第12話 ベール伯爵の悪だくみ

 僕と師匠は森に行く前に、この国の情報が欲しかったのでフードを被って冒険者ギルドに行った。先日の受付の女性がいたので話しかけた。



「すみません。」


「ああ、領主様のところはどうでした?」


「はい。僕と師匠に任せていただくことになりました。」


「そう。良かったわね。でも危険なお仕事よ。」


「はい。聞きました。それより聞きたいことがあるんですけど。」


「いいけど。忙しいから、手短に頼むわよ。」



 なんか受付の女性の態度が素っ気ない。有効な情報が得られるかどうか疑問だ。そんなことを考えていると、突然師匠がオレのフードを取った。全てが丸出し状態だ。すると、受付嬢の態度が一変した。



「君、可愛いわね。こんなに可愛い顔していたのね。ゆっくりとお話聞くから、こっちの部屋においで。」


「僕は師匠と奥の部屋に通された。」


「別にあなたは来なくてもよかったのに。」



 なぜか師匠を邪魔者扱いしている。



「それで聞きたいことって何かしら。」



 受付の女性は僕の手を握ってきた。師匠が睨んでいる。



「ここの領主様って誰かに恨まれているとかありませんか?」


「ここの領主様はできた人だから、人から恨まれるようなことはないわよ。ただ、・・・」


「教えてください。」



 僕は言いづらそうにしている受付の女性の目を見て訴えた。



「いいわよ。でも、私が言ったってことは内緒よ。ここの領主は元々伯爵様だったのよ。でも、人柄もよく、統治能力に優れていることが皇帝様から認められて侯爵になられたの。それを隣のベール伯爵が嫉妬しているのよね。何かにつけて横やりを入れているようよ。」


「ありがとうございます。参考になりました。」


「本当? お姉さん。君の役に立てたの? 嬉しいなぁ~。あなた今日うちに泊まりに来ない? 美味しいものたくさん用意するわよ。」


「ありがとうございます。でも、侯爵様の依頼がありますので、これで失礼します。ありがとうございました。」



 僕が部屋から出ていくとき師匠の顔を見たら、受付の女性と目と目で喧嘩をしていた。

 


「シン。行くぞ!」



 僕は頭からフードを被らされて、強く手を引っ張って連れていかれた。



「師匠。痛いよ。」


「悪いな。シン。いいか。ああいう女にはくれぐれも気を付けるんだぞ!」


「はい。僕には師匠がいますから他は関係ありません。」


「シン。今日は外で何か美味しいものでも食べて帰ろうか? なんでもいいぞ!」



 何か、師匠が急に不機嫌になったり機嫌がよくなったり、僕にはよくわからない。



 翌朝、僕達は森の中に入って行った。森はやたらと広くてどこを探してよいやら見当もつかない。ちょっと立ち止まって考えた。



「師匠。領主様のところだけではなく、街全体に被害が出ているんですよね。」


「そのようだな。」


「だとしたら、水に関係するんじゃないですか? 例えば飲み水とか?」


「シン。お前の言うとおりだ。ならば森から街に流れる川を探ればいい。来い。」


「はい。」



 僕達は森から街につながる川を上流へと向かった。すると、そこには大きな湖があった。そしてその湖にはポイズンフログが大量にいた。いわゆる毒ガエルだ。蛙といっても体長が1mある。それが、ものすごい数で湖に生息していたのだ。



「おかしいな。ポイズンフログがこれほど大量に発生するなんて聞いたことがないぞ!」



 すると、森の中に複数の人影があった。僕と師匠が気配を遮断して木の陰から見ていると、ポイズンフログのオタマジャクシを大量に放流している。さらに、ポイズンフログには鳥の死骸だろうか、エサまで与えているようだった。



「師匠。」


「ああ、わかっている。こいつらが犯人だ。生きたまま捕らえるぞ!」


「はい。」



 僕と師匠は森から彼らの前に飛び出した。



「何者だ?」


「それはこっちのセリフだ! 貴様ら、ここで何をしている!」


「見られたからには仕方がない。こいつらもいつものようにやっちまえ!」


 

 男達は正体を隠しているが、どこかの兵士のようだ。身のこなしが一般人ではない。男達が剣を抜いて切りかかってきた。森の中に隠れている者も含めると10人ほどの集団だ。



「師匠。こいつらは僕が相手をします。森の中の奴をお願いします。」


「わかった。」



 師匠はものすごい速さで森の中に消えた。残った僕は、目の前で剣を持った男達の相手をする。剣で攻撃してくるが、どの攻撃も遅い。僕は刀を抜いて、ミネウチで意識を刈り取っていく。だが、一人だけ僕の攻撃を避けた者がいた。



「お前、ただのガキじゃないな! 何者だ?」


「何者って言われても困るんだけど。」



 僕が相手の言葉をまじめに考えていると、森の中から男を捕まえた師匠が出てきた。



「シン。何をやっている。早く片付けろ!」



 僕は、師匠に怒られるのが嫌だったので、少しだけ闘気を解放した。すると、僕の身体から漆黒のオーラが立ち上る。それを見て、目の前の男は青ざめた。



「俺の負けだ! 降参するよ。」



 男はそう言って剣を捨て、こちらに近づいてきた。そして、懐に隠していたナイフを僕に向かって投げつけた。ナイフが僕の腕に刺さる。



「ウッ!」


「ざまーみやがれ! 俺様の勝ちだ! そのナイフには毒が塗ってある。どうあがいても、お前は死ぬしかないな。」



 僕は腕に刺さったナイフを抜いた。血が噴き出すはずの腕の傷がどんどん修復されていく。



「師匠。ごめんなさい。この人に見られちゃった。」


「しょうがない。他にもいるからいい。そいつは始末しろ。」



 僕と師匠の会話を聞いて男は地べたに座り込んでしまった。刀を持って近づくと、男は土下座して謝り始める。



「ごめんなさい。すみませんでした。命だけは・・・・・・」



 僕は男の首を撥ねた。男の悲鳴で意識を取り戻した男達は、両手を縛られた状態でいる。師匠が近づいて声をかけた。



「お前達にはすべてを話してもらうぞ!」


「誰が話すか! お前達、このままでいられると思うなよ!」


「素直に話せばいいものを、お前達は地獄を見ることになるぞ!」


「脅しても無駄だ! 俺達は絶対にしゃべらねぇ。」


「シン。いい練習台だ。地獄を見せてやれ。」


「はい。師匠。」



 僕は両手を前に出し、闇魔法を発動する。



「へルフォール」



 僕の手から真っ黒な霧が放たれる。その霧は男達を包み込み、男達は深い闇の中に落ちていく。その闇の中で男達は見るもおぞましい魔物達に拷問を受けた。魔物達に殺してほしいと言い出す始末だ。やっと殺してもらったと思ったら、再び魔物の拷問が始まる。男達の精神はすでに崩壊寸前だ。



 僕は魔法を解除した。男達の表情は、拷問から救われたことへの安堵の表情だ。


 

「どう? 話す気になった?」



 声をかけると、全員がすごい勢いで首を縦に振った。



「話します。話しますからお許しください。」



 男達は隣のベール伯爵の部下だった。やはり、セラ侯爵に嫉妬したベール伯爵の指示だということが判明した。僕と師匠は男達を連れてセラ侯爵の屋敷に向かおうと思ったが、その前にやることがある。ポイズンフログの始末と毒の浄化だ。



「シン。私がポイズンフログを全滅させるから、お前が浄化しろ。」


「了解です。師匠。」



 男達は2人が言っていることが信じられない様子だ。師匠が両手を広げて魔法を唱える。



「シャドウアロー」



 空から黒色の矢が無数に落ちる。その矢にポイズンフログは次々に殺されていく。さらに師匠が魔法を唱えた。



「インダクションサンダー」



 空からポイズンフログだけを狙って雷が落ちる。ポイズンフログはすべて死んだ。だが、その死骸が地上に転がり、湖の水面にも浮いている。


 僕は浄化を始める。最初にポイズンフログの始末だ。



「グラトニー」



 僕の手から出た光がポイズンフログの死骸をどんどん飲み込んでいく。そしてすべての回収が終わった。後は浄化だけだ。



「プリフィケーション」



 僕の手から眩しい光が放たれる。湖や地面から黒い霧状のものが上空に浮き上がっていく、そして黒い霧は光の粒子となって地上や湖面に降り注いだ。その光景はまさに神の御業である。



「あなた様は神ですか?」


「えっ?!」



 人には言えないが、師匠と同じ魔族の自分が神であるはずもない。



「僕は人間だよ。」



 僕と師匠はすでに素直になった男達を連れて、セラ侯爵の屋敷に連行した。



「ナツ殿、シン殿。この者達は?」


「はい。ベール伯爵の部下です。彼らが森の中の湖にポイズンフログを使って毒を撒いていたのです。僕と師匠で捕らえました。」


「ベール伯爵の指図かね?」


「そのようだな。シンの魔法ですべて白状したからな。」


「ならば、そのポイズンフログを討伐しなければならぬな。それに、湖の浄化となるとどれほどの時間がかかるやら。」



 セラ侯爵は頭を抱え込んでしまった。



「セラ侯爵。それなら大丈夫だ。ポイズンフログはすべて討伐した。それにシンが湖の浄化もしたからな。」


「まさか。まさか。そのようなことまで。そなた達は何者なのだ? 神の使いか?」


「いいえ。僕達は修行の旅をしている普通の人間ですよ。」



 僕は師匠の顔を見た。師匠も僕の顔を見て微笑んでいた。



「それで、どうするんだ?」


「どうするとは?」


「ベール伯爵ですよ。このままにしておいていいんですか? また悪さしますよ。」


「あいつのことは皇帝陛下に報告しよう。」



 僕達は約束の白金貨5枚以外にさらに白金貨を5枚余計にもらった。そして、セラ侯爵の屋敷を後にした。屋敷の奥から視線を感じたが、この際無視することにした。



「どうやら、セラ侯爵のお嬢さんはシンのことが気に入ったようだ。」


「僕は師匠がいてくれればそれだけでいいんです。」



 師匠に抱き着かれて歩き辛い。2人はじゃれ合いながら街を歩いた。

  

 

「師匠。ベール伯爵はどうしますか?」


「罰を与える必要がありそうだな。」


「じゃぁ、行きましょうか?」



 その後、僕と師匠はベール伯爵の屋敷に忍び込み、全裸状態にして伯爵領の街の中央広場に張り紙を付けて縛っておいた。



 “この者、悪事を働いた故、ここに成敗する! 2人の天使より”

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