12.姉妹揃って問題児

「う……頭が痛い……」


「エメ大丈夫? それが二日酔いって言うらしいよ」


 依頼達成パーティーに巻き込まれ、酒をしこたま飲まされたエメラルダ。

 ブルースが水を渡し、エメラルダは頭を押さえながら水を飲む。


「ありがとうございますお兄様……これが、大人というモノですか?」


「これは違うと思うから、マネはしないでね」


 安心したのかホッとした表情を浮かべる。

 どうやらワイズマン家は酒に強くはないらしい。

 そしてようやく他の面々も目を覚まし始めた。


「む、朝になっていたか。メシだ!」


「朝からうっせぇよ……静かにしろい」


「あ! ブルースが妹ちゃんとイチャついてる! 私も混ぜて~」


「おはようエリザベス、あなたの歌声はいつも美しいわ」


「ねみ……飯が出来たら起こして……」


「飯だ! 飯メシめし飯、メシの時間だー!」


「えぇ~? またブルースが作ってくれんのぉ~?」


 どうやらブルースの食事をご所望の様なので、ブルースはキッチンに入り調理を始める。


「お兄様、私も手伝いますわ」


「私も!」


 といってエメラルダと小柄な女性が後を付いて行く。

 しかし、どうやらこの二人は料理をした事がないようで、包丁を使わせたら怖かった。


「ぼ、僕が切るから、お皿を並べてくれる?」


 ちなみにこの小柄な少女、名前はローザといい、身長は百五十センチもなく華奢きゃしゃ、見た目は長い銀髪の少女で、鎧も金属ではなく革鎧を胸と腕に付けているだけだ。

 他に特徴と言えば胸が大きな事くらいだろうか。


 本当にどこにでも居そうな少女に見えるが、その怪力は凄まじく、百キロくらいの物ならば片手で軽く持ち上げる事が出来る。


「朝食の準備ができましたよ~」


 ブルースが呼ぶとぞろぞろと席に付き始める。

 どこから現れたのか、老婆も座っていた。


「邪魔するよ。バアさん金を持ってきたぞ」


 食事の最中にキリアム町長が入って来て、依頼報酬をどさりと手渡す。


「随分と払いが良いじゃないか。前は随分と渋ったのにねぇ」


「そりゃお前さんたちが周囲の被害をかえりみなかったからだ。報酬から天引きするのに時間がかかったんだ」


「ケッ! 大事だいじの前の小事しょうじだねぇ」


「小事と言えるほど被害が少なければ、な」


 町長の言葉に聞こえないふりをして、老婆は食事を続ける。

 なので町長は相手をブルースに変えた。


「ブルース、今回は助かったよ。君のお陰で順調に行ったそうじゃないか」


 いきなり話を振られ、慌てて食事の手を止めるブルース。


「い、いえ、僕は大したことはしていません。倒したのは皆さんですから」


「そういうな、昨日の飲み会でみんなが言っていたじゃないか、ブルースが亀を押さえつけてくれたから倒せたと」


「え? 飲み会に居ましたっけ?」


「楽しそうだったからな、部屋の隅でバアさんと飲んでた」


 全く記憶にないブルース。

 ちなみに老婆以外は町長の存在に気付いていなかったようだ。


「なぁ~にぃ~? のぞきが趣味なのぉ~?」


「のぞきじゃないだろ!? 堂々と飲んでたさ」


 そう言って町長は部屋を出て行った。

 「報酬はバアさんから貰ってくれ」とだけ伝えて。

 メンバーの目が老婆の前に置かれた大きな皮袋を見つめた。


「現金な奴らだね。飯を食ってから分配するよ」


 バン!

 金の入った皮袋から金貨を出そうとした瞬間、今度は何者かが扉を乱暴に開けた。

 逆光のため顔は見えないが、随分と細身に見える。


「「あ」」


 ブルースとエメラルダは見覚えのある姿に反応するが、他の者は警戒している。

 ツカツカとテーブルに歩み寄り、腕を前に伸ばす。


「エクストラヒール!」


 ブルースに回復魔法、しかも死んでさえいなければ完璧に回復する魔法を使った。


「エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒーール!!」


 しかも怒涛の十二連発!

 エクストラヒールを使える人間など、世界広しと言えど両手が要らない人数だ。


「ま、まって! まってよジーナ姉さん! 生きてるから! 僕は生きてるから!!」


「え!? まさか間に合わなかったの!! こうなったら死者蘇生を!!」


「ストーップ! ジーナ姉様、ブルーお兄様は御無事ですわ!」


 エメラルダに言われ、ようやく手を止めたオレンジーナ。

 目を大きく見開き、ブルースを見つめるその瞳は間違いなく慈愛に満ちていた……満ちているはずである。

 聖女セイントオレンジーナ、ワイズマン家の長女であり、ブルースの姉である。


「怪我は……無いの?」


「もう治ってるよ」


「痛い所は無いの?」


「どこも痛くないよ」


「お腹空いてない?」


「今朝食を食べたところ」


のど、乾いてない?」


「……驚いたから、少し乾いてる」


 どこに持っていたのか、ティーセットをテーブルに並べ、優雅に紅茶を入れ始めるオレンジーナ。

 ブルースの前に入れたての紅茶を置くと、ちゃっかりブルースの隣の席に座る。


「砂糖とミルク、多めに持ってきたわ」


「ありがとう姉さん」


 一転して長閑のどかな空気に代わり、周りも流されて長閑になりかけた。


「「「せ、聖女セイントオレンジーナ!? 戦場の女神様!!」」」


 その正体に気が付き、老婆さえも驚いていた。

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