第四十話 ハナ…彷徨うな、アイドルたちよ
由美香さんが私たちのお家に来てくれた。明日から東京へ数日泊まりがけでドラマの打ち合わせがあるそう。
「ハナおねえちゃん、美玲ちゃん、私のいない間、レギュラー番組をよろしくお願いします」
と丁寧にドーナツまで持ってきてくれた。
「こう言う時はお互い様よ、由美香さんも私のいない時に出てくれていたし。今度は由美香さんの番……て、私も数日後に東京に日帰りでロケだけどねー」
美玲ちゃんも由美香さんも東京に行くのだ。私はというと……。
「ハナおねえちゃんはグラビア撮影って聞いたけど……」
「う、うん……」
いきなり人気青年誌のグラビアの1ページに出ることになり、名古屋まで撮影なのだ。
「1ページだし、たいしたことないけど」
「そんなことないよ! 魅惑の谷間ってこないだの雑誌でも話題になったじゃん」
「ぬぅ、何人かあの雑誌みてライブきてくれたのは確か。ライブでは水着じゃないんだねとか言われた……」
グラビアの仕事も少しずつやるようになって、それを見てファンになった! と言ってくれたのも嬉しいけど、今度のライブで歌も披露するし……。そろそろ胸よりも歌で人気になりたい。
「ハナおねえちゃんと会えないと寂しい……」
由美香さん……でもなんか最近、彼女は普段でも色気が出できた気がする。メイクも抜かりない。気のせいだろうか。
「なあに? 何かついてた?」
「ううん、なにも……」
美玲ちゃんは時折スマホを見ている。カークンとはボチボチ続いてはいるけど電話を毎日していて、会いたいー会いたいー愛してるぅーって隣の部屋から聞こえてきて……。
東京に行く回数増えてますます会えないから大丈夫かしら。でもどこかで落ち合ってそうだけど東京だと見つかりやすいだろうし。
私は……うーん、今仕事頑張らなきゃ。阿笠先生はね、うん……最近また握手会に来て少し会える。それだけでも嬉しい。
それに定期的に病院でも会えるし……。ランチは無くなったけど……ね。
内診の時に触れられた時の感覚を思い出して……あああああっ。クッションを抱いてしまう。それ以上の関係はないのにー!
「ハナ、大丈夫?」
あああ、恥ずかしいところ見られてしまった。ここ数年誰にも抱かれていない……。
「それにしてもさ、ラジオも全国放送になるし……岐阜の田舎娘の私たちが全国に出るなんて思いもしなかった」
美玲ちゃんがそういうと、由美香さんも頷く。初期メンバーですもんね。
私も初めて見たときは地域のイベントのために集まった女の子たちなんだと思っていたけど。
大野ちゃんが前に言っていた。
『あなたたちの大事な若い時期をアイドルとして過ごしているんだからこそ、終わっても後に残るような活動をしたい』
後に残る……ねぇ。
『大手に引き抜かれた恵ちゃんは覚えている? 今や大所帯のアイドルの一部として活動はしているけどメンバーの数が増えてマネージメントが行き届かない、それぞれの個性が潰されている、センターに立って活躍できる子はほんの一握り。恵ちゃんは押しつぶされ、悔しい思いをしている。辞めたくても学生の頃からアイドルだった彼女は働いたことがない。このままアイドルをやめても行く当てのない未来。恵ちゃんだけでない、何人、何十人のアイドルの女の子たちの未来は確定されていない。露頭に迷わせたくない……だから私たちはメンバーを固定して少人数で今まで頑張ってきたの。厳しいこともたくさん言ってきたけど……ね。』
大野ちゃん、いいこと言うよね。
『あと岐阜や東海ローカルだけではまだまだ。それを通り越して全国で羽ばたこうと考えたの。あなたたちのそれぞれの個性を活かせてアイドル活動を通して成長したら人生の一部、今後の人生の糧にしてほしい』
さすが芸能界に長くいて色々見ている大野ちゃん。でも全国展開へはかなりの大きな賭けだとも言っていた。
……。
それにしても私のスケジュールには東京での仕事は……グラビアだけか。
「あ、トクさんがまたSNS更新してるー!」
私はスマホを開いて、こっそり作ったアカウントでトクさんのSNSを見る。
『ハナの水着、日に日に面積少なくなってないか?』
どこみてるのぉおおおおお!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます