42.お仕置き会議

「私はシアン! シアンっていうの、ノ!」


 兎人コニードゥのシアンが自己紹介すると、オレンジーナ、エメラルダ、ローザも自己紹介を始める。

 最初は登場の仕方からして驚いたが、ブルースの知り合いだと聞いて安心したようだ。


「私、兎人コニードゥって始めて見た! 小っちゃくてカワイイ!」


 ちなみにローザの身長は百五十センチもない。

 年下のブルースはおろかエメラルダよりも小柄である。

 胸は大きいが。


「それでそれで? 多数決を取って何するの? ノ?」


「ブルーに嫌がらせをする兄弟に、お仕置きをするのよ。ブルーが悲しむ顔を観たくないでしょ?」


「ヤダヤダ! ブルースには笑っててほしいの! そして毎日抱っこして欲しいの! ノ!」


「そうだよね! そうだよね! ブルー君に毎日抱きしめて欲しいよね!」


 この二人の発言に稲妻が走る姉妹。

 しかし次の瞬間には頬が緩んでいた。

 自分が抱きしめられている所を想像したようだ。


「こ、コホン。えー、それではシャルトルゼへのお仕置き内容を決めていきます」


「はい!」


「はいローザ」


「石を抱えさせて湖に落とすのがいいと思います!」


 いきなりハードなのが出て来た!!

 

「はい!」


「はいエメ」


「お兄様を上空から落としたのですから、上空からマグマに落とすのはいかがですの?」


 上空からじゃなくても助からない!


「はーい」


「はいシアン」


「レッドウルフのエサにする! レッドウルフは美味しいから、カラ!」


 間接的な食人になっている!?

 この三人はブルースの事となると考えがおかしいようだ。

 

「それじゃあ私の案を言うわね」


 ここは一つ、聖女セイントのささやかなお仕置きで癒されよう。


○○ピーを砕いてすり潰し、やめてくれと言われたら××ピーもして、ついでに△△ピーを蹴り飛ばす。はどうかしら?」


「「「それ、いいね!」」ネ!」


「よくなーい!!」


 ブルースが慌てて止めると、四人は誤魔化し笑いをする。

 まぁ本気ではない様だが、サクサクと進んでしまいそうで少し恐ろしい。


「シャル兄さんは僕が何とかするから、みんなは何もしなくていいよ」


「でもブルー兄様、何かするといわれましても、一体何をされますの?」


「それは……」


 特に何も考えていないのだが、みんなに何でもかんでもやらせるのは違うと思っているようだ。

 特に今回はブルースとシャルトルゼの問題なので、他人に任せて遺恨を残したくないのだろう。


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスの牽引部分に座り、とにかく自分でけじめをつけるから、と念を押す。

 本人がそういうのなら、と話は終わった。


 一旦兎人コニードゥの村へ行き、ブルースがお世話になったと頭を下げて挨拶をするオレンジーナ達。

 グリフォンに驚いていたが、やはりブルースの知り合いという事で穏やかに事が進んでいく。


「それで、お嬢さんがたも村に住むのかい?」


「え? いえいえ、私達は国へ帰ります」


 という少しだけ悶着があったが、シアンの発言で問題がすり替わる。


「私はブルースと一緒に行く! 付いて行くんだよ! ダヨ!」


 シアンの両親が猛反対し、村を出るならしっかりとした身元の人が一緒でなければいけない! と口論が始まるのだが、あまりにも身近にしっかりとし過ぎた身元の人物がいた。


聖女セイントではダメですか? 一応人間の国では重宝されていますが」


 両親はクリクリな目を更に広げ、もろ手を上げて送り出してくれた。

 そしてブルースに「娘をよろしくな」と涙を流しているのだが……なぜかローザとエメラルダがブルースの両腕をガッチリとホールドした。


「それでは戻りますわよ!」


 グリフォンにはエメラルダ、オレンジーナ、ローザ、シアンが乗り、ペガサスにはブルースが一人で乗る。

 グリフォンの方が大きいから……ではなく、喧嘩になりそうだったからオレンジーナがそう決めた。


 途中で一回野宿をし、ゴールドバーグ王国のワイズマン子爵の邸宅へ戻って来た。

 しかしシャルトルゼは王城に勤めているため、ここにはいないようだ。


「ジーナ? 帰ってきたのなら挨拶に来ないか。まったく陛下へいかからの謹慎きんしんが解けたかと思えば遊びほうけおって、聖女セイントとしての責務をだな」


 ホールでオレンジーナを見つけたブラックリン子爵は、いきなりオレンジーナに説教を始めた。

 もっと国の為に働いてくれないと爵位が上がらないのだからだろう。


「お父さま、今はそれどころではありません。シャルトルゼはどこにいますか?」


「シャル? シャルならば王都へ向かっているはずだ。お前が元気になって安心していたぞ」


「そうですか。では私達も王都へ向かいます」


「うむそうしろ。そして陛下へいかに謹慎明けの挨拶をしっかりとし、務めを果た――」


「いえ、シャルにお仕置きをしますので。では!」


 父であるブラックリンの言葉を遮り、というか無視する形で屋敷を出ると、敷地の外まで走り抜けてブルース達と合流する。

 シャルトルゼが王都へ向かったといってもまだ一~二日しか経っておらず、まだ到着していないはずだ。


「お姉様、シャル兄さんは居ませんでしたの?」


「ええ、王都へ向かっているようね。私達も王都へ行って、シャルよりも早く行動を起こしましょう」


 グリフォンと天馬騎士ペガサスナイトに分けて乗り、すぐさま王都へと向かう。

 空を飛べば一日かからずに到着するため、翌日には王都の正門前に到着する。

 まずはオレンジーナとエメラルダが国王に挨拶に向かい、その間にブルースとローザ、シアンは宿をとる。


 国王への挨拶が終わると早速シャルトルゼへのお仕置き前準備が始まる。

 まずは貴族の御婦人方への根回しだ。


「まぁそんな事が? わかりました、シャルトルゼさんを見かけたらしっかりと注意をしておきますわ」


「シャルトルゼさんが? 兄弟喧嘩はいけませんが、やり過ぎたら注意して差し上げませんとね」


 などなど、シャルトルゼがブルースにやったことを少しぼかして広める。

 御婦人方はおおむねオレンジーナの味方なのだが、そこへ違う勢力が入ってきた。


「ワイズマン家に不和が起きているそうだな。あの成り上がり者めを蹴落とす機会ではないか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る