第二十三話 トクさん……推しの良いところ

「まぁ、そんなに気を落とすなよ」

 俺は数日くらいの記憶がない。仕事はしたとは思うが、記憶にない。


 なんとキンちゃんとトオルが駆けつけてくれたのだ。この二人同士はほぼ初対面に近い。だが偶然にも来たのだ。

 

「別に美玲ちゃんに会えないわけでもないんやろ?」

「まだ良いじゃん、お前はまだ行けるから」

 そんなこと言われても……。キンちゃんは美玲ちゃんのグループだ。


「キンちゃん、お前には気持ちがわかるかっ!」

「まーまー、落ち着いて。厳選なるグループ分けだったわけで」

「どこが厳選だよ? ……第三希望も外れて……賄賂とか贈ってないよな?」

「そんな、人聞きの悪い……賄賂だなんてー」

 するとトオルが、キンちゃんの持って来た米を持ってきた。


「賄賂……ねぇ。これのことか?」

 ん、キンちゃんの家で作ってる米。トオルが担いできた。俺が不定期にもらっているやつだが……ん? んんんん!!!


『清流ガールズおすすめ地元米!』

 このシールはっ!!! 清流ガールズが地元の農家の商品をアピールするシール。

 まさかと思い、キンちゃんを見るとものすごく目が泳いでいる。このシールいつからあった? 気づかなかったのだが……。


「いやー。そのね、うん……だからといって美玲ちゃんのグループに入れたわけじゃないし……」

 しどろもどろだぞ、なぜか汗も滝のように流れているぞ!


 するとキンちゃんは飛び上がって土下座した。

「すまないっ!! 美玲ちゃんのグループにしてもらうように頼みました! ごめんなさい! メンバーや運営スタッフに米も去年からプレゼントしてました!」

 小柄ながらダイナミックな動き、土下座の潔さ……。てか、米を納めたら美玲ちゃんのグループに入れるって……運営も甘いな。くそっ。


「まぁ、トクさん。潔く正直に謝ったから許してやったら?」

 と、トオルは清流ガールズの会報誌を見ながらいう。……許すも何も……まだキンちゃんは頭を下げてる。


「まぁ、俺は運が悪かったってことで。キンちゃんも毎日米一生懸命作ってるしな」

「トクさん……許してくれるのか?」

 ……こんな俺に対しても慕ってくれるもんな。


「今回の件は許す!!」

「すまなかったぁああああ!!」

「でも、わかっとるやろ?」

「は、はいっ! 美玲ちゃんと同じグループということでその時の出来事を共有します!」

 ん、そんだけかい。……キンちゃんはハッとした。


「ばあちゃんの畑の野菜も……お届けします……」

 おう、そうしてくれよな。トオルは鼻で笑ってるんだが。お前いなかったらキンちゃんと喧嘩してただろうなぁ。米と野菜、後日分けよう。トオルと。



 で、なんとか丸くおさめたところで。


「まぁポジティブに考えて、ハナのことを知るところからじゃねえのか?」

 と、トオルが会報誌の森巣ハナのページを広げた。


 知ることか……正直いって美玲ちゃん以外あまりノータッチ、メンバーがグループのブログで当番制で書いてる記事は毎日チェックしてるが……。

 そこまで深く読んでいないことに気付いた。

「んー、まず美玲ちゃんのどこが好き? 僕は正直顔なんだけど、トークも歌も踊りも完璧なところかな!」

 とキンちゃん。……確かに顔、わかる。

「うーん、僕は頭の回転の速いから有能なタレントになると思うよ。将来を見越して好きになったかも」

 トオル、そうだったのか。大野ちゃんファンだった時も顔よりもプロデュース力を買ってたからな。



 ……俺は……美玲ちゃんの好きなところといえば。

 常に笑顔で元気。笑った時のエクボはチャームポイント。

 ライブの時は全てにおいて完璧なことはもちろん、曲調に応じて表情を使い分ける。


 あとはちゃんと目を見て話してくれるところ、優しく手を触れてくれること、前話したことをしっかり覚えてくれている。


 ブログも引きつける文章と写真、魅力を持っている。そしてラジオの時の優しい声。


 あと体のラインがセクシーすぎず、細すぎず、ぽっちゃりすぎず……清潔、無垢な……。


「トクさん、ニヤけてる……」

「そこまで好きなんだな……美玲ちゃんのこと……尊敬するわ」

 あ、お前ら! 何ひいてる! お前らも美玲ちゃん好きだろ?


 恥ずかしい……晒し者になってしまったではないか。


 にしてもハナッ!

 グループ内最年長ながらもあまりしっかりしてないし、いつも眠たそうな目をしてるし、最近やたらと語尾をダラーって伸ばしてキャラ変を図っててぶりっ子に見える。

 唯一の武器は胸。それ以外に何がある?


「あー、トクさん……意外とチェックしてるんじゃん……しかも胸……」

 二人が若干またひいてる……。るっせぇ、見たまま感じたまま言っただけだ。胸は目立つからであって……。


「まぁ確かに胸はすごい。ブルブルふるえてた、ライブの時。何カップあるんだろ」

「他のメンバーがそこまで無いから目立つのか……にしてもあの胸はやばい」


 て、お前らもハナの胸を見てるじゃねえか。


「でもそれ以外……トークもダメダメだし、アシスタントの時もドジっ子だし、僕はこの子、あと一年でやめるかもしれないから今回のハナちゃんグループはプレミアと思うよ」

 て、賄賂を送った野郎がそうやって言うのは嫌だが、確かにあまり馴染めてないように見えるよなぁ。

 ああいうトロイ子は由美香さんみたいなお姉さんタイプは、イラッときそうだし、他のメンバーも歳が下だし、悠里ちゃんとも差がある。


 ……そもそも本人にはアイドルとしてやっていく決心はあるのだろうか……。


 ああ、こういう子がグループにいるから美玲ちゃんは引き立つんだろうなぁ……残酷なことに。



 トオルとキンちゃんはウマがあったのか、この後飲みに行くそうだ。あれ、トオル……いいのか? ふらついてて。奥さんと子供は?


 俺は荒れ果てた部屋を少しずつ片付けていく。二人のおかげで少し元気になれたけど……。

 掃除中のBGMはもちろん清流ガールズの音源。


 ピロン♪


 あ、ブログ更新の通知音。今日は確か……



 ハナ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る