11.ブラコンの妹

 小柄な女性がブルースに抱き付いているが、それを上空から冷ややかな、いや怒りに近い感情で見ている者が居た。

 天馬騎士ペガサスナイト、ブルースの妹のエメラルダだ。


 エメラルダはペガサスを駆りブルースの元へと降下していく。


「お兄様、楽しそうですわね」


「え、エメ!? いたの?」


「ええ、その女性と随分仲がよろしいようですわね」


「ち、ちがうんだエメ、なんで抱き付かれてるのか、僕にもわからないんだ」


 ペガサスから降り、抱き付いている女性へと詰め寄る。


「あなた、お兄様が嫌がっているではありませんか! は・な・れ・て・下さい!」


「いや! 私と彼の間を引き裂かないで!」


 エメラルダは力いっぱい引っ張っているのだが、この小柄な少女、見た目以上に力があるようでビクともしない。

 ブルースも一緒に女性から離れようとして、ようやく腕がほどけた。


「私のお兄様に何をするんですか!」


「あれぇ? あなたってぇ、天馬騎士ペガサスナイトよねぇ? この国で天馬騎士ペガサスナイトっていったらぁ……ワイズマン家のエメラルダよねぇ~?」


「そういえば少年は、この少女の事をエメと呼んでいたな」


「ねみぃ……」


「血血血血、血ぃ~がぁ! 貴族様の血ぃ~が~! 入ってんのかオメー!」


 いきなり詰め寄られブルースは戸惑っているが、エメラルダが前に立ってかばっている。


「お兄様に近づかないでください! お兄様は事情があって外に出ているのです!」


 エメラルダ、ブルースを守ろうとしているのだが、どうにも空回りしている。

 確かに小柄な少女は言い寄っていたが、他のメンバーは何もしていないのだから。


「エメ、大丈夫だから。この人達は僕の仲間なんだし、あまり強い言い方はしないで」


「……お兄様がそうおっしゃるのなら」


 スッと横にずれたが、小柄な女性にだけはキッと睨みつけた。


「すみませんお騒がせしました。それでエメ、どうしてこんな場所にいるの?」


「はいお兄様! お兄様がレイクモンスターの討伐依頼を受けたと聞き、その雄姿をこの目に焼き付けに来ました!」


 コロリと態度が変わり、目を輝かせてブルースを見ている。

 しかし困り顔でエメラルダに言葉を返す。


「えっと、僕は戦闘以外のサポート要員だから、何もしていない……んだよね」


「そんな事ない! アナタは私を助けてくれたし、亀の突進を受け止めてくれたから、私達は倒す事が出来たんだよ!」


「なるほど、それは実質お兄様が倒したといって良いでしょうね」


「え? ちょっとエメ?」


「確かにあの鉄の馬車は便利だし、ブルースは料理が上手いからな、ブルースのサポート無しでは倒せなかったかもしれない」


 なぜか持ち上げられるブルース。

 だが当のブルースは困っていた。


「や、やめて……僕はそんな……大層な人間じゃないんです……」


 そんなブルースの様子を見て、エメラルダは寄り添い、他の者は話題を変えた。


「依頼が終わったしぃ~、コレを片付けて帰ろっかぁ~」


「そうね、エリザベス、もう元の大きさに戻っていいわよ」


「亀亀亀亀! 亀をしまっちまうぜぇ~!」


 マッドな学者が肩から担いでいたバッグを開くと、何と巨大な亀が吸い込まれるようにバッグに入っていく。

 一体何百倍の物を収納したのだろうか。


「え? 収納バッグ? 魔法で作ったのかしら?」


「これはよぅ! オレ様の学者スキルの恩恵なんだぜぇい!」


「学者で収納スキル!? まさかハイクラス!?」


 この世界の人間は自分のレベルを見る事は出来ない。

 しかしそれぞれのスキルの情報はある程度知られているため、その使える能力によって呼ばれ方が変わる。

 学者の収納は熟練者しか使えないため、ハイクラスと呼ばれる。


「ハイクラスかどうかは知らねぇけどよぅ! ちょ~~~~便利だっぜい!」


 上手く話題がそれたことで、ブルースは周囲の片づけをしていた。

 テントや寝袋、散らかった木やえぐれた地面を片付けている。


「それじゃあ~あぁ~、もどろっかぁ~」


 ブルース達は魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗り、街へと戻っていく……のだが、助手席にはちゃっかりエメラルダが座っていた。


「エメも戻るの?」


「ええ、のお話も聞きたいですし」


 また数日かけて戻るのだが、その間はずっとエメラルダがブルースの側を離れなかったため、小柄な女性はブルースに抱き付けなくてブーたれていた。

 そして無事街に到着すると、まずはデモンスレイヤー達の拠点である老婆の元へと向かった。


「なんだい? 随分と早かったねぇ。失敗かい?」


「とんでもない! 少年のお陰で大成功さ!」


「おばばぁ~、ほらコレぇ」


 マッドな学者がバッグから巨大な亀の首を取り出して建物が揺れた。


「……ヘビじゃなかったのかい?」


「超超超超、ちょ~~首のなげぇ亀だったぜぇい!」


「へぇそうかいそうかい。それはラッキーだったね、亀は捨てる所が無いから高く売れるよ。ボーナスは期待してな」


 ヤッホーと喜ぶ面々。

 そしていいタイミングで町長が入ってきた。


「討伐はしっぱ……成功したのか!?」


 大きな亀の首を見て驚く町長。

 町長も亀とは思っていなかったので、最初は半信半疑だったようだ。


「そうだったのか、確かにこれだけ長い首ならばヘビと勘違いしてもおかしくは無いな。では明日にでも報酬を渡すが、この亀の首は渡してもらおう、討伐証明として提示する必要があるのでね」


「おいキル坊、ウチらの獲物を横取りしようってーのかい?」


「首だけだ。他の部位は自由にしてくれ」


「チッ! 仕方がないねぇ」


「よし! では討伐成功パーティーと行こうか!」


「「「さんせー!」」」


 こうして再び飲みに付きあわされるブルースだった。

 エメラルダも付き合わされているのはご愛敬。

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