなり、シャルトルゼはしきりに周囲を見回すのだが、ふと観客たちが一点を見ている事に気が付く。

 その見ている先には……岩石があった。


 音と共に岩石が揺れ、しまいには岩石が一瞬宙に浮く。

 しばらく音がやみ、一体何があったのかと岩石に近づくと、ひと際大きな音と共に岩石が破裂した。


「うわああぁ! 何だ!? い、一体何が起きたんだ!」


 岩石は六等分に割れ、その中の一つが浮いてシャルトルゼに近づいて来る。

 後ずさりするように距離を取ると、岩石の全貌が目に入った。


「シャル兄さん、そこまで僕の事が嫌いだったの……?」


 ブルースが岩石を持ち上げ、歩いてきたのだ。

 くぼみから完全に出ると岩石を投げ捨て、少し涙ぐんで鼻をすする。


「だ、誰だ……誰なんだよお前はぁ!」


「僕は僕だよ。兄さんの弟のブルースだよ」


 さっきまでボロボロだった鎧は新品の様にキレイになり、その姿は鎧を纏うというよりも、パワードスーツを身に付けているようにも見える。


 ★☆天界☆★

「ちょっと? あれはなに?」


「あれは……? 知らない、私も見たことが無いよ。少なくともファランクスにあんな姿はないはずさ」


「どうなってるの? ブルースに一体何が起きたっていうの?」

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