41.こ、子供が出来ちゃうんだぞ! ダゾぉ!

「お姉様、シャル兄さんの様子はどうでしたの?」


「どうもこうもないわ、平然とウソを言ってのけたわよ」


 グリフォンの背中に三人で乗り、マルマさんを目指して飛んでいる途中、エメラルダは兄であるシャルトルゼの様子を聞いた。

 エメラルダも以前からシャルトルゼの事を良くは思っておらず、せめて罪の意識があればいいと思っていたのだ。


 しかし全く罪の意識が無かったようだ。

 元々ブルースを魔法のまととしか見ておらず、むしろオレンジーナと仲が良いのを恨めしく思っていた。


「……やっぱりさ、ワイズマン家って少し変わってるよね?」


 ローザに言われ、何も言い返せない二人。

 武で成り上がり、戦いに役に立つ事で更なる地位を目指しているので、強さこそが願望である。

 それから外れたブルースの扱いは酷い物だった。


 グリフォンで半日ほど移動し、そろそろマルマ山が見えて来た。

 マルマ山は標高四千メートル以上あり、これは富士山よりも高い事になる。

 そんな山の山頂から更に千メートル上空から落とされ、地面に衝突した所を三人は想像していた。


「だ、大丈夫だよね? ブルー君は頑丈だもんね?」


「あ、あそこ、あそこに何かが滑り落ちたような跡がありますわ」


 エメラルダが指さすと、そこには山肌が崩れて線になって下まで続き、その先の木々がなぎ倒されているのが見える。

 なぎ倒された木の先へ行くと崖がある。


「ま、まさか崖から落ちたの!?」


「お兄様! ブルーお兄様!!」


 崖の下に降りていくと、周囲には硬い物が衝突したようで、何か所も岩が砕かれている。

 それは明らかに何かが落下した跡で、三人はビクビクしながら下へと降りていく。

 しかし地面がへこんでいるだけで何もない。


「し、死体が砕けてなくなっちゃってるの!? ブルーくーん! うわーん!」


「お、落ち着いてローザ。流石にそれは無いから」


 オレンジーナとエメラルダは多少冷静さを取り戻したが、ローザは泣きじゃくっている。

 

『トリマーシーンの絵図えず


 オレンジーナが祈る様に両手を合わせると、目の前に半透明の立体映像が現れた。

 どうやら周囲の地形を表示しているようで、その精度はかなり緻密ちみつだ。


 地形は縮小され、さらに縮小されると、どうやら村らしきものが見えて来た。


「ここに村らしきものがあるわね。生体反応も集まっているし、ここを目指しましょう」


「「おー!」」




「え? 何者かが現れた?」


「そうなんだよブルース! 空から怖い大きな鳥に乗ってくるんだよ、ダヨ!」


 一人で歩けるが、まだ体が思うように動かないブルースは、兎人コニードゥの看病のお陰で生活が出来ている。

 なので村人を助けたい一心で魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗り込んで森の中へと入っていく。


「シアン、どのあたり?」


「あっち! あっちだよ、ダヨ!」


 村を抜けて森の中を進んでいくが、獣道とは言えない道が出来ている。

 ブルースの魔動力機関装甲輸送車ファランクスの為に村人が作ったようだ。


「あ! あれあれ! あれじゃない? ナイ?」


 空を指さすと、そこには確かに巨大な鳥の様な生き物が見える。

 しかし鳥かと言われると鳥ではなく、四本足と翼を持っている。


「よし、じゃあ僕は外で準備をするから、シアンは車内で待ってて」


「うん! ワタシもいくね! クネ!」


 どうやらブルースになついているようだ。

 魔動力機関装甲輸送車ファランクスの牽引部分に近接防衛火器システムファランクスを乗せ、目標を確認させる。


 しかし一向に近接防衛火器システムファランクスは動こうとしない。


「あれ? なんで反応しないの? モンスターが襲ってくるかもしれないのに」


 空に目標は見えている。

 ひょっとして敵意が無いから動かないのかとも思ったが、残念ながら空を飛ぶ何かはブルースをめがけて急降下してきたのだ。


「わわわ!? ちょっと動いてよ! ここで止めなきゃ村が襲われちゃうんだから!」


 近接防衛火器システムファランクスを叩いているが反応しない。

 仕方がないと思い重装歩兵ファランクスの装備を纏い、急降下して来るモノに向き直る。


「ブルースー!」


「ブルークーン!」


「おにいさまー!」


「……へ?」


 急降下してきた鳥の様なモノから、三つ落ちて来た。

 それらは聞き覚えのある声を発しているのだが……ヘルメットのバイザーを上げると三人は手を広げてブルースに抱き付いた。


「うわぁ!」


 後ろに倒れ込み三人にのしかかられるブルースと、ビックリして動けないシアン。

 目をまん丸に見開いてブルースを見ると、何故か両手で真っ赤になった顔を覆うシアン。


「お、お、お、男の子と女の子が抱き合うと子供が産まれちゃうんだぞ! ダゾぉ!」


 どうやら見た目通り幼かったようだ。

 モゾモゾとブルースが起き上がると、それと一緒に体を起こす三人。


「エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒーーーール!!」


 そしてやはり怒涛のエクストラヒール十二連発!

 しかし今回はヒールの甲斐があり、まだ自由に動けなかった体がキレイに完治した。


「あ、ありがとう姉さん」


 しばらく三人はブルースに抱き付いたまま泣きじゃくり、一時間ほどしてようやく落ち着きを取り戻した。


「決を採ります。シャルトルゼにお仕置きをしたい人」


 落ち着きを取り戻し、今までの経緯を軽く話したと思いきや、オレンジーナは決を採った。


「はい!」


「はーい」


「はい?」


 オレンジーナ、エメラルダ、ローザの三人が手を上げたので、多数決によりシャルトルゼへのお仕置きが議決された。

 だがこの決定が、ワイズマン家を、いや国を巻き込んだ騒動になるとは誰も思っていなかった。

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