第5話 文芸部

 夏美が楽しそうにキーボードを叩く。

 波瑠はイラストを描いている。

 冬乃は掃除をしている。

 そんな文芸部だが、僕はラノベを読んでいる。

 僕は今度の夏休みから海外に行くことを告げた。学校の方にも届けを出しており、もう決定事項になったのだ。

 そしたらみんな一緒に行きたい! と言いだした。

 困ったことにみんな僕と一緒に行く気満々らしい。どうしたものか。

 ラノベ、読めなくなるのかな。

 それだけが心残りである。

 しかし、このままじゃ三人ともついていくと言い出しかねない。

 どうしたらいいんだろう?

 お父さんに相談するか。

 スマホを操作し、父にメッセを飛ばす。

『みんな連れてこい!』

 とサムズアップしたスタンプが押される。

 豪快だな! って、みんな連れていっていいのか?

 いいらしい。

 でもどうしたものか。

 僕はむむむと悩んでいると、隣で覗いていた冬乃が取り上げる。

「まさか、みんな連れていく気かな? お兄ちゃん」

「え。私もつれっていってくれるの? 兄様」

「それいいね! おにぃは優柔不断だし」

 喧嘩売っているの?

 僕だって傷つくんだよ?

 悩みが吹き飛びそうだよ。

「ふーん。でも真面目なおにぃのことだし、きっと誰かを選ばなくちゃって思っているでしょ?」

「うん。まあ、そうだね」

 僕は曖昧な笑みを浮かべる。

「やっぱり」

「でも、みんなを幸せにできるなら、きっと私たちを見捨てないでしょ。お兄ちゃんは」

 冬乃がビシッと指を指して言うがまったくもってその通りである。

 さすが妹たち。

 僕のことを理解している。

「私も兄様には感謝している。だから私と一緒に行こう?」

 いや、波瑠だけがずれているな。

 さすがマイペースなだけある。

 そんな彼女らはギャーギャーと言い合いをし始める。

「波瑠。一人抜け駆けは厳禁だよ」

 冬乃が厳しいトーンで言う。

「そうよ。ダメなんだからね」

 夏美がブーッとほっぺを膨らませる。

 その顔が可愛くってつい見とれてしまう。

 でも、なんで僕は一人に決められないんだろ。ダサいよな。格好が付かないよ。どうしたものか。

「僕は一人に決めるよ。決めてみせるよ」

「やって見せてよ、お兄ちゃん」

「なんとでもなるはずだ。おにぃ」

 どや顔で言い切る冬乃と、夏美。

 いやなんでそのネタをここで披露するのさ。

 そのネタを知っている人がこの世界にどれほどいるのか……。

 全くもって分からない。

 でも少し心が晴れた。

 こうなることを見越して言っていたなら、さすがとしか言い様がない。

 さすが妹たち。


※※※


 そんなこんなであっという間に、一学期が終わっていった。

 あとは夏に向けて海外に行く準備をするばかりだ。

 しかし、海外か。怖いな。一応、英語は勉強したし、スマホに翻訳アプリいれたし。それに日常会話くらいできるようになるための勉強でもあるわけだし。

「おはよう。お兄ちゃん」

「おはよー。兄様」

「おはよ、おにぃ」

 三人の妹分が僕の背中についてくる。

 結局誰か一人を選ぶこともできずに今日を迎えてしまった。

 三人とも海外留学ということで父と母と一緒に行くことになったのだ。

 僕が決められないのが悪いけど、しかし夏美までついてくるのか。

 ま、この三人がいれば、楽しくなりそうだし。いいか。

 お気楽な僕はここまで考えていなかった。

 でもそれもありかも。

 みんなで半年の留学。みんなも英語ペラペラで帰ってくるのかな?

 父の仕事っぷりも体験してみないと分からない。

 何事も経験だろうて。

 そうでなければ、面白くない。

 人生、色々とあった方が楽しいよね。

 そう結論づけてみんなの意見から離れる。

 きっとこれが僕の悪いクセ。

 冬乃、波瑠、夏美。

 みんな大切な妹だ。

 そんな妹に恋をしないのは当たり前なのだ。だって妹でしかないのだから。

 だから僕は好きになることはないのだろう。


 ――この世界に妹が多すぎるんだが。

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妹が多すぎるんだが!? 夕日ゆうや @PT03wing

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