第8話 エルフ族のキャサリン
山の中腹で意識を失ったはずなのに、僕が目覚めると懐かしい匂い、懐かしい景色があった。
“ここは?!”
「目が覚めたか? シン!」
「もしかして、師匠?! 師匠ですか?」
そうだ。目の前にいたのはナツ師匠だった。
「師匠――――――!!!」
僕は年甲斐もなく師匠に泣きながら抱き着いた。師匠は優しく僕の頭をなでている。しばらくして、僕は師匠から離れて聞いた。
「どうして僕がここにいるんですか?」
「お前が山の中腹で倒れているのが見えたからな。」
「師匠はずっと僕のことを見ていたんですか?」
なんかすごく恥ずかしくなった。
「すっとではないぞ! 私もそんなに暇ではない。たまに見ていただけだ。」
「でもどうやって見ているんですか?」
「ああ、私ぐらいの魔族になると知っている魔力を感知して、見たいところは見えるようになるのさ。」
「なら、知らない魔力は見ることができないってことですか?」
「その通りだ。」
「ありがとうございます。心配かけてすみませんでした。」
「どうやら、お前も1人前になったようだな。」
「そうなんですか?」
「まぁ、いいさ。そのうちお前にもわかるだろうさ。それより食事にしよう。」
久しぶりに師匠の作った料理を食べた。感激のあまり食べながら涙が出てきた。
「そんなに旨いか?」
「はい。すごく美味しいです。」
「そうか。沢山食べろよ。・・・・・・・・・シン。お前に言っておかなければいけないことがある。」
師匠が珍しくまじめな顔で話し始めた。
「何かあったんですか?」
「いいや。これからのことだ。お前も人族の世界で感じたかもしれないが、人族の世界も魔族の世界も雲行きが怪しくなっている。」
「どういうことですか?」
「再びこの世界が混乱の時代に入ろうとしているのだ!」
「混乱の時代ですか?」
「そうだ! 人族同士で争ったり、人族と魔族で争ったり、その度に大勢の犠牲者が出る。」
「師匠の力で何とかならないんですか?」
「それは無理だ! 私にはそれほどの力はない。」
「師匠に無理なら、だれにも止められないです。」
「お前だ! シン! お前になら混乱の時代が来るのを止められるかもしれん。」
「僕ですか?――――――――無理です! 師匠にできないのに僕には無理です!」
「私も協力しよう。ともにこの世界の混乱を止めるぞ!」
「ずっと師匠といられるなら、僕、頑張ります。」
師匠が僕を胸の中に抱き寄せた。
「私もお前を失いたくない。ともに進もう。」
その後、僕は食事の後片付けをして、久しぶりに師匠と一緒にお風呂に入って一緒に寝た。
以前のように師匠に抱き枕にされたが、嫌ではなかった。師匠の甘い匂いで僕はぐっすり寝ることができた。
朝起きると以前のように僕は井戸に水汲みに行き、野菜を畑からとってきて、師匠が料理する準備を整えた。そして朝食を食べた後、これからの計画を立てた。
「師匠。最初は人族の国ですか? それとも魔族の国ですか?」
「お前も相当力を付けたようだが、実践が足りていない。いきなり魔王城に行っても勝ち目がないだろう。」
「勝つってどういうことですか?」
「魔族は力がすべてだ! 相手を倒して言うことを聞かせるしかないのだ!」
「師匠より強い魔族がいるんですか?」
「ああ、いるさ。特に今の魔王ブラゴは強いぞ! あいつは好戦的な奴だ! 人族を滅ぼすなんてことを言い出しても不思議ではないな。」
「そんなに強いんですか?」
「恐らく、私が戦ってもよくて相打ちだな。」
「師匠は戦わなくていいです。僕が戦いますから。」
師匠は嬉しそうに僕の頭をなでた。
「ならば、先に人族の国に行くんですね?」
「ああ、そのつもりだ。お前の修行も兼ねてな。」
「ところで、師匠に聞きたかったことがあるんですが?」
「なんだ?」
「僕と師匠は魔族の中の何族なんですか?」
師匠は黙ってしまった。何やら考え事をしているようだった。しばらく考えた後、師匠が教えてくれた。
「私は堕天使族だ! 恐らく・・・・・・シン、お前も同じだ!」
僕は師匠と同じ種族だと言われて天にも昇るほど嬉しかった。
「本当ですか? 僕は師匠と同じなんですね!」
僕の喜んでいる姿を師匠は複雑な顔で見ていた。
そしていよいよ準備も整い、旅立ちの時が来た。僕は覚えたての空間収納に荷物をしまって、師匠とともに旅に出た。師匠は僕よりも身長が大きいし、傍から見れば母と息子、もしくは姉と弟のように見えだろう。僕は師匠に言われた通り目立たないようにフードを被り、師匠と同じように翼は仕舞っている。
僕達はエドガー伯爵領のケアサの街の近くに転移した。前回は高い山を越えていく経路を取ったが、今回は山の麓沿いに迂回してく順路で進むことにした。確かに道はあるが、山の麓ということもあり道が細く、深い森の中を複雑に進んでいる。
「シン。感じるか?」
「はい。どうやら3人いそうです。どうしますか?」
「無視しておけばいいさ。ちょっかいをだしてきたら相手するけどな。」
僕と師匠の後を付けてくるものがいるようだ。ただ、殺意は感じられない。すると、気配を感じていた方から悲鳴が聞こえた。
「キャ―――――」
僕と師匠が駆け付けると男女3人のエルフが、グレートウルフの群れに囲まれていた。すでに一人は怪我をしているようだった。
「師匠どうします?」
「放って置く訳にもいくまい。」
僕は『エアーカッター』でグレートウルフの首を刎ねていく。
「ギャイン、ギャイン」
5匹倒してところで、残りのグレートフルフは逃げて行った。僕と師匠はエルフ達に声をかけた。
「お前達、ずっと我らの後をつけて来たようだが何か用事か?」
「・・・・・・」
「助けてもらって感謝の言葉もないのか?」
若い女性がお礼を言ってきた。
「あ、あ、ありがとうございました。」
師匠は空間収納から薬を取り出し、怪我をしているエルフの手当てを始めた。
「この薬は少ししみるが効きがいいからな。我慢しろよ。」
「ウウッ――――」
「さあ、これでいい。私達は先を行くが大丈夫か?」
すると、お礼を言ってきた女性が僕達に声をかけてきた。
「最近、私達の同胞がこの近くで襲われる事件があったので、見回りをしていたんです。何もお礼はできませんが、村までお越しいただけませんか?」
僕は師匠の顔を見た。師匠の顔が穏やかになっている。
「わかった。怪我人がいては、魔物達から身を守ることもできまい。我らが同行しよう。」
「ありがとうございます。」
僕達はエルフの女性について行く。森の奥へ奥へと入って行った。すると、なにやら辺り一面に霧が立ち込め始めた。そこで師匠が教えてくれた。
「シン。これがエルフ族の結界だ。この霧で、村の所在地をわからなくしているんだ。」
「エルフ族ってすごいんですね。」
素直な僕の言葉で同行しているエルフ族の人達の顔も笑顔になっていた。
「君はシン君っていうのね。私はキャサリンよ。よろしくね。」
キャサリンさんが僕の頭をなでてきた。一瞬フードが取れかかった。すると僕の顔が見えたようで、キャサリンさんが話しかけてきた。
「シン君は男の子よね? 可愛いわね。どうしてそんなに可愛いのにフードをかぶっているの?」
「目立ちたくないからです。」
「そうね。それだけ可愛いと目立つわよね。」
「ゴホッン」
師匠が咳払いして助けてくれた。しばらく行くとエルフの村があった。村に入ると武器を持ったエルフの兵士がやってきた。
「キャサリン様、お帰りなさいませ。後ろにいるのは人族ですか? なぜ人族を村に連れてきたのですか?」
「ああ、この方達は我々の命の恩人だ。心配ない。」
「わかりました。」
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