第2話 買い物とイラスト!

 僕の両親は海外赴任を考えている。そんな中、僕たちを連れていこう、と言う話がある。

 僕には両親についていくのに不安があるのだが、長男ということもあり、両親の仕事を手伝ってほしいとのこと。

 だからこうして日本で過ごす時間が貴重だと思う。

 鼻歌を歌いながら帰路につく冬乃。その歌をずっと聴いていたいと思わせる。

「やっぱり冬乃の歌はサイコーだね」

「え。急にどうしたの?」

 驚きの声を上げる冬乃。

 それは当然だろう。

 今まで鼻歌を褒めたことなんてないんだから。

 でも愛する妹だ。嫌いになれるわけがない。

 その全身から発する声まで、すべてを愛せる自信がある。

「じゃあ、兄様に合わせて私も歌うの~」

 のんびりとした口調で鼻歌を歌い出す波瑠。

 不思議なテンション感での歌声に苦笑いを浮かべる僕たち。

 帰路、夏美と離れ、僕は自宅にたどり着く。

 しっかり者の冬乃が片付けを済ますとすぐに出かける準備をすます。

 波瑠はのんびりとネコネコ動画を見ているらしい。

 一人買い物バッグを持つ冬乃を見て、慌てて駆け寄る。

「買い物、手伝うよ」

「本当!? ありがと!」

 冬乃は嬉しそうに目を細める。

 上機嫌になったのか、玄関を出た冬乃は鼻歌交じりにスーパーに向かう。

 その方向が気になったので、僕は訊ねる。

「こっちのスーパーの方が近いよ?」

「あー。そっちは高いから……」

 こんなところで見せつけてくる主婦力!

 さすがに買い物慣れしている猛者もさは違うわ。尊敬できるわ。

 他愛のない話をしながら歩くこと数十分。スーパーにつき、買い物を始める。

「え。キュウリってこんなに高いの!?」

「でも、お兄ちゃんは好きだから買うわよ」

「いいよ、高いなら」

 僕はそう言いながらしょんぼりしてしまう。こんなに高いのなら、もっと味わっておけば良かった。

 レタスも高い。178円。四つでラノベ一冊買えるじゃないか。

 ん? そう考えるとレタスもありなのか?

 四つで一冊?

 んー?

「お兄ちゃんが何で悩んでいるのか分からないけど、健康第一だよ!」

「そうか、それもそうか?」

「なんで疑問形なのよ!」

 冬乃は悲しそうにツッコミをいれる。

「あ。でもお菓子やジュースはスーパーの方が安いなぁ」

「そう! だから学校で買うのはやめて、こっちで買いましょ?」

 なまめかし声で身体をすり寄せてくる冬乃。

 変なテンションに僕はだんまりを決め込む。

「つれないなー」

「うん。実妹だしね」

 くーっと悔しそうな顔をする冬乃。

「産まれた時から一緒だったのに、なんであの小娘に……! きぃー!!」

 あの小娘はきっと波瑠や夏美のことを指していることに気がついている。でも知らぬ存ぜぬで僕は買い物に付き合う。

 冬乃との買い物は楽しく、新しい気づきや発見があった。……主にスーパーでの安売りについて、だけどね。

 そんなこんながあって、夕食は白菜たっぷりの鍋に決まった。これが一番効率良く栄養を摂取できるとのこと。

 ちなみに豚肉も買ってミルフィーユ鍋にするらしい。豚肉と白菜を交互に入れて土鍋で煮込む料理、らしい。

 僕はあんまり詳しくないけど、冬乃が説明してくれた。

 冬乃は買い物上手で、うまく安いものを見分けるのがうまい。

 今日もおからを安く買えてホクホク顔である。

 家に帰り、さっそくおから料理を作る冬乃。

 そんな冬乃とは対象的にのんびりと動画を見ている波瑠。

「兄様、お帰り~」

「ああ。ただいま」

 それにしても距離感がつかみづらいのが波瑠。

 のんびりおっとりしているのは間違いないが、なぜか僕を隣に座らせる。

 そして一緒のネコネコ動画を見始める。

 よく見るのが猫がおっさんぽい格好をしている動画だ。

 癒やされるのはよく分かるが、そんな何度も再生するのか。

「ここの猫ちゃん、兄様そっくり~」

 え。どこが?

 僕は動画の猫に注視するが、僕がベッドで寝ている姿と重なってみえる。

 やばい。確かに僕っぽいかも。

 あら、いやだわ。おほほほ。


 ……はずいわ。


 と動画を閉じると、イラストメーカーというイラストを描けるアプリを起動させる。

 そこには容姿端麗な美少女が描き出されていく。

「波瑠は、将来イラストレーターになりたいのか?」

「うんうん。イラストレーターはお金持ちになれないから」

 首を横に振る波瑠。その理由は意外にも堅実的なものだった。

 しかし、この画力ならすぐにプロになれそうなのに。

 いわゆる芸術家肌というよりも、アニメにある萌え絵といった感じだが、うまいのには変わりない。

 人気にんきイラストレーターさんの真似をして書いているが、そのうち、自分なりの絵を描いてアップしていくんだろう。

 そんな波瑠の将来を思い描いたら、嬉しくなってしまう。

「お兄ちゃん、なんで嬉しそうなのよ?」

「いや、将来が楽しみだな、って思って」

 僕はくすくすと笑い、キッチンで料理中の冬乃に向かう。

「料理、手伝うよ」

「あら。珍しい」

 確かに珍しい。

 でももう離れることが決まっているのだ。

 これくらいはしないと。

 冬乃と波瑠、それに夏美には恩返しできていないのだから。

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