第9話 森の大精霊ドリアード

 エルフ族の村に入った僕と師匠はキャサリンに連れられて族長の家に案内された。さすがにそこではフードを取るように師匠に言われたのでフードは取った。



「そなた達がキャサリン達を助けてくれたのか? 感謝する。わしはこの村の族長のゲーテだ。」


「私はナツ。こっちは弟子のシンだ。」


「これは美しい姉妹だな。」


「いいえ。僕は男です。」


「なんと?! それはすまなかった。」


「ゲーテ殿。キャサリン殿が言っていたが、最近エルフ族が襲われる事件があったとのことだが。」


「そうだ。自分で言うのもなんだが、エルフ族は男女ともに容姿が整っているものが多い。それゆえ、人族の街に行っても人気者になる事が多いのだ。逆に言えば、人族にしてみればいい商品になってしまうのだろう。」


「なるほど。確かに人族の中にはそういう輩もいるからな。」


「師匠。僕達で何とかしましょう。」


「そなたたちが協力してくれるのか?」


「ああ。私とシンも協力しよう。」


「それは心強い。お願いする。では、娘のキャサリンにこの村を案内させよう。」



 僕と師匠はキャサリンさんに村を案内してもらうことになった。僕はフードを外していいと師匠から言われたので、今はフードをしていない。僕は右手を師匠と左手をキャサリンさんと繋いでいる。まさに両手に花だ。村の中を歩いていると、確かに村の中にも店はあるが、ほとんど野菜と果物ばかりで肉を売っている店がない。



「キャサリンさん。エルフ族は肉を食べないんですか?」


「そうね。普段はあまり口にしないわよ。シン君はお肉が好きなの?」


「はい。師匠の肉料理は最高です。」



 師匠は何やら横を向いてしまった。



「キャサリン殿を見た時も思ったが、やはりエルフ族は美男美女が多いな。」


「はい。私達は元々妖精族ですから。特にその中でも、妖精の色が濃く残っている種族ですので。」



 ここで、師匠がキャサリンに質問した。



「確か、魔族にもダークエルフ族がいると思うが。」


「はい。彼らも元々は我らと同じ種族です。魔素を多く取り入れたために肌の色が変色してしまったと考えられています。」


「ダークエルフ族は魔族の中でも魔力が強いと聞くが・・・・」


「そうですね。恐らく我々エルフ族よりも魔力は強いと思いますよ。ですが、ナツ様は魔族にお詳しいですね?」


「いろいろと旅をしているので、小耳にはさんだまでのことだ。」



 僕は師匠の顔を見た。少し焦っているようだった。その仕草がかわいく思えた。



「ナツ様。シン君。この家を使ってください。」



 キャサリンさんに案内された家はさほど大きくはないが、よく手入れがされていて奇麗な状態だった。案内された家でしばらく休んだ後、早速僕は師匠と森に向かった。森の奥の方から魔物の魔力が感じられた。僕と師匠が反応のあった地点に行くと、巨大な植物がホーンボアを捕まえて食べていた。 



「師匠。あれは何ですか?」


「マンドラゴラだな。あれは魔物や人を襲って食べる食人木だ。木の魔物のくせに素早く動き回るから注意しろよ。シン。」


「はい。師匠。向こうにもいますよ。」



 マンドラゴラが2体いた。1体はホーンボアを食べ、もう1体は巨人のような樹木を襲っている。


「シン。お前は向こうのマンドラゴラを倒せ。早くしないと、森の精霊であるエントが食われてしまうぞ!」


「はい。」



 僕はエントを襲っているマンドラゴラに向かって『ウインドカッター』を放つ。マンドラゴラの手のような枝が切落とされた。しかし、次の瞬間再びマンドラゴラの本体から枝が出て、僕の手と足に絡みついてきた。僕は瞬間移動でマンドラゴラの拘束から逃れ、翼を出してマンドラゴラの上に飛んだ。マンドラゴラの枝が僕に向かって伸びて来る。空間収納から刀を取り出して、枝を切っていくが、切られた枝はすぐに再生してしまう。その時、洞窟での試練を思い出した。




 “確かあの時も同じだった。あの時は刀に魔力を込めたんだ!”




 僕は刀に魔力を込める。すると、刀は眩しく光り出し青白い炎に包まれた。僕はマンドラゴラの枝を切り落としながら、本体を上段から切り裂いた。マンドラゴラは2つに分かれ、その場に倒れた。



 僕が師匠の方を見てみると、すでにマンドラゴラを倒して僕の戦いを見ていたようだ。



「なるほど強くなったようだなぁ。シン。それで、その刀はどうしたのだ?」


「はい。ドワーフのドワンさんという方から頂きました。」


「ドワンからか?!」


「師匠はドワンさんを知っているんですか?」


「知っているも何も、その刀をドワンに渡したのはこの私だ。」


「やっぱり!!」



 僕はまじまじと師匠の顔を見た。師匠が使いこなせない刀を僕が使っている。何か嬉しくてニヤニヤしてしまった。



「まっ、まだまだ使いきれてないようだがな!」


「そうなんですか?」


「ああ、その刀の本来の力はそんなもんじゃない。でも、いつか使いこなせるようになるかもなぁ。」


「努力します。」



 僕が師匠と話をしていると、森の精霊エントの隣に眩しく光る物体が現れた。光が収まるとそこには向こうが透けそうな美女が立っていた。



「私は森の大精霊ドリアードです。仲間のエントを助けていただきありがとうございました。」


「僕はシンです。」


「私はナツだ。」


「失礼ですが、あなた方からは膨大な魔力を感じられます。特にシンさんあなたのその魔力は・・・・」



 大精霊ドリアードの言葉を遮るように師匠が話し始めた。



「大精霊ドリアード、私もシンも修行(・・)の(・)身(・)なのだ。」



 大精霊ドリアードは師匠の顔を見た。お互いの目が交差している。そして、何かを感じ取ったのか話題を変えた。



「シンさん。助けていただいたお礼にこれを持っていてください。何かの役に立てるかと思います。」



 大精霊ドリアードが緑色の玉を僕に渡してきた。それを受け取ると緑の玉は身体の中に消えてなくなって行った。何か体の中に熱いものを感じた。



「ドリアードさん。あれは何だったんですか。」


「大精霊の宝珠ですよ。シンさんの身体に私の一部が流れ込んだのです。シンさんが願えば、私はいつでもシンさんのもとに現れますよ。それに、私の持つ力をそのまま利用することも可能ですよ。」


「そんな貴重なものを。ありがとうございます。」



 僕が師匠の顔を見ると、師匠は微笑みながら僕の頭をなでてくれた。



 その日、僕達がエルフの村まで帰ると、家の前ではキャサリンさんが待っていた。



「キャサリンさん。何かあったんですか?」


「村の者が森でマンドラゴラを見かけたというものですから、心配になって様子を見に来たんですよ。でも大丈夫そうですね。」


「森にマンドラゴラが2体いましたよ。僕と師匠で退治しましたから、安心してください。」


「本当ですか? マンドラゴラをお二人だけで討伐されたんですか?」


「ええ、2体いましたから、師匠と僕で1体ずつ倒しました。」


「えっ―――――!」


「その時、エントを助けたらドリアードさんにお礼を言われましたよ。」



 キャサリンさんは僕の言葉を聞いて気絶した。恐らく、キャサリンの許容量を超えてしまったのだろう。

 

 キャサリンさんを家の中まで運び、いつものように料理の準備を始めた。井戸の場所が分からなかったので、僕が水魔法で水は用意した。料理が出来上がるころキャサリンさんは意識を取り戻した。



「私、どうしたのかしら?」


「気を失ったんですよ。ご飯の準備ができますから、キャサリンさんも一緒にどうですか?」


「悪いですよ。」


 

 キャサリンさんは師匠の顔を見て確認している。



「シンが言っているんだ。一緒に食べて行けばいい。だが、味の保証はしないぞ!」



 食事中、キャサリンさんにドリアードさんのことを話した。森の管理をするエルフ達でさえ大精霊であるドリアードさんに会うことはないらしい。ものすごく珍しいことだったらしい。




“キャサリンさんには言えないなぁ。僕の体の中にドリアードさんから頂いた宝珠があるなんて!!”

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