44.決闘は決定事項のようです

「もちろん私とジーナ姉さんの結婚式ですよ」


 シャルトルゼが満面の笑みでオレンジーナに顔を近づける。

 そのオレンジーナの顔は困惑し、徐々に恐怖に染まり、弾く様にシャルトルゼの手を離す。


「な! 何を言っているの!? どうして私とあなたが結婚する話になっているのよ!」


「知らないんですか? 決闘の勝者には何でも一つ望みを叶えてもらえるそうですよ。なので私はジーナ姉さんとの結婚を望んだのです」


 オレンジーナとシャルトルゼは義理ではなく、しっかり血がつながっている。

 今までもオレンジーナに対してだけ態度が違っていたが、憧れや尊敬だけではなかったようだ。


「本人を無視して話を進めるのはどうかと思うわ」


「大丈夫ですよ、あのアボット侯爵が陛下へいかに確認を取りました。特殊な国宝でもない限りは欲しい物を授けると」


 なんと国王陛下へいかのお墨付きだった。

 オレンジーナはどうしてウワサ話がこうなったのか理解できない。

 当初の目的ではブルースがシャルトルゼに仕返しをしても、元々はシャルトルゼが悪かったという図式を作るためだ。


 それがどうだろう、あまりにシャルトルゼに都合のいい方向に話が進んでいる。

 

「……なら式の準備は無駄になるわね。勝つのはブルーよ」


 握られていた手をハンカチでぬぐい、少し震えながら気丈を振る舞う。

 あまりに予想外、あまりに理解の外、あまりの申し出に頭が追いついていない。


「はっはっは、それは面白い冗談ですね。私がブルースに負けると? 今までもこれからも、それこそ天地がひっくり返ってもあり得ませんよ」


 そう言って一歩近づくが、オレンジーナは後ずさりする。


「ふふふ、式の準備がありますので私はこれで」




「ねぇブルー君、王都には久しぶりに来たから楽しいんだけど、そろそろ暴れたい!」


「え~? 私はこのままノンビリしたいんだな、ダナ」


 宿の朝食時、ブルース達三人はゆっくりとした生活を送っていた。

 今までが随分と忙しすぎたのでたまには息抜きも必要なのだが、ローザは剣を振り回せないのがご不満のようだ。


「確かにノンビリし過ぎると体がなまっちゃうね。でもどうしよう、運送業の仕事でも再開する?」


「デモンスレイヤーの仕事を受けようよ! 王都の周りには名の通ったモンスターがいるから、それの退治依頼があると思うし!」


 王都はその大きさから森や山といった魔物が出やすい場所と接している。

 街の安全のために定期的な討伐が行われており、その規模も大きいようだ。

 元デモンスレイヤーのローザがいれば話も早いだろうし、簡単なものを受けようとデモンスレイヤーの施設へと向かう。


「たのもー!」


 木製のドアを壊れそうな勢いで開け、ローザは元気に建物に入る。


「ちょっと!? もう少し静かに入ろうよ!」


「大丈夫大丈夫! ここはそんな事気にしなくっても大丈夫だから!」


 と、元気に歩くローザの前に、メガネをかけたお姉さんが立ちふさがる。


「気にしますよ。ローザさんは以前、扉を破壊しているのですからね」

 

 どうやら前科があったようだ。

 それを言われると弱いのか、ローザは頭をかく。


「や、やぁ~久しぶりジョディ」


 珍しく声が小さいローザ。

 バツが悪そうに上目遣いに顔を見ると、ジョディと呼ばれた女性はメガネをクイッと上げる。


「お久しぶりですねローザさん。本日はどんなご用件でしょうか」


「えっとね! 暇になったからデモンスレイヤーの仕事をしようかなって!」


 小さくなっていたのは一瞬で、要件を言うローザの元気が元に戻る。

 ジョディは小さなため息をつき、受付カウンターへと誘導した。


「それで、どんな相手が良いんですか?」


「強い奴が良いな! 一匹倒したら一年は働かなくてもいいやつ!」


 無表情でメガネを持ち上げ、何やら資料を探していた手が止まる。

 しかし無表情だった顔が少し曇った。


「……ローザさんとブルースさん、シアンさんで受けますか?」


「うん! 三人で受けるよ!」


 ローザは気付いていないが、ブルースとシアンはジョディの顔を見た。


「三人での仕事はありませんが、ブルースさんの単独での仕事ならあります」


「え? やだよそんなの! ブルー君と一緒に仕事したいんだから!」


「いえその前に、どうして僕とシアンの事を知ってるんですか?」


「あなた方は貴族の間で有名なんですよ。もちろん勇者を倒した事ではなく、とあるウワサについてです」


「「「ウワサ?」」サ?」


「ブルースさんと、兄であるシャルトルゼで、聖女セイントオレンジーナをかけて決闘すると」


 三人は揃って首をひねる。

 ジョディ自身も言っている事が意味不明なのは理解しているが、そういうウワサがたち、決闘へ向けてシャルトルゼは動いているようだ。


「あの、どうして僕がシャル兄さんと決闘を? しかもジーナ姉さんをかけて?」


「やはりウワサはウワサなんですね。聖女セイントオレンジーナがブルースさんを鬱陶しく思い、シャルトルゼに相談をしたそうです。あと腐れのないようにブルースさんに決闘を申し込み、聖女セイントオレンジーナに近づかないようにすると」


「初耳だよ! だいたいジーナさんがブルー君を鬱陶しく思うはずがないじゃない!」


「そうだよ! ジーナもエメも、ブルーのこと、大好きだもん! モン!」


「エメ? ああエメラルダさんですね。そちらのウワサは聞いていませんが、本人が知らない所で話が進んでいるという事は、それを利用しようとするやからがいるのでしょうね」


 仕事を受けるどころではなくなり、宿に戻ってきた三人。

 デモンスレイヤーで聞いたウワサ話は誰かの思惑が入っているようだが、本人達には全く心当たりがない。


「ねぇブルー君、お兄さんと決闘なんてしないよね?」


「やられた事への仕返しはしようと思ってたけど、まさか決闘なんて話が出るなんて思わなかったよ」


「兄弟喧嘩ダメ! 兄弟は仲良くしないと! ト!」


 そう言われてもブルースにはどうしようもできない。

 決闘の話は王族にまで行っているらしく、すでにブルースの一存では止める事が出来ないのだ。

 と、そこへ激しく扉が開けられて人が入ってきた。


「ブルー助けて! 私がシャルと結婚しちゃうわ!」

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