第10話 人攫いの人族達

 キャサリンさんが帰った後、僕はいつものように師匠とお風呂に入って一緒に寝た。さすがにもう、身体は自分で洗っている。


 翌日広場に行くと女性達が集まっていた。今日はキャサリンさんが村の女性達と森の中の畑に果実を取りに行くらしい。僕と師匠は用心棒代わりに同行することにした。霧の結界を抜け、森の中を歩いていく。今のところ僕の気配感知には反応がない。さらに森を進んでいくと、ブドウやモモのような果実が実っている場所に出た。少し開けた場所になっていた。



「シン。気付いたか?」


「はい。待ち伏せしていたみたいです。」


「もしかしたら、村の中に内通者がいるかもしれないな。」



 確かに不自然だ。村の女性が村の外に出ることはめったにない。それにもかかわらず、外で待ち伏せされていたのだ。しかも、僕達の目的地で待ち伏せしていたのだ。



「シン。救出は後にしてしばらく様子を見ようか?」


「はい。」



 僕はキャサリンさんに男達が隠れていることを話し、抵抗しないで捕まるように言って、師匠と一緒に森の中に隠れている。エルフの女性達がブドウや桃のような果実を収穫していると、森の中から武装した男達がぞろぞろと出てきた。ざっと50人はいそうだ。ここにいるエルフの女性達は20人程なので、とても対抗できる状態ではない。



「あなた達は何者ですか?」


「そんなことはどうでもいいんだよ。素直に捕まれば怪我はしないが、抵抗するなら容赦はしないぜ。」


 抵抗しようとするエルフ族もいたが、キャサリンさんがそれを止めた。そして、キャサリンさん達が両腕を後ろに縛られて、森から連れて行かれそうになった時に、森の中からエルフの男が現れた。最初に村に入ろうとした時に攻撃的に言ってきた兵士だ。



「ドメル! あなたが裏切っていたのね!」


「キャサリン。生きていくにはしょうがないんだよ。俺は人族の街に出て、この金で面白おかしく暮らすのさ。何ならお前を奴隷として買い取って遊んでやってもいいんだぜ。」



 隣にいる師匠の顔が真っ赤になっていく。どうやら相当怒っているようだ。



「シン。行くぞ!」


「はい。」



 僕達が森から出ていくと、人族達がこちらを見ている。



「珍しい。こんなところに女と子どもか。見られたんじゃしょうがねぇな。女は生かしておけよ。たっぷり遊んでやってから始末するからな。子どもの方は好きな奴がいれば遊んでもいいぞ!」



「ウヒョ―――――! 上玉じゃねぇか! 俺が最初だぜ!」



 男が師匠に一歩近づいた。その瞬間、男の首が上に吹き飛んだ。



「ひえ―――――!」


「どうした? 何があった?」



 僕も空間収納にしまっていた刀を取り出した。



「こいつら逆らう気ですぜ! お頭!」


「もう許さねぇ! 殺せ! こいつらを殺せ!」



 50人いる盗賊達が一斉に僕と師匠に襲い掛かってきた。僕は瞬間移動ですぐさまエルフの女性達のところに行き、縄を切って開放した。



「キャサリンさん。ここで隠れていてください。」


「はい。」



 戦闘の様子を見ると、すでに師匠が10人以上を倒している。状況が不利だと思ったのか、エルフの裏切り者の兵士ドメルがその場から逃げ出そうとした。



「あの女と小僧がここまで強いとは計算外だ。俺は逃げさせてもらうぜ。」


「貴様、裏切るつもりか! 裏切りは許さねぇ!」



それを、人族のお頭と呼ばれる男が阻止して首を刎ねた。僕はお頭のところまで一気に駆け抜け、刀で切りつけた。お頭も剣の腕はあるようで、僕の攻撃が防がれた。



「小僧。少しはできるようだな。」


「僕はあなたを許さない。」



お頭が剣を上段から振り下ろしてきた。僕はその遅い剣を指で掴んで、腹に蹴りを入れた。そして、剣を取り上げお頭に向かって刀を振り下ろそうとすると、土下座して泣きながら命乞いし始めた。



「すみませんでした。俺が悪かった。許してください。お許しください。」


「あなたはそうやって命乞いした者達を助けたことがあるのか?」


「・・・・・」



 僕はお頭の首を刎ねた。その後は一方的だった。さすがに面倒なので魔法で攻撃しようと師匠に声をかけた。



「師匠。下がっていてください。一気に片を付けますから。」



 師匠が下がったところで僕は魔法を発動した。



「シャドウアロー」



 空に無数の黒い矢が現れる。その矢が人族達に容赦なく降り注いだ。人族は全員が頭や胸を矢で射抜かれて死んでいた。



 しばらくして、その場が落ち着くと、エルフの女性達が駆け寄ってきた。



「ありがとうございました。何とお礼を言っていいのか。」


「キャサリンさん。これで安心して森に出られますね。」


「はい。シン君とナツ様のお陰です。ありがとうございました。」


「今日は宴を催しますのですぐに村に帰りましょう。」



 師匠と僕は顔を見合わせて、キャサリンさんに言った。



「用件は片付いたから、僕達はまた旅に出ます。」


「そんなことをおっしゃらずに村に戻りましょう。」


「ありがたいですが、やはり僕達はここで失礼します。」



 最後にキャサリンさんが僕を抱きしめてきた。




 “なんか子どもって役得だよなぁ。”




 僕が鼻の下を伸ばしていると、師匠に手を引っ張られた。



「痛い! 痛いです! 師匠!」



 そして僕達はエルフの森を後にした。



「師匠。これからどこに行くんですか?」


「この森を抜けて5日ほど歩いたところに確か街があったと思うぞ!」


「人族の街ですか?」


「ああ、そうだ。だが、100年近く昔の話だからどうなっているかわからんがな。」



 僕は小声でうっかり言ってしまった。



「師匠って本当に何歳なんだろう?」




 “ポカッ”




「痛ッ!」


「女性の歳のことは考えるな!」




 “なんでわかったんだろう?”




 僕達は楽しく旅を続けた。

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