46.重装歩兵しか使えない戦い
ブルースが姿を消して四日後、シャルトルゼが王宮におもむいた。
「
ブルースが姿を消した事を知らないが、さっさと終わらせてしまいたいため自ら動いたようだ。
早く終わらせれば早い時期の良い日時を結婚式に当てられる事もある。
「そうか、それに関しては何も言わぬ。好きに決めよ」
「ありがとうございます! では十日後に決闘を行います」
十日後に闘技場で決闘する事が決まり、その話はその日のうちに方々へと伝わった。
単純に娯楽が提供されて喜ぶ者、思惑通りに事が運んで喜ぶ者、儲け話だと喜ぶ者、自分達にも被害が及ぶかもしれないと恐れる者、弱者に頑張って欲しいと応援する者。
様々な思考が入り乱れ、遂に十日間が過ぎた。
「ほほぉ、かなりの入りではないか」
「最近は戦争ばかりで闘技場は使われなかったからな」
「久しぶりの大きな娯楽に、賭けも大盛況ですね」
「くっはっはっは、小遣い程度には儲かるな」
アボット侯爵ら四人の貴族が貴族席に座り、葉巻をふかしながらワイングラスを持つ。
少し周囲を見回すが、開始までもう少し時間があるため空席も多い。
「それにしても勝てる決闘をけしかけて、勝てば勝ったでワイズマン家は落ちていくとは面白いな」
「全くだ。伯爵も面白い事を考えるものだ」
「ありがとうございます。それが実行できたのは皆様のお陰です」
当たり前だといわんばかりに自慢げに笑いだす三人。
影響力の大きな三人とその夫人だからこそとも言えるが、そもそもうまく運べる案を考えたのは伯爵なのだが。
国王も専用の席についたようで、後は選手の入場を待つだけとなった。
場所は変わってブルースの控室。
「ブルーは居ないのよね?」
控室の中で、オレンジーナ、エメラルダ、ローザ、シオンの四人は少し浮足立っていた。
オレンジーナとしては勝ち目のない戦いに出て欲しくないし、他の三人もその意見には賛成している。
しかし……だからと言って逃げたとは考えたくない。
あれからブルースとは連絡が取れず、どこで何をしているのか全くわからない。
以前シャルトルゼに空間魔法で山の上空に転移させられた事があったが、今回はそんな魔法を使えるものがおらず、一体どうやってどこへ行ったのか分からないのだ。
重装歩兵しか使えないブルースに勝ち目は無いし、戦っても無駄に怪我をするだけ。
それならば逃げた方が良い、そう考えているのだが……内心は複雑そうだ。
部屋の扉がノックされた。
「ブルース選手、時間ですのでアリーナへ出てください」
しかし部屋にブルースがいないので、代わりにオレンジーナが扉を開ける。
「私がまいりましょう」
「わかりました。ではこちらへ」
ブルースがいない事を係員は知っており、しかも勝負の商品がオレンジーナであることを知っている。
しかし係員が知っているウワサは、オレンジーナとシャルトルゼが両思いであり、ブルースに縛られているというモノだ。
なので囚われの姫を解放している気分だろう。
アリーナには既にシャルトルゼが出ており、反対側の口からオレンジーナが出て来た。
ブルースではなくオレンジーナが出たことで会場はざわめくが、その説明のアナウンスが流れる。
『出場予定だったブルース選手は、時間になっても現れませんでした。なのでシャルトルゼ選手の不戦勝とな――』
「ここにいるぞ!!」
アナウンスを遮り、何者かが上空から舞い降りて来た。
激しい音を上げて膝を付く様に着地する。
全身が金属の鎧で覆われているが、鎧はあちこちが傷だらけで破損が大きい。
鎧の人物がゆっくりと立ち上がると、静かに兜を脱いだ。
「ブルー!? どうして来たのよ!」
ブルースの顔はアザだらけで、血が固まったような跡もある。
「エクストラヒー……」
「お待ちください
係の者に言われて手を止めるオレンジーナ。
ブルースがここに来た意図がわからない以上、下手に手出しをしない方が良いだろう。
「シャル兄さん、お望み通りやって来たよ」
「はははっ! 逃げ出さなかったのかブルース。褒める必要も無いが、ただの時間の無駄だ。観客を喜ばせる事は出来るだろうが、あまりに短いとクレームが入るぞ?」
「大丈夫だよ。今の僕なら兄さんも満足してくれるはずさ」
「大口をたたくようになったな! 審判! 姉さんを控室に案内しろ!」
オレンジーナはアリーナから連れ出され、数名の審判とブルース、シャルトルゼの二人が残った。
ブルースはシャルトルゼを睨みつけているが、シャルトルゼはブルースを見る事すらなく、出て行ったオレンジーナを見ていた。
闘技場のアリーナは百五十メートル×百メートルの楕円形で、スタンドの収容人数は四万人を超える。
石床の上に土が敷き詰められた地面だが、あまり深くはないので足場が悪いというほどではない。
『それでは両名準備はよろしいですね! シャルトルゼvsブルースの決闘、レディ……ゴー!!』
試合が開始され、シャルトルゼは右手を高く掲げて手を開く。
手のひらに炎が渦巻き始め、徐々に大きさを増していき一メートル程になった時、大量の火の玉がブルースめがけて飛んでいく。
「
百近い炎の玉がブルースに襲い掛かる!
今のブルースはすでに
だがブルースはとても落ち着きこう言った。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます