ボクはネット小説家
「はぁー、今日も書いた書いた」
一つ話を書き終えて、連載小説の次話投稿を終えたボクは椅子から立ち上がって大きく伸びをする。執筆に使っていたパソコン用デスクがやけに大きく感じられるほど肩と首周りが凝っていたらしいことに気づいた時にはもう遅い。
「何だと!? まさか貴様!」
背後で驚きの声をあげたお姉さまの方に振り向く。その手にはスマートフォンが握られているけど、いったいそれがどうしたというのか。
「ついに『カクヨム』に登録したのか! 私のアカウントでも読みたいのだが登録し直す時間がないのだ……今すぐ私にも見せてくれぬか?」
は? えっとちょっと待ってよ、いきなり過ぎないかなそれは!? そもそも実の姉に創作小説を見せるだなんて、なんて羞恥プレイなんだ!そんなの恥ずかしすぎる!
「えぇっとそれはできないというか……」
「なぜなのだ? まあそういうところがある意味あやつらしいともいえるが」
「あの~違うんですよお姉さま……。そのですね……まだ完成していないんです。この話は書き始めたばっかりなんです……」
言いながら顔中が熱くなり始めてくることを自覚しながら俯いたボクに向かって、お姉さまはさらに言葉を続けてきた。
「つまり今は未完のままということなのか?」
「はい、そうです」
「別に私は気にしないが?」
……ああっダメだ。これは何を言っても聞いてくれなさそうだよぉ。
「うっ……わかりましたよお姉さま……。未完成なままのお話でいいなら読んでください……。ただ絶対に変なことは言わないでよね!?」
「大丈夫だぞ、弟よ!大船に乗ったつもりでいるがよい!!」
こうしてボクはお姉さまと二人きりの部屋で、創作小説を読まれるハメになったんだ……
***
「ほうふむなるほどな……」
……やめて下さいよホントこういうのは!さすがのボクでも恥ずかしさが限界値を突破するっていうものですよ!!穴があったら入りたいとはこのことだよ全くぅ!!!
「面白いではないか!よくできていると思うぞ。それにしても主人公がタカラダニに転生するとは面白い発想だが、意外性もあるのう!」
……よかった!そこまで悪くないとは思ってたけど、それを聞いて安心しましたよ〜。
安堵のため息をつくと同時に全身から力が抜けてしまいその場にしゃがみ込むような形になったところにまた声がかかった。
「ちなみになぜタカラダニに転生させることにしたのだ?」
……それですか、それを聞くんですね?ああもうここまできた以上仕方ないかぁ……。
本当に話すつもりはなかったんだけど。でも不思議とお姉様に話してもいいかという気分になっていることも事実だった。普段なら絶対こんなこと考えたりなんかするはずもないんだけど。だからだろうか、気づけば口を開いて答えていた。
「あれです、昔から大嫌いだったので恨みを込めてみようと思ったのです。それとですね……」
***
そこから一時間半ほどの時が流れた。いつの間にか、家の中に大きな船が持ち込まれていた。お姉さまが用意した船だ。
最初は乗り気じゃなかったけど。いざ乗ってみるとこれがなかなか楽しいものだったりする。自分で船を漕ぎ出す感覚とか帆を張るときの解放感とかがたまらんのですわ……。
だけど少し不満なのは……揺れ方が激しいことだな。酔ってしまうよ。気持ち悪くなるのも無理はないかな。だってこれ明らかに荒っぽく扱っているようにしか思えないもんな。いくらなんでもやりすぎじゃないのかなお姉さま……!
そして、お姉さまの用意した船はジェット機能が搭載されていた。
なんでだよ!?そこは普通、水上スキー的なノリを想定しているんじゃないのかなあ?確かにそれも楽しそうだとは思うけれどもさ、この荒っぽい動きをした状態で急加速されたらボク吐いちゃいますって!……とはいえ実際にそれをやってみたら案外快適な乗り心地だったんだよねぇ。
それはいいんだけども、お姉さま。何ですかねその満面の笑みは。あんまりいい予感しかしないんだけど。嫌な予感しかないともいうが。……えーっとこれはつまりどういうことですかいお姉さま……。そうかそうくるんですか?何となく予想していたもののやっぱりそうなったか。どうせこうなるだろうと思っていたが……。
「それでは爆発だーっ!!」
お姉さまが起爆ボタンを押した。ボクたちの乗り込んだ船は爆発して木端微塵になり、ボクたちは宙を舞った。
ああそうか、きっとこれは夢に違いない。うん間違いないだろう。そう信じて自分の頬を引っ張ってみる……痛いな。どうやら現実みたいだ。
ああわかっていたとも。最初からお姉さまは本気でやるつもりだったんだろうなってことはさ。まさか海のど真ん中で爆破されるだなんて思ってもなかったけど。
その後は、水の上に投げ出されて漂流状態になったりと色々大変だったけど。お姉さまの助けもあってなんとか陸に上陸することに成功した。助かったよ本当にありがとうお姉さま……。
「よし、とりあえずはもう一度爆発しておこうではないか」
お姉さまが再び起爆ボタンを押した。
……どうしてさっきよりも威力が大きい爆弾にするんだよおおおぉ!? それからはとにかく逃げ回るだけの日々が続いた。お姉さまは、どこからか爆発物を調達してきては面白半分で次々と使ってくるのである。もちろん全て自腹らしいのだが、いったいどれだけお金があればそんなことができるんだというくらいとんでもない額を使うものだから困ったものなのだ。
ボクたちが必死に逃げ回っている間にも、他の国と戦争を続けていた帝国軍は敗北し続け、ついには降伏まですることになった。帝国は国土の大部分を失う形で事実上崩壊してしまったわけだ。国民の間ではボクたちを神として崇める宗教まで現れ始めてた……マジで勘弁してほしいよ。ボクとしてはただ単に書きたいものを書いていただけなんだけどな……
それから三ヶ月後、ボクたちはようやく帝国の隣国へたどり着くことができた。この国の王都をお姉さまは問答無用で占拠してしまったんだ。この行動にはちょっとびっくりしましたよホントに…… 王城を占拠してから半年ほどが経ったある日のことだった。ボクたちに対して、国王であるタカラ=ダニ3世から謁見したいとの申し出があったのだ。
そこで、お姉さまはタカラ=ダニ3世を爆破した。……当然、それだけで終わるはずもなくまた新たな王が決まるまでの間、暫定的ではあるが王国のトップにお姉さまが君臨することになっちゃったよ…… しかもそれだけにとどまらずお姉さまは自分のことを魔王と呼ぶように国民の人たちに言い出したのだ。
「我こそがこの世を滅ぼすもの、魔の王にして暗黒の破壊者たるタカラダニア・マオンなるぞ!!」
……もはや何を言っているんだろうと。あまりにも厨二病拗らせすぎていて怖いよあの人。でもその姿が、なんだか様になっていてカッコよく見えるところもあるから本当に始末が悪い。
その後、タカラダニ王国は大発展していくことになった。
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