第4話 父さんと一緒に来るのは?
「それで、父さんと一緒に来るのは誰だ?」
「それは、僕はまだいけません。きっと好きなものが見つかるから」
何かを言いかけ、よどむお父さん。
僕にはまだ楽しいと思えることがある。面白いと思えることがある。
「でも、お父さんが仕事を学ばせたいと思うのなら抵抗はしません」
「そうか。秋一の気持ちが伝わってきたよ。それでいいんだな?」
確認するように訊ねてくる父。
僕にはまだ分からないことがたくさんある。
それを決めるにはまだ早い。そう思えた。
「はい。まだ高校生ですし」
「もう高校生だぞ」
そうあと二年で就職しなくてはならない。そううかうか言ってられないだろう。
それも分かっている。
でも僕のやりたいことはたくさんある。
みんなでバーベキューをしたい。みんなでコミケに行きたい。みんなでカラオケに行きたい。みんなで……。
尽きることのない思いに、僕はウキウキしてしまう。
そんな僕を見て、一安心したのか、父はそっと肩に手を置く。
「楽しいこと、好きなことを見つけられるといいな」
そう言って肩から手を離す父。
「うん!」
「もう、応えは見えているようなもの、か……」
父の言った言葉が気になるが、僕はみんなと一緒に好きを見つけたいのだ。
父からは甘ったれるんじゃない、と言われるのを覚悟していたが、しかし。
「今度の夏、暇があればイギリスにこい。仕事を教える。それまでは自由にしろ」
そう言い残し、空港に向かう父。
義母も一緒に同行する。
「こんなに大きくなって、冬乃さん、あとは任せたよ」
そう言って義母も一緒についていく。
二人は楽しそうに仕事の会話していた。
なんだ。父も同じじゃん。
楽しいを仕事にしている。
それは僕も一緒だ。
楽しいを仕事にしたいんだ。
それで一生楽しい思いをするんだ。
でも、僕のしたいことってなんだろ?
分からない。
でも、僕にできることってなんだろ?
オタ活には自信がある。
毎月、ツイッターで読んだラノベの感想を呟いたりしている。
それ以外になにかあるだろうか?
分からない。
「なぁ、冬乃は楽しいと感じるのはどんな時だ?」
「不思議なことを聴くわね。わたしは家事をやっているときが気持ちいいのよ。綺麗になっていったり、料理の味がうまくいく、とね」
そうか。
自分の思い通りになっていくのが楽しいのか。それは楽しいだろうな。
「波瑠は、どうしてイラストを好きになったんだ?」
「うん? 書いていてネットにアップしたら褒められたから」
褒められた。それも重要だろう。
褒められれば伸びるというもの。
「夏美は?」
「あたしも同じようなものよ。WEB小説に投稿して褒めてもらったの。だからよ」
単純明快だった。
褒められて嬉しくなり、それが活力になる。
じゃあ、僕が褒められたことって?
「分からない。僕が好きなことってなんだろ?」
「ふふ。応えは見えているような気がするわ」
「そうだね~。でも知らぬが仏かも~」
「負けないんだから」
三人とも違った意見をいい、笑い合っている。
なぜか牽制し合っているようにも思える。
不思議だ。
でもそんな彼女らが好きだ。
あ。
そっか。僕はみんなが好きなんだ。
だから明日が欲しいんだ。変わらない世界がいやなんだ。
みんなと一緒にこの道を歩んでいきたい。
だから日々と戦っている。
だから前に進める。
だから生きていられる。
明日に託し、今日を生きることができる。
ずっと好きはそこにあったのだ。
お父さん。今度仕事を教えてよ。
今度はみんなを守るために。生きるために。
そのための手段として仕事があるのだから。
僕は仕事を身につけ、好きな人と一緒に楽しく人生を歩んでいくんだ。
いつかは誰か一人に決めなくちゃいけないことでもある。
実妹、義妹、妹分の幼なじみ。
妹が多すぎるんだが!?
この中から一人を選べと?
無理無理。
みんな好きだもの。
みんなを好きになってしまったんだもの。
どうしらいいのさ。
僕はまだ好きでいいのかな?
分からない。
彼女らの気持ちもあるだろうし。
シスコン、そう呼ばれていたように、僕は妹が好きなんだろうな。
どうする。僕。
まだ時間はある。
一人を選ばなくちゃいけない。
みんなと一緒にいられて幸せだったんだ。
だから一人に選ぶのは嫌だ。
どうしたらいい?
分からない。
快活で何事も真剣な夏美。
クールで甘え上手な冬乃。
のんびりマイペースな波瑠。
みんないい子なのだ。
今から選ぶなんてことできないよ。
どうすればいいんだ。
お父さんならどうするんだろ。
みんなまとめて好きになったんだ。
誰か一人が欠けても、今の好きにはならないだろう。
好きになった相手が分かればいいのに。
みんなと一緒にいられてどんなに幸せだったことか。
思い悩んでいると、みんなが声をかけてくれる。
夏美、冬乃、波瑠。
みんな好きだ。
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