第二十二話 ハナ……アピールポイント

 私は今、会報誌の撮影を兼ねて二泊三日の合宿に来ている。

 今週は地域チャンネルのレギュラーもラジオもお休み。お仕事も合宿前に数日のお休みをいただいてある意味長期休み。

 普通に休みは一人で好きなところいけばいいのでは、と言われるが私には友達はいないし家族もいないようなものだし恋人なんていないし。清流ガールズのみんなと過ごせることが幸せだ。


 他のメンバーはせっかくの休みを私のように好んで過ごしてるかどうか私には心境はわからない。みんななにかと隠してる。なにかと自分を装ってる。

 でも私は知ろうとはしないし、知りたくもない。知ったところでがっかりしてしまう。


 美玲ちゃんの彼氏連れ込み事件に、由美香さんの地味さに、大野ちゃんのしたたかさに、悠里ちゃん……この子だけはなんか読めない。


 まぁ、それよりも楽しまなきゃ。カメラマンさんが付き添って時折シャッターを押すからね。

 会報誌にはメンバープライベート旅行♪ てな感じで載せるようだけど、由美香さんバッチリメイクしてるし、美玲ちゃんも甘甘な服着てるし、悠里ちゃんも普段よりも喋って笑ってる。大野ちゃんも混じってわいわい女の子同士の旅行。

 別にいがみ合ってるわけではないから楽しいけど私たちは本当じゃない姿をファンに見せている。

 こういう表情やポーズをすればファンは喜ぶ、ってみんな心得てる。


 そして日中は川で水着撮影。岐阜は海がないからね。親子連れや子供たちがいる中、カラフルな水着で撮影する私たち。かなり浮いてる。


「カメラマンさん、こっちをバックで撮影できない? で、こっちをこーして……」

 大野ちゃんはカメラマンさんに指示を出してる。


 そして私は視線を感じる。いろんな人から。

「やっぱりハナは胸が大きいから注目されるんだよー」

「ちがうよ、美玲ちゃんのビキニと由美香さんのセクシーな背中パックリ水着だからだよ……」

 そしてやたらとカメラマンさんが私ばかり撮影してる気がする。一応女のカメラマンさんだけど……。

「ハナ、あなたをソロで撮りたいからこっちおいで」

 はずかしいよぉぉお。他のメンバーもこっち見てニコニコしてる。いや、一人なんか冷たい目で見てる。

 悠里ちゃん……。着替えてる時に一人こそこそ着替えてたんだけどその理由わかった。


 スタイルは良いんだけど小さなおっぱい『ちっぱい』なのだ!!!

 でもお尻の形がいいのでお尻を向けてポーズをとっていた。さすが、自分のウィークポイントを把握し、強みを表に出す。この業界に10数年間いるだけあってよくわかってらっしゃるが、すごく私を妬むような目。怖い、そんな目をしちゃダメよ。周りに市民もいるんだから!!!

「わたし結構前からグラビアやらされててんです。端役だから水着になるのも早かった……」

 そ、そんなぁ……。てか小学生とかそんな時からってことかしら。かなり苦労してるのね、悠里ちゃん。

 ってやはりみんな私の胸を見る。そんなに見ないで。確かに昔から胸がデカくて……男子に馬鹿にされて。ホルスタインだとか、デカパイとか。の割にはもてなかったんだけど!!!


「ビキニが良かったなぁ、もったいないよ。ビキニに着替えられるかしら、ハナちゃん」

 カメラマンさんが大野ちゃんに聞いている。いや、わたしに聞いてよ……。まぁ決定権はわたしにないけどね!

「あー、これでいいの。ビキニはまた今後。小出しにしたいから……」

 大野ちゃん……。




 旅館でもやはりカメラマンさんがいるからまだまだ清流ガールズのままで。

 温泉入って、浴衣着て、温泉卓球して、やっぱり私は胸が目立つ。私は胸見せるためにアイドルになったわけではない。そもそもアイドルになる気もなかったのに!


 トイレに行くフリしてトイレに引きこもる。歌いたいけど苦手なダンスばかり。大野ちゃんも私が歌うの得意って知ってて今度メインで歌おうね、とか言ってくれたのに……なかなか歌わせてくれない。


「何閉じこもってるのよ」

 ……この声は……悠里ちゃん。

「みんな心配してるよ。そんなに胸出すの嫌だったら嫌だって言えばいいのに」

 ……そんなの言えないよ。私はまだ返事できない。


「てか唯一研究生の中で生き残ったって聞いたらからどんな肝の座った子かと思ったら最年長で、頼りなくてヘラヘラしてて、アイドルにしては賞味期限スレスレの必死に藁を掴んだ胸しか特徴の無い子じゃない」


 ……!!!


「あんたには何もないから胸ばかり注目されるの。踊りも全くできない、トークも本番じゃダメ、撮影も表情硬い。

 もし清流ガールズ無くなったらグラビアからの裏ビデオに流れ着くんじゃないの?

 それか胸の好きなおっさんの愛人とかお似合いじゃない? ヘラヘラ笑っておっぱい出してればいいわけだし」

 あまりにもひどいから私は思いっきりドアを開けて出た。


「泣くんじゃないよ。そんなんで泣いてたらどうするの。この世界じゃやってけないよ。ってさっきの話はわたしも似たようなもんでさ、小さい時からグラビアやらされて男たちの前で際どい服着てニコニコして……そんな仕事ばっかで。別の事務所にいた時、違う現場で偶然出会った今の事務所の社長が助けてくれた。……というかママは社長の愛人じゃないし、社長はわたしにチャンスをくれたの!

 ……ほかにも私は可哀想な目をしてる子たちを、先輩を何人か見てきた。……大野ちゃんも危なかったわ」


 ずっと同じ事務所じゃなかったなら てか……大野ちゃんも……。って、私、涙が出てる……。悠里ちゃんの言ってることが図星で、酷くて……。


 冷たい目をしてる彼女。だが彼女は私に両手を伸ばしてきた。……私は少し手を伸ばすと勢いよく引っ張られ、私を抱きしめてくれた。

 悠里ちゃん……ああ、年下に何慰められてるのよ。でも温かい……そして彼女のお花のような甘い匂い。



 ん? 胸にお顔をうずめる悠里ちゃん!!!そして顔をぱっと私に向けてニコッと笑う。

「一度こうしてみたかったの。やばい……柔らかいおっぱい」

「もぉおおお……」

 初めてみたかも、彼女の笑顔。

「分けてよ……このおっぱい!! このおっぱいさえあれば!!!」


 やっぱり私は胸しかないようだ……。まぁ、しばらくはこれで行くしかなさそうね。


「はい、撮影戻りましょ。終わったら後は部屋に戻って自由時間!! 愚痴ろ、その時に。それまではアイドル、清流……」

「ガールズ!!!!」

 と二人でポーズをとり、私は涙を拭って撮影に戻った。

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