第二十話 ハナ……私を推して欲しいの

 今日は通常ライブのあと、大野ちゃんの部屋でメンバーと鍋パ。と言いたいところだが、美玲ちゃんは今頃私たちの部屋でラブラブチュッチュしてるだなんて……言えない。


「美玲ちゃん来れなくて残念ね。大野ちゃんのお手製、大野鍋美味しいのにぃ」

「体調悪いって言ってたし……でもこの鍋はニンニクに生姜も入ってるからポカポカして体に良いから、やっぱりそっちの家でやれば良かったかしら。食べさせてあげたいわ」

 おおお、それはまずい……今頃二人でポカポカしてるから。


「体調管理もアイドルの仕事の一つです。まぁ休みの日でよかったけど明日の仕事までに治してもらわないと」

 悠里ちゃんはキリッとお仕事モードが抜けていない。最近トレードマークのピンクのフチメガネを掛けてるのだが、未だに掛けっぱなし。

 それを大野ちゃんは外してあげた。


「今はアイドルじゃないよ。はい、食べて食べて。栄養つけて。私たちまで体調崩したらどうすんのよ」

 大野ちゃんは今度のファンミーティングの打ち合わせも大変なのに鍋パまで開いてくれて……。

 ライブもだけどその後の握手会も結構体力もいるのよね。お話は楽しいしファンのこと触れ合えることはできるけど、この子誰だっけとか言ってられないから頭の中フル回転しつつもアイドルのハナでいなくてはいけない。


 ってほど私はファンはいない。残念ながら。

「相変わらず美玲ちゃんの列すごかったなぁ。そりゃあ体調崩しちゃいます……」

「由美香ちゃんだって前よりも並んでたってスタッフさんが言ってたわ」

「あ、ありがとうございます……」

 ものすごく顔を真っ赤にして喜ぶ由美香さん。セクシーさはなく、普通の可愛い女の子だ、本当に。


「悠里ちゃんもまずまずのスタートね。早速悠里親衛隊出来てたし」

「ありがとうございます。昔からのファンの方々が親衛隊やってくださって……でもまだまだ美玲さんや由美香さんには追いつきません」

 私にはまだ親衛隊出来てないからなぁ。悠里ちゃんの握手の列も少し私よりも長かった。悔しい。


「ハナ、売り上げは良かったんだけどねー。もっとファン増やしたいところね」

「はい……」

 実質、阿笠先生がすごいお金出してくれたおかげで美玲ちゃんや由美香さんほどではないがグッズは売れたけどあんなに買って病院で看護師さんや知り合いに配るって……。

 もらった人にとったらこの子誰だってなるよね。絶対……。


「まぁグッズのばらまき作戦で名前が広まればいいけど……」

「甘い! ファンに甘えない。自分からも動きなさい」

 大野ちゃん、もうこの時間はアイドルじゃないって言ったのに厳しい。結局オフでも話はこれになる。

 すると横の由美香さんがこっそり教えてくれた。

「大野鍋を出すときはダメ出し集中砲火覚悟ですよ……ハナおねえちゃん」 

 ダメ出し……。グツグツ鍋から音がするがおどろおどろしく聞こえてくる……。


「美玲は満遍なくファンたちを見て目線を送ってるの」

 多分それ、恋人のカークンを探してるからキョロキョロしているのよね……。


「由美香は固定のファンを得てるけど……他のファンに対してちょっと塩対応すぎるわね」

「すいません……人見知りが抜けないです」

「まぁでもその塩対応で唆られてファンになった人もいるから良かったわね」

 由美香さんは照れて頷く。塩対応が好きな人って……どんだけー。

「褒めてないけどね!」

「はい……」


 私ももっとファン増やさないと……。

「なんなら他のファンを自分のファンにしちゃえばいいのよ」

 と悠里ちゃん。煙の奥から見える彼女の顔が怖い。

「えっ、それは……」

「奪ったもん勝ち」

 と私が取ろうと思った肉を大野ちゃんがかっさらった……。弱肉強食の世界!


「私はそれも考えてます」

 とまた悠里ちゃん。彼女は底から隠していたのか大きな肉の塊を救い出した。

「美玲さんのファンを狙ってます。握手の列まで回数を重ねるにつれて長くなり、待ち時間も増えてる。

 その時にちょっとアピールするチャンスかと。意外とこっちを見てるんですよ……ハナさんはボーッとしてますけどね」

 ……えっ!!! ボーッとしてた??


「ちょっと気を抜かないで頂戴。そうだ、ハナ。そのトロいところ、キャラにしてみない?」

 トロいところって、大野ちゃん……。

「ああ、たしかにちょっとハナおねえちゃんトロいと思ってました……」

 由美香さんまで……。ひどいっ。


「ハナさんのキャラが定まってませんから。今夜はハナさんのキャラ会議ですね」

 悠里ちゃん……この子余裕すぎる!! はっ、大野ちゃんが私をじっと見てる……感心してる場合ではない!


 大野イズム継承者悠里ちゃんも目を光らす。

「私も自分自身の作戦練りたいところだけどハナさんはどうにもならないので」

 そこまで言わないでよ……鍋には肉が全く残ってない。とほほ。


 年下にダメ出しされるって結構キツイ。深夜まで続いた。いいな、美玲ちゃんは今頃愛しのカークンとラブラブ……人気出れば……美玲ちゃんみたいに人気出れば……。

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