第7話 シンの試練

 エドガー伯爵の治めるケアサの街を後にした僕は、行くあてもないまま道なりに歩いている。目の前には大きな山があった。山の頂付近は白色をしている。恐らく雪が積もっているのだろう。僕は、修行の一環として山に登ることを決めた。


 山の麓には森が広がり、様々な野生動物や魔物がいた。僕は、野生動物は無視して、魔物だけを狩りながら進んだ。そして山頂に行く途中で大きな洞穴を見つけたので、その中に入って行った。


 洞窟に入るとすぐにゴブリンに遭遇した。僕はゴブリンを手刀で葬っていく。どのくらい倒したかわからないが、不思議なことに僕が倒したゴブリンは、その場で霧となって消えてしまった。さらに奥に進むと大きな扉があったので、注意しながらその扉を開けると、身体が2mはありそうな大きさのゴブリンがいた。どうやらゴブリンキングらしい。手には大剣を持っている。



「ギャギャギャ」



 ゴブリンキングが何か言った。すると、ゴブリンキングの周りに1周り小さなゴブリンが3体現れたので、僕は刀を抜いてゴブリン達に攻撃を仕掛けた。さすがにゴブリンは弱い。いとも簡単に3体を倒すと、ゴブリンキングは怒りの表情を浮かべて襲い掛かってくるが、僕はゴブリンキングを一刀両断した。すると、ゴブリンキングも霧となって消え、不思議なことに目の前に階段が現れた。僕はその階段を下に降りていった。



 下に降りたところで一休みしていると、何やら音が聞こえてくる。



「ブ~~~~~ン」「ブ~~~~~ン」



 目の前に現れたのは蜂の大軍だ。しかも、ただの蜂ではない。どう見ても30cmほどの大型だ。刀を取り出して蜂を切りまくったが、蜂の数は減らない。むしろ増えている。




 『火魔法で燃やし尽くせ』




 以前に聞いたことのある声だ。僕は言われるまま火魔法を発動した。すると、蜂がどんどん燃えていく。そして、最後の1匹も霧となって消えた。




 “あの声、なんなんだろう。誰かに見られているのかなぁ?”




 先に進もうと歩いていると、今度は大きなカマキリだ。カマキリは大きな鎌を振り回してくる。刀でそれを受けるが、後ろに大きく飛ばされた。カマキリが後ろにもいたらしく、背中を鎌で切られた。



「痛~!」



 自己修復で傷が治っていく。



 

 『氷魔法を使え』




 まただ。またあの声が聞こえた。僕は氷魔法でカマキリを凍らせた。凍ったカマキリは手刀で簡単に倒すことができた。そして、奥には再び大きな扉があった。



 扉を開けるとそこには見たことのない魔物がいる。頭が蜂で、手は鎌になっていた。背中に羽根が生え、お尻はサソリのような形態だ。どうやら虫型のキメラらしい。




 “こいつずるいなぁ。他の魔物のいいとこ取りしているよ。”




 僕は刀で切りかかったが、キメラの鎌で防がれた。逆にサソリのような尻尾から毒針が飛んでくる。僕はそれを転びながら避けた。




 『瞬間移動して首を刎ねよ』




 “瞬間移動? なんだ? それは!”




質問には答えてもらえないようだ。自分で考えるしかない。瞬間移動は自分の場所を一瞬で移動するってことだ。そんなことを考えながら、試してみるが発動しない。その間にもキメラが毒針で攻撃してくる。僕が見せた一瞬のスキをキメラは逃さなかった。鋭い鎌で僕を押さえつけてきた。僕は刀でそれを防いでいるが、地面に抑え込まれている。そこにキメラが毒針で攻撃しようとしている。絶体絶命だ。僕は瞬間移動を強く念じた。次の瞬間、僕の身体は上空にあった。




 “やった――――! できた!!”




 攻撃から逃れられたことよりも、瞬間移動ができたことの方が嬉しかった。僕は再び瞬間移動してキメラの頭付近に行き、刀でキメラの頭を切り落とした。キメラは霧となって消えていった。




 “ああ~、疲れた~!”




 僕は再び現れた階段を下に降りて、辺り一帯に結界を張って本格的な休憩を取ることにした。  


 しばらく休んだ後、再び歩き始める。すると今度は前方から手に斧を持ったオークだ。自分の知っているオークよりも体が大きく動きが速い。




 “どうなっているんだ? オークってこんなに強かったかなぁ?”




 刀に炎の魔法を付与してオークに切りかかった。だが、オークは数が多く、脂肪が多いために切れ味がよくない。1匹倒すごとに刀に油が付着していく。炎で焼ききれると思っていたが、思った以上にオークの脂肪はしつこかった。オークをすべて倒すと扉が現れた。息を整え、扉を開けて中に入っていく。中には思った通りオークキングがいた。オークキングは自己再生の能力を持っている。簡単には倒せない。


 オークキングは僕を見つけると大声をあげて斧で切りつけてきた



「ブホー」



 僕はそれを避けて足に切りつけた。足からは血が噴き出すが、すぐに修復されていく。そして再びオークキングが斧で切りかかってきた。今度は魔法で腕を切り裂く。



「ウインドカッター」



 オークの腕が地面に落ちた。しかし、落ちた腕は霧となって消え、再びオークの腕が生えてきた。




 『刀に闘気を籠めよ』




 また、声が聞こえた。僕は刀に闘気を込めていく。刀が眩しく光りだした。そして、刀身から光があふれ出す。


 僕は翼を出し、大きくジャンプしてオークキングの頭上から上段の構えで刀を力いっぱい振り下ろした。すると、オークキングの斧も体も2つに切れた。再び復活するかと思い、地面に降りて構えたが、オークキングは斧とともに霧となって消えていった。



 ここまで来て不安になってきた。この洞窟がどこまで続くのか見当もつかないからだ。僕は階段を引き返そうと探したが、下に降りる新しい階段以外は見つからなかった。




 “仕方ないなぁ~。下に行くしかないのか。”




 下に降りた後、鞄の空間収納から肉を出して火魔法で焼いて食べた。のども乾いていたので、水魔法で水を出してそれを飲んで我慢した。


 次の敵を探して歩き回っていると、骨のお化けが剣を持って襲ってきた。スケルトンだ。その後ろには腐った肉体のゾンビ達もいる。僕は地球にいた時の知識から刀に光魔法を付与して、敵を切り倒していく。思った通り光魔法は有効だった。スムーズに進んで、目の前に扉が現れた。今までと違い、かなりゴージャスだ。これで終わりかもしれないと期待に胸を膨らませて部屋に入った。するとそこには骸骨が豪華な服を纏って立っていた。




 “もしかしてこいつはノーライフキングか~? だとしたらやばいなぁ!”




 僕はかなり焦った。自分の知識の中ではノーライフキングは不老不死で最強の魔物だ。倒す手段が見当もつかない。ノーライフキングが魔法で攻撃してきた。とてつもなく大きな火球を放ってきたのだ。僕は『ウォーターウォール』を発動して何とか防いだが、辺り一面水蒸気で何も見えない。すると、ノーライフキングが剣で切りかかってくる。僕は避けきれずに手に怪我を負った。だが、自己回復で傷が癒えていく。




 “このままじゃまずいな。どうしようかな?”




 『空間魔法を使え』




 声が聞こえるが、空間魔法はほとんど使ったことがない。それに空間魔法をどう使えばいいのかわからない。再び、ノーライフキングが火魔法を放ってきた。僕は師匠がくれた鞄のことを思い出して、空間収納してみようと手を前に突き出して魔法を唱えた。



「ブラトニー」



 すると、ノーライフキングが放った巨大な火球は僕の手から放たれた光の中に吸い込まれた。




 “やったぞー! これなら不死身のノーライフキングも倒せるかもしれないぞ!”




 僕はすべてを吸い込むもの、“ブラックホール”を頭の中に思い描いた。



「ブラックホール」



 魔力を高め右手を前に出して、魔法を発動した。すると、ノーライフキングの頭上に黒い渦が現れ、ノーライフキングを吸い込んだ。




 “ハ―――――! これで終わったのかなぁ?”




 だが、目の前には下に続く階段が現れた。正直、僕の精神はもう崩壊寸前だ。仕方がないので、階段を降りるとそこは真っ白な世界だった。まるで宮殿の中のようだ。僕が中を伺っていると中から眩しく光る存在がやってきた。眩しすぎて姿が分からない。




 『よくここまできたな。褒美だ! 受け取るがいい!』




 その声は今まで僕に指示を出してくれた声だった。 




「あなたは誰なんですか? どうして僕を助けてくれるんですか?」




 何も言わずに光は消えた。そして、僕の意識も途絶えた。僕が目を覚ますと、登っていた山の中腹にいた。だが、目の前には洞窟はない。夢だったのかと思ったが、頭の中に自分の知らない魔法の知識が流れ込んできた。それだけではない。なぜか異様な懐かしさを感じ、体中に力が入らなくなり、そして、再び僕は意識を失った。

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