第二十四話 ハナ……ブログを書こう
私たちの部屋に悠里ちゃんが来てくれている。なぜかと言えば。
「今日はハナのブログ更新日でしょ? だから、さっそくとろいぶりっこキャラを加速させましょう」
流石にいきなりぶりっこキャラは何があったかと思われてしまうので少しずつじわじわ変えていたのだが……。無理してるけど。
私たちはSNSを個人でやらないかわりに、事務所のブログに当番制で書いている。
葉月ちゃんのストーカー事件が本当に酷くて。彼女はとても才能があって可愛く気の利く子だったのに。でも場所とか特定されるような写真を撮ってたし自業自得になんだけどね、厳しいこというと。
こういうのが大野ちゃんにとってアイドルの自覚が無い、というもののひとつだ。
「はい、では出だしはこんな感じで」
パソコンで器用に悠里ちゃんが打ち込む。
『こんばんはー、ハナやぉー』
やぉーって、いうのは、だよーっていう意味で。岐阜の方言で『〇〇やらー』って言うとこもあるけど。確かに他のメンバーもライブのMCでは岐阜弁を強調して喋るんだ。そうするとファンの人たちも喜ぶの。
……普段はそこまで言わないけど……岐阜に住んでるとたまに岐阜弁になってしまうよね。でも大抵言わない。営業方言だ。
悠里ちゃんは次々打ち込む。美玲がジュースを用意してくれた。
『おはよう? こんにちは? こんばんは?』
……更新は夕方。夕方に起きる人もいるかもしれない、ってこと?
「そういえばファンミーティングの結果を送ったらしいからそれも聞いてみるといいかもね」
とまた悠里ちゃんは打ち込む。……わたしは一つも打ち込んで無い。それでいいのだようか。でも聞いた話だととあるアイドルグループのSNSは個人でやってると見せかけて事務所の営業部のみんなで考えてあたかも本人が載せてるように管理してるらしい。
まぁトラブルもあってのことらしいけど……。ううむ。
『ファンクラブ旅行第一弾の結果通知来てるかなー? (😍ハナのグループの人はやぎさん見に行くよー❤️😍
可愛いやぎさんのもぐもぐ顔、一緒に見ようね❤️』
私たちスタッフさんから決められた場所からジャンケンで決めた自由行動の場所が県内の公園の一部にある公園の中にある山羊農園で……自由行動でヤギ、時間もつのかなぁ。しょうがないや、活動費の一部は県から出てるし……県から決められた観光地にファンの人がお金を落とせば万々歳なんでしょ?ダメな、こんな考えするようになっちゃった。
「陶芸体験とか足湯の方が良かったと思う? ……あえてのヤギ。ここでのあなたの行動立ち振る舞いが大事なのよ」
と言うけど……ねぇ。ヤギ……。
『話変わってー。
最近みんなしっかり寝てる? 睡眠大事だよねぇー。😥
毎週ライブあるし、イベント打ち合わせにレギュラー収録、ラジオの生放送、レッスン……1日でも睡眠しっかり取れなったら崩れちゃう😅』
うんうん、わたしはそれプラスエステの仕事もあるし。へっとへと。そんな現実は見せちゃダメだ。
「ハナ、いまぼーっと見てますけど次回は自分で打つんですよ?」
「あ、うん……」
『私はね、ベッドやお布団は山田布団店さんからいただいたものに変えてふかふかでぐっすり寝られるよぉ😌』
ほぉ、ここで私たちアイドル活動に賛同してくださってる地元企業さんのCMをするのね! でも実際はずっと使っている布団が心地良くて使ってないけど。
「はい、ハナ。その布団の上に乗る!」
と、普段着ないようなモフモフのピンク色のパジャマを着ていた私は悠里ちゃんの指示のまま上に乗り、自撮りするよう言われる。
「もっと見上げるように!」
えええ、正面からでいいよ。手はプルプル震えてしまう。美玲ちゃんは少し遠くから心配そうな顔でこっち見てる。
そして撮った写真を悠里ちゃんは素早くスマホで加工。
写真を見たのだが……ちょっと加工しすぎ。写真詐欺!!!
『あとはー加湿器も炊いて、ベッドの上でストレッチしてー可愛いパジャマで寝るの。
私なりの安眠方法。』
……私の安眠方法は子供の頃から握ってるタオルをにぎにぎして、たまに美玲ちゃんの手を握って二人仲良く寄り添って寝ることなんだけどなぁ。パジャマは紺色の高校の時のジャージ……。現実は映せない、わかってる。アイドルですもの。ええ、夢を持たせないと。
そう、私たちのブログはほとんど真実では無い。他のメンバーのブログ見ててもわかる。ああ、私たちも人のこと言えないなぁ。
『前も話したけど、私は地元のエステ店のビューティーマサコで働いてるけど、今日もお一人ご予約ありがとう😊』
あ、ここで私のエステ店の宣伝!!ぬかりないわね。一応お店も私たちの賛同店だから許可済み。現に一人お母さん世代の人のファンの人が来てくれたけど残念ながら大野ちゃんファンの人で、大野ちゃんの紹介なんだよね。
『最近、男性のファンの方からご連絡あるけど残念ながらービューティマサコは女の子専用なの😂ごめんなさーい!
でも、ウエディングプランのみカップルエステ受けられるからその時はご用命くださいませー❤️あと系列店でメンズオンリーのエステあるからご紹介しますね❤️』
本当に宣伝ぬかりない。……なんとも戦略的なブログなんだ。これで夢を与えるのか。……なんか騙してるような気がする。あまりにもやりすぎで。
「なに、その顔。嫌なのはわかるけど……これくらいしないとってわかってるよね……じゃあ更新!」
更新、といってもすぐ更新するわけでなくてマネージャーに送信されて許可出たら更新され、不可ならメールで返ってくる。
私も何度返ってきたことか、だから今回はマネージャーから悠里ちゃんに私へのブログ作成指示に来たといっても過言では無い。
なんだかんだしてたら私のところにメールが来た。
「……あ、マネージャーあっさりオッケーしてくれたわ。次の更新はハナがやってね」
あの文章のままブログは更新された……。いいのかな、こんなので。
悠里ちゃんはもう遅いから、と帰っていった。するとようやく美玲ちゃんは言葉を発した。ずっと黙っていた彼女。
「なんか最近あの子、ハナに馴れ馴れしいのよ。あの甘えん坊の由美香も何か感じて少し距離置いている」
「そんなことないよ……悠里ちゃん、芸能界に長くいるからいろいろわかってる子だし」
「……ハナは無防備よ。でもいい風に捉えれば誰にでも対応できる、悪い風にいえば騙されやすい……心配よ」
……わかってるよ、昔からそうだったもん。
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