3年目

第三十九話 トクさん…俺はどこにいる?

 なんだかんだで清流ガールズは3周年。メンバーは増えることも減ることもなく地道に活動している。俺も仕事は順調、のようなそうでもないような、でも彼女たちに注ぎ込む愛と生活に充てる金はある。それはすごいと思う。自分で言うか?


 変わったことといえば彼女たちの歌うスタイルだ。踊りがちっともうまくならない鈍臭いハナだが、歌はうまいとのことで彼女を美玲とツートップで歌わせ、由美香さんと悠里はサイドで踊る形に変わったのだ。



 その新体制のせいかどうかわからないが、ハナと由美香の不仲説が流れている。2人のツーショットがなく、会話も流している。明らかに。ハナと美玲もトップ争い、メインの歌をハナが担当するようになったからではと。一番下の悠里はというと、3人の先輩のギスギス感に気を使ってるようだとか、由美香さん派だとか言われて、変な噂を流れるようになったなと。それも人気が出てきた証拠だとかいうも出てきたが、全く根拠のないことをほざくな。



 メンバーの人気比率も美玲ちゃんのトップは独走的だが、初期メンバーである由美香さんを抜いてなんと、ハナが2番目の位置であるのだ。

 少しずつファンも増えていき、美玲ちゃんの次に握手の列が長くなり、会話できる時間も減ったため俺は毎回手紙を書き渡すようになった。


 それと同時に全体のファンも増えて既存のライブ会場では入り切らなくなってしまった。


「あんなに人混みだが、俺がどこにいるかわかるか?」

 とハナに聞くと、相変わらず眠そうな垂れ目で首を傾げて

「うーん、だいたいあの辺かなぁー、あっ、あそこのはちまきにペンライト挿して応援してるのトクさん! て見つけるんでスゥ」

 相変わらず語尾伸びてんな。とろっとろしてて可愛いかもしれんが、そこが元気ハツラツ美玲ちゃんと差がついている原因だぞ! 気付いてないから手紙に書いてやった。読んでるのか?読んでないだろ?


 そんなこと言えずすぐ剥がされる。

「トクさぁん、またきてくださぁーい!」

 わかったよ、言われんでもすぐ行く! また数分並んでハナの元へ。


 彼女たちは岐阜、愛知、東海地区だけでなく、全国の番組にゲストとして呼ばれるようになった。方言が可愛いとのことだが、そんな売り方でいいのか、運営? ただの田舎娘がいきなり都会に放り出されて……。


 それよりも寝る時間はあるのか? ご飯はしっかり食べているのか?

 だんだんファンも増えてきて一人一人の顔と名前分からなくなってないだろうか? 俺のことは蔑ろにしないか?

「トクさぁん、おかえりなさい」

 うはっ、その笑顔で毎日お帰りなさいって玄関にいて欲しい!!! いかん、冷静を保て。

「さっきね、アガサさんがぁ久しぶりに握手に来てくれて。トクさんのこと話してたよぉ」

 他の男の話をするな、何を話してたんだ?

「……そうか。それはそれは……それよりも! ちゃんと寝れてるか?」

「うん、すっごく寝てるぅ! トクさんのくれたアイマスク使ってまーす!」

「ちゃんと寝ろよな」

「トクさんもね。なんか目の下に、クマできてる」

 ……それは昨日ハナが出てる深夜ローカルの旅番組を見てたからな。あいっかわらず人の話を聞いてなくて語尾も伸びてて方向音痴だが可愛さがカバーされてた!


 俺の体調を心配するよりも自分のことを心配しろ。ハナ。


「あ、そいやね。トクさん」

「ん?」

 たく、いつもわかりにくい喋り方をするんだ。だからすぐ耳をダンボにしなくてはいけない。気になって仕方がない。はっきり結論から言えと前も言ったろ。


「だから、今日いたの、一階の左側の後ろの方よね。もっと前に来てくださいー!」

 えっ……あんなたくさんいたのになぜわかった?


「はーい、終わりですー」

 おい、スタッフ! まだ終わってないぞ! ハナはクスッと笑った。え、僕がどこにいたって? え?


 ……後ろにいたのは……新規ファンのために譲ってやったんだよ……。


 てかなんで、俺のいた場所がわかったんだ? 教えろ! ハナ!!!!

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