第四十一話 トクさん…活動停止?
今日は俺の部屋にトオルとキンちゃんがきてくれた。すっかり俺らは仲良くなり、とくにオタク活動してはいないトオルだが、キンちゃんと話が合うのか一緒にいても気疲れしないようだ。
トオルはどっちかというと一匹狼で今は丸くなったけどナイフみたいに尖った男だった。俺はそんなトオルがカッコよく見えて、声かけてみたら柔らかいやつで、そのギャップがたまらなくて仲良くなった。そして今もこうやって仲良くやっているわけで。
トオルは仕事の飲み会だって来たけどいいのか? キンちゃんも家族いるのに……。平日の夜。
地域チャンネルの今日の分の録画を一緒に見て、続けてレギュラーラジオ、美玲ちゃんの番であるが、今日は全国放送のロケでお休みだとか。
「最近多いよなぁ。美玲ちゃんとハナちゃんはこないだのドッキリですごく注目されてからじわじわ人気出てるし、由美香さんはドラマで主人公の妹役で映画撮影もあって、悠里ちゃんはお天気お姉さんで勉強もしてるって……」
俺らより情報に詳しいトオル。ご当地アイドルがここまで人気出るとはなぁ。それも大野ちゃんの戦略だとかいうけど、岐阜、せめて東海地区から出て欲しくなかった。
いつもはウンウン、と相槌を返してくれるキンちゃんが元気ない。
「どうしたんや、キンちゃん。美玲ちゃんがラジオ出ないから凹んだ?」
「ううん……、あ、でもすこしそれもあるかな。トクさんはハナちゃんも好きだからそこまでって感じだね」
「そやな。でもやっぱり美玲ちゃんの声聞きたい」
やはりキンちゃん元気ない。
「別の理由やないのか、その元気のなさは」
と、トオルがポツリと発すると
「……うん」
あっさり認めた。隠せないやつだな。コメの年貢の件といい。
「あのな、その、家族に反対されたんだ。もうライブに行くなって。推し活動もやめろって」
なにっ!!!反対だとっ。
「妻はずっとやめて欲しかったって。子供もいるのに……よその女の子にお金を使うなって」
よその女の子って……確かに奥さんおるし、子供は男の子だから……娘のように感じるんだろ。
「それってただの嫉妬じゃん」
「そうや、そうや。キャバクラに注ぎ込んでるわけないし、キンちゃんが働いて家にもお金入れて活動してるから文句ないやろ」
しかしキンちゃんは俯く。あー、まだなんかあるな。
「その、家に入れてる一部を……活動費に充てて……それバレてもう耐えきれん! って。家は妻の実家だし、僕が家から追い出されちゃう、というかおいだされたようなもんだよぉおおおお」
と、俺に泣きつくキンちゃん……おい、それはやばいだろ。てか追い出されたって?今日はどうするんや?
「泊めてくれ、すこしの間! ……部屋のグッズも処分されてっ……うわぁあああああっ!!」
俺はトオルを見るとアララーって苦い顔。グッズも処分されるほどか。まぁそうだよな、家のお金に手をつけたのもよくない。
「泊めてあげたら? 部屋空いてるんだろ」
「トオル、勝手に話を進めるなよ」
「うあああああん!!」
キンちゃん! 鼻水っ! ティッシュで拭け!
「僕も今日泊まるから。話聞いてやろう。そしてどう家族に謝るか。一緒に考えよう、なぁトクさん」
って、トオル勝手に決めんなよ! お前は帰らなくていいのかよ?
「今はそれよりもキンちゃんのことを解決しようよ。一気にあれやらこれやらやってたらうやむやになってしまう」
いや、うやむやにしてるのはお前だぞ、トオル……。
「トオルくん、ありがとう……本当に君は優しい人だ」
するとラジオが急にシーンとなり、俺らは放送事故か? 電波が悪くなったか? と心配になり前のめりになる。
だがすぐに戻り、大野ちゃんのすこしテンションがさっきより低い声が聞こえてきた。
あのミーティングでの大野ちゃんの体調や過去の病気? がずっと気になって気になって……。
『皆様にお知らせがありまして……このラジオ、清流ガールズのお暇が、なんと』
「なんと?!」
つい3人声を揃えてしまった。
『全国放送になります!!!』
「まじでかぁあああああ!!!」
俺らはなぜか抱き合った。岐阜ローカルから始まり、東海3県、そしていきなりの全国放送になるのだ。
『つきましては、放送が週に一回で2時間放送っ! もちろん生放送っ! 公開生放送の場所は変わらずです!』
「うそやろ、うそやろ?! 1時間番組が2時間!」
「でも平日毎日聞けていたのに……MCどうなるんやろうか」
「しっ、聞こえんやろ」
興奮しすぎて3人とも岐阜弁になっている。
『あとね、残念なことに。デビューからお世話になってた地域チャンネルを卒業しまーす』
「ええええーっ」
俺らはがっかりする。ラジオに地域チャンネルに、ほぼ毎日のように彼女たちのラジオを聴いたりテレビで見れていたのが減ってしまうのかと思うと悲しいが、それぞれが全国区になるから仕方ないというのか。
『つきましてはー、来月に地域チャンネル卒業ライブやりますのでぜひ来てください!』
「いくいくぅー!」
とまた声を合わせたが、キンちゃんも……。
「だったら、まず家族に謝ることからだぞ」
「はい……」
一旦キンちゃんのファンやめる宣言は白紙に戻った。
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