48.三位一体

「おかしいな、ファランクスにあんな物は無かったはずだけど」


 男神が丸く映し出された映像を見て首をかしげている。

 それもそのはず、自らが書いたファランクス辞典にはあんなものは存在していないのだから。


「じゃあアレはなに? あなたが知らないんじゃ私にはわからないわよ?」


「それなんだけど……ブルースのスキルブックの内容を確認できるかい?」


「出来るわよ。えーっと管理者権限でステータス画面を表示させてっと……はいコレ」


 まるで透明なパネルがあるかのように、空間にステータスが表示される。

 それを男神の方に移動させると、男神は順番にページをめくっていく。


「う~ん、やっぱりあんな姿は書かれていないね。重装歩兵の鎧も違うし、魔動力機関まどうりょくきかん装甲輸送車そうこうゆそうしゃや近接防衛火器システムにもない」


「ちょっと? あなたがそんなんだと困るんだけど!? あんまりとびぬけた事すると主神様が出張でばってきちゃうじゃない!」


「そ、そんな事を言われても、私にだって何が起きているか……あ」


「何かわかったの?」


「多分コレかな。近接防衛火器システムファランクスの最終形態だけど、大戦が勃発した際に艦船に内蔵されたんだ。使う時だけ銃身やミサイル発射口を甲板に出すんだけど、その姿はあまりに艦船に溶け込んでいるから融合形態って呼ばれている。その融合形態が重装歩兵、魔動力機関まどうりょくきかん装甲輸送車そうこうゆそうしゃ、近接防衛火器システムの三つを融合させたんだとしたら……」


 ☆★地上★☆

「誰だ、お前は一体誰なんだ!」


「僕だよシャル兄さん。これは僕の一番新しいファランクスの形態さ」


 パワードスーツのようなその姿は、すでに誰もが知っている重装歩兵とは似ても似つかなかった。

 装甲は魔動力機関まどうりょくきかん装甲輸送車そうこうゆそうしゃの複合装甲が使われ、魔動力機関により各種行動にサポートが入り、背中には大きなラックが背負われている。


「そんなファランクスがいるか! なら魔法で焼け死んでしまえ!!」


 火炎放射器の様にシャルトルゼの指先から炎が発射され、ブルースに命中すると炎上する。

 炎は消える事なくまとわりつく様に燃え続け、熱だけで中の人間は焼け死んでしまいそうだ。

 だが炎の中からブルースが現れ、何事も無かった様に歩いている。


「この鎧に炎は効かないよ。冷気も電撃も通用しない」


 普通なら炎で酸素が消費され酸欠になるのだが、元々は潜水艦にもなる魔動力機関まどうりょくきかん装甲輸送車そうこうゆそうしゃなので、酸素の供給も出来るようだ。

 全くの無傷でシャルトルゼに近づき手を伸ばすが、シャルトルゼはジャンプで後方に下がる。


「ふん! 魔法は炎や氷、雷だけではない! こんな事も出来るのさ!」


 ブルースの足元が急激に盛り上がり十メートル程の高さまで上がって止まる。

 石が盛り上がったが、それだけなのでブルースは戸惑っているのだが……石ではなかった。

 なんと無数の昆虫が地面から湧いて出てブルースを持ち上げたのだった。


 昆虫はブルースの体にまとわりつき、強靭なアゴや針で攻撃するが複合装甲に阻まれる。

 するとどうだろう、昆虫は口や尻から液体を出し始めた。

 液体に触れた場所は煙を上げて溶け始め、一匹一匹ならばたいしたことないが、無数の昆虫によって装甲がなくなっていく。


「この装甲を溶かすなんて! 早く抜け出さないと……うわぁ!」


 昆虫に飲み込まれ、ブルースの姿が見えなくなってしまう。

 無数の昆虫がうごめいているので、中ではブルースが溶かされているのだろうか。


「ははっははは! どうだ! 魔法は色々な事が出来るんだ! お前の様に頑丈なだけが取り柄の奴なんて相手じゃないのさ!」

 

 昆虫が中へ中へと入ろうとしているのか、まるでダンゴの様に丸くなっていく。

 だがその昆虫たちは、爆音と共に霧散していくのだった。


 ダンゴの内部から連続した爆発音が鳴り響き、無数の昆虫たちはボトボトと地面に落ちて動かなくなる。

 ダンゴが崩れて地面に流れるように落ちていくと、中からブルースが現れた。


 右肩にはガトリングガンが乗り、両腕の下には四つのミサイル発射口が付いている。

 断続的にガトリングガンが火を噴き、周囲の昆虫を撃ち落とす。

 弾丸が当たらなくとも発射の衝撃や閃光でボトボトと落ちていく。


「ちょっと驚いたけど、撃てば問題なく死ぬんだね」


 健在なブルースを見て舌打ちをする。

 そして次はブルースの番だといわんばかりに右肩のガトリングガンが回転を始める。


「シャル兄さん、避けて」


 足元に無数の榴弾が命中し、またもや砂埃と小石に攻撃されるシャルトルゼ。

 だがそれだけの攻撃ならば平気だと知っているので、シャルトルゼは魔法の詠唱を開始する。


「お前の様な腰抜けは人を殺す事も出来ないだろう! 臆病者は死んでも治らないからな!」


 何かを受け止めるように両手を上に向けると、真っ黒い穴が開いた。

 いや穴のように見えるが光を一切通さない黒い球体だ。

 

真黒ベンタブラック


 ゆっくりと、まるで風船がそよ風に運ばれるようにゆっくりと黒い塊がブルースへ向けて移動する。

 ブルースは迷うことなく黒い塊に向けて発砲するんだが、なんと弾丸が吸い込まれるだけで変化が無い。

 ならばと腕からミサイルを発射するが、黒い塊に吸い込まれるだけだった。


「はっはっはっはぁ! 真黒ベンタブラックは全てを吸収する! 中に入ったら光すら出て来れないのさ!」


 ガトリングガンを連続発射し、ミサイルも全て発射するが本当に何も起こらない。

 いや……大きくなっている。

 黒い塊・真黒ベンタブラックはその大きさを増して直径二十メートル近くにまで成長していた。


 動きが遅いため接近されても軽く回避できるのだが……それは罠だった。

 遅いと思っていた真黒ベンタブラックは吸い込まれるようにブルースへと近づき上半身を飲み込んでしまったのだ。

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