第三十八話 ハナ…決断
ファンミーティングもなんとか成功し、私たち個人のアイドルとしての自覚も芽生えた気がするし、個人のモチベーションも上がればメンバー間でも絆が更に生まれるようになった。
ライブもますます盛り上がりが増し、ファンミーティングに来た人たちが新規のお客さんを呼んでくれた。
なんと、私にようやく親衛隊ができたのだ。先陣を切ってくれたのはもちろんトクさん。
でも私だけでなく美玲ちゃんの親衛隊総長も兼任してる。最近、頭にハチマキ巻いてそれにペンライト挿して踊ってて。とても目立つ。おもしろい。でもそのおかげですぐトクさん見つけられたけど、すぐそれを真似する人が増えてきてまた分からなくなってきた。それほどファンも増えてきたのだ。
握手会でもトクさん、毎回色々アドバイスしてくれるけど、手紙では相変わらず細かいところを見てくれていて感想を書いてくれるし、褒めてくれる。
意外とマメな人なんだなぁ……。ここまで見てくれる人はトクさんしかいないよ。でも口で言って欲しい。
握手会では美玲ちゃんには及ばないけど列が出来ている。そして私も時間の規制ができてしまい、嬉しいけど一人一人と話す時間が減ってしまった。
トクさんもその短くなった時間の間でも要点まとめて話してくれる。人としっかり目を見て、話すこと……なかなかできなかったけど、トクさんとお話ししていくうちに他の人にもできるようになれた。
……そういえば阿笠先生……握手の列に来なくなった。グッズやCDは買ってくれたと物販の人から聞いたけど……。
とある日のレッスン後、ミーティングがあった。大野ちゃんに、マネージャー、事務所のお偉いさんもいてドキドキする。
なんか重苦しい。何か重大なことを発表するのかな、という雰囲気はある。いつもと何か違う空気に。
美玲ちゃんもキリッとして、由美香さんは不安で私の手を握って、業界に長く在籍してる悠里ちゃんも何かを察して緊張して何度も水を飲んでいる。
大野ちゃんが立ち上がり私たちの目の前で話を始めた。
「いつもお疲れ様。みんなの頑張りのおかげで、ファンも売り上げも順調に伸びています。そして会社にも仕事の依頼がたくさん来ています。東海ローカルだけでなく、東京……つまり全国ネットのテレビやラジオ局からもお仕事が来てるの」
あああっ!ご当地アイドルなのに、全国!?
「あ、まだ東京のお仕事はお声をかけてもらってるだけで……慎重にこちらで検討しているんだけどね。あくまでも私たちは岐阜県のご当地アイドル。地元を愛し、地元の良いところを発信していく……だからどうやって売り出すかも重要なのよね」
なるほど、安易に受けてはいけないってことね。今プロデューサーしてたタッキーが東京へアイドルたちの現場を見に行ったり、テレビ局や雑誌社に売り込みに行ったり、奔走している。ほんと周りの大人たちも私たちのために動いてくれているのだ。
「由美香さんが出演しているドラマが主演の梨岡輝矢くんの効果もあって全国ネットでも放送されることも決まったし。あ、由美香さんには舞台やドラマのお話も入ってるのよ」
「ほ、本当ですか……」
由美香さんは私の手をまだ握っている。彼女はもともと演劇部で、演劇をこよなく愛しているからすごく嬉しいよね。よかったじゃない。
「美玲はたまに行ってる全国ネットの番組のレギュラーも人気だし、ドラマも挑戦してみたかったらオーディション受けてみて」
「は、はい……」
美玲ちゃんは複雑そうな顔をしている。何故か。美玲ちゃんは仕事多いからなぁ……。
「悠里には昔からお世話になっている衣装さんの紹介でトウキョーテレビからお天気お姉さんのお仕事来ているの。交代制だから負担は少ないけどどうする?」
「……検討してみます。ありがとうございます」
すごい……お天気お姉さん!!! 頭もいいしお似合いじゃない。
で、私は?
「これからジャンジャン忙しくなるわよ。その覚悟はある?」
あれ、私は? 他の3人はハイ! と声を出して立ち上がる。
「あの、私は?」
勇気を出して言う。
「あ。そうそう……これから歌に関しては……ハナと美玲のツーセンターでいこうと思うの」
えっ?! 私と、美玲ちゃん……? 私は美玲ちゃんと目が合う。
「ハナ、あなたは歌はうまいけど踊りはダメ。悠里と由美香さんはコーラス兼ダンスで。来月のライブでハナの歌声を本格的に全面に出すわ」
……嘘っ……。私が、私がセンター? あ、美玲ちゃんもだけど。
「よかったじゃない、ハナ……」
と美玲ちゃんが抱きしめてくれた。由美香さんも、悠里ちゃんも。
……涙が出てきた。ずっとコーラスだったから……ほぼメインで歌えるなんて。他の3人はいいの?
「ハナおねえちゃん、歌上手だもの。私、頑張って踊るから!」
由美香さん……
「私も頓珍漢な踊りよりもハナさんは歌に専念した方がいいと思ってました。おめでとう」
悠里ちゃん……ちょっとグサってくるけど!
「ハナと一緒に歌えるの嬉しい!」
美玲ちゃん……!
「あー、あとその代わりなんだけど」
その代わり?
「グラビアの仕事もジャンジャン入れますからね!」
それ、もう即決?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます