第6話 盗賊団の討伐
翌日、僕が庭で昨日の刀を使って素振りの練習をしていると、兵士達が慌ただしく屋敷の方に行った。
“何かあったのかな? 何か慌てているようだけど。”
僕はエドガー伯爵の書斎に呼ばれた。
「シン君。今、兵士からの報告が来たんだが、先日シン君が討伐した盗賊団の本体が、どうやら街に攻めてくるようなんだ。」
「僕がいきましょうか?」
「いや。これは街の問題だ。我が兵士達で何とかしよう。それよりも、街に侵入してくる盗賊達がいれば、それを何とかして欲しんだが。」
「わかりました。それで、今、盗賊達はどのあたりにいるんですか?」
「娘が襲われた辺りの森の中にアジトがあるらしい。そこに集まっているようだ。」
「盗賊達はどのくらいいるんですか?」
「200人と報告が来ている。」
「わかりました。街は僕が守ります。」
盗賊達が攻めてくるという噂が流れたせいか、街中が混乱している。領主の館には鎧姿の兵士達が200人程いた。出陣の時を今か今かと待ち構えている。
その日もすでに日が暮れて、外は真っ暗だ。屋敷内では、食堂にエドガー伯爵、マーサ夫人とマリア、それに僕と執事とメイド達がいた。
「いいかい。マーサ。この屋敷はシン君が守ってくれている。安心してくれ。もし私に何かあった場合は、次の当主をマリアに継がせるようにこの手紙に書いてある。これを宰相に渡すように。いいね。マーサ。」
「はい。あなた。ご無事でお帰り下さい。」
「お父様。お気を付けて。」
「シン君。頼んだぞ。」
「はい。」
エドガー伯爵は200人の兵士達を連れて出陣した。
僕は一旦自分の部屋に帰り、背中から翼を出して暗闇の中を盗賊達のもとに向かった。上空から見てみると、どうやら盗賊達は1か所に集まっているようだ。盗賊の首領と思われる男の前に、フードを被ったまま舞い降りた。
「お前何者だ? どこから現れた?」
「・・・・・・」
「おい。こいつは魔族だ! 背中に翼があるぞ!」
「あわてるな! 魔族と言ってもしょせん子どもだ! おい! お前ら、こいつを捕えろ! 生きたまま捕えれば高く売れるかもしれねぇ。」
この言葉が僕の怒りに火をつけた。
「お前らには生きる価値はなさそうだ。」
全身に魔力を高めると、周りには黒い霧が発生した。
「おい。前が見えねぇぞ! 明かりを付けろ!」
僕は手に入れたばかりの刀で盗賊たちの首を刎ねていく。辺りには悲鳴と血の匂いが漂い始めた。
「ギャ―—――」
「助けてくれ――――」
30人ほど倒したところで霧が晴れていく。目に見える光景は惨たらしい地獄絵図だ。中には座り込んで漏らしているものもいる。ここで首領が前に出てきた。
「貴様! もう生かしちゃおかねぇぞ!」
首領の両脇にいた男達が剣で切りかかってきたが、その動きはあまりに遅い。僕は切りかかる剣を軽々避けて男達の腕を切り落とす。
「ウギャ――――」
腕をなくした男達が地面を転げまわる。首領は剣に魔法を付与したようだ。剣から凄まじいほどの炎が出ている。首領が切りかかってきたが、刀で受けとめ腹に蹴りをお見舞いした。
「グフッ」
首領は後ろに大きく飛ばされた。その瞬間、僕は手刀で“かまいたち”を放つ。すると、首領の首が地面に落ちた。周りの盗賊達はそれを見て、一斉に逃げようとしている。
「逃がさないよ。『シャドウウォール』」
突然盗賊達の前に黒い壁が現れる。
「助けてくれ――――」
「出してくれ――――」
盗賊達は必死に泣き叫ぶ。だが、僕は容赦なく魔法を発動する。
「シャドウレイン」
黒い雨が上空から降ってきた。それが、黒い壁の内側の物質をすべて溶かしていく。生きているものも、死んでいるものも全てを溶かす。
騒がしかった悲鳴も聞こえなくなったので、僕は翼を広げて自分の部屋へと帰った。
翌朝、食堂に行くとすでにエドガー伯爵がいた。そして、僕の顔を見て言った。
「シン君。昨日の夜、君はどこにいたのかね?」
「はい。自分の部屋で待機していました。」
「そうか。」
「何かあったんですか?」
「昨夜、私が盗賊達のもとに駆け付けたときにはすでに誰もいなかったのだよ。」
「逃げたのですか?」
「いいや。武器もお宝も残っていたからそれはないだろう。」
「・・・・・」
「盗賊達、全員が消えてしまったんだよ。」
「ならば、もうこの街が襲われる心配はないんですね。」
「ああ、その通りだ。だが、以前聞いたことがあるんだ。魔族の中には全てを溶かす魔法を使うものがいると。」
「そんなことが可能なんですか?」
「ああ、昔話だがな。」
そこに、マーサ夫人とマリアがやってきた。
「あなた。早く着替えてきてください。お風呂にも入ってくださいね。」
エドガー伯爵は何か言いたげに僕の顔を見てお風呂に向かった。マリアは何も知らずに無邪気に僕の手を繋いで話しかけて来る。
「シン様。今日は何をしますか? 街のお菓子屋に行ってみたいのですが。」
“そろそろ旅に出るかな。なんかエドガー伯爵には感づかれているようだし”
その日の夕方、僕はエドガー伯爵達に旅に出ることを告げた。マリアの悲しみようは半端ない。
「どうして? シン様。ずっとここにいればいいじゃない!」
「そうだぞ。 シン君。うちは娘一人だ。ゆくゆくはマリアと結婚してこの伯爵家を継いでもらおうかと思っていたんだ。」
「もったいないお言葉です。僕の素性を何も聞かずにそこまで言ってもらえて感謝しかありません。」
「ならば。」
「最初にお話しした通り、僕は修行の旅の途中です。もっと修行しないといけませんから。」
「なら、私もついて行く。シン様について行くわ。いいでしょ? お父様! お母様!」
「ごめんなさい。マリアさん。僕の旅は危険なことがたくさんあるから、マリアさんを守り通せる自信がないんだ。」
「そんな~。」
マリアさんはテーブルに伏せて大泣きしてしまった。
“師匠の言ったとおりだな。マリアさんと僕は寿命が違うんだ。これ以上マリアさんを悲しませるわけにはいかないんだよ。”
ここで、マーサ夫人が口を開いた。
「シン君の決意は固いようね。マリア! シン君のことが好きなんでしょ! だったら、笑顔で送り出してあげましょ。そんなに泣いてばかりいたら、シン君が困ってしまうわよ。」
マリアは泣き止んで、シンを見ることもなく下を向いている。僕は自分の部屋に戻りベッドで寝ころんでいると、パジャマ姿のマリアが来た。
「どうしたの?」
「明日、シン様は出ていくんでしょ。最後に一晩だけでいいから一緒に寝て欲しいの。」
マリアが僕の布団に入ってきた。まだまだ子どもの2人だ。何をするわけでもなく、たわいもない話をした。すると、知らないうちにマリアは寝てしまったようだ。
翌日、僕はエドガー伯爵の家を後にした。
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