第34話 狙うは一つ
※ 本日も東方編62話の時系列が先になっております。
×××
『粘るなあ』
『白石のこんな必死な打席初めて見たぞ』
『これはあれだ。わざとカットしてるんじゃないか?』
『確かに際どいところはカットしてるけど』
『ど真ん中に入ったカーブもカットしたな』
『あれは緩急だろ。タイミングがずれてるから上手く打てない』
『たっぷり呼び込んでから打ってたと思うけどな』
『少しフォーム小さくないか?』
『白石はいつもちっちゃいぞ』
『ミート狙いか』
『こんな白石は見たくなかった』
『まあ順当?なのか? 白石が塁に出ても西郷が帰せる可能性はかなり低いと思うが』
『帰せたとしてもまだ一点差だろ』
『西郷一発キボンヌ、とか?』
『古い』
『というかライガース、今季佐藤兄から一本もヒット打ってないし』
『強い相手には強く、弱い相手には弱い不思議な男w』
『おお!』
『小此木君!』
『惜しいなあ』
『いやいや、それはまあ、ね』
『ニンジャだったな、今のは』
『ずっと、打つなら白石だと思ってたのに、ポカンと打たれたしな。雑魚に』
『甲子園選抜制覇チームのキャプテンが雑魚か』
『雑魚とまでは言わんが今のプロトップレベル打者に比べたら』
『白石は今どころか全世界の野球の歴史見ても、たぶんトップだぞ』
『なんでそんな選手がMLB挑戦しないんですか~?』
『いくら一線級メジャーリーガーがいないとは言え、白石がWBCで残した実績は消えない』
『体格の問題かな? メジャーの過密日程だとさすがに白石でもスタミナ切れするんじゃ?』
『普通にメジャーのトップでも、シーズンではそこそこ休むぞ。なんなら監督が家庭の事情で休むこともある』
『家族との時間を作りたい、とかで辞めたの誰だっけ?』
『白石はスタミナ切れによる不調っていうのは一回もないと思う』
『今まで8シーズン中6シーズンは全試合出場か』
『途中交代もあったけど、一回か二回ぐらいか?』
『夏の甲子園でファインプレイしまくりのホームラン打ちまくりの白石だからなあ』
『行くならさすがにそろそろ行かないと、対応できないだろ』
『今年で海外FA権発生だっけか?』
『行くならもう去年までにポスティングで行ってただろ』
『レックスに下克上かました七年目でポスティングしてもおかしくなかったよな』
『MLBに興味ないのかね』
『WBCの実績から考えて、適性がないとは思わんよな』
『もしFAで行くとしたら、28歳のシーズンからか』
『どうなんだろうな。もう二三年若ければ対応しやすかったか?』
『でもあんまり早く行くと、年俸が上がらんぞ』
『それちょっと昔の話な。今は関係ない』
『なにそれ、なんのこと?』
『メジャーの年俸調停とかFA制限のことだな。つまりメジャーでは若い間は、極端に年俸が抑えられるのよ。タイトル取って5000万とか。弱いチームはそうやって若い選手を安く使い倒す』
『なくなったのつい最近だけどな。年食ってる普通の選手の年俸と、若手の有望選手の年俸があまりにも吊り合ってないから、どうにかせいと』
『MLBのことまでは知ってても、高額年俸ぐらいまでだったな。若い間は安いん?』
『若い間というか、FA権取るまでがむっちゃ安い。織田とかアレクが日本で活躍してからメジャー行ったのも、そのあたりがけっこう関係してくる』
『他の国のプロリーグでやってた選手は例外になるのよ。ただ若い間は安いと言っても、そもそもの契約金の額が日本とは違うから』
~~~
『終わった』
『勝った! 第二部完!』
『そのネタもうどこでも使われるよな』
『しかし結局ノーヒットノーランか。惜しかったな』
『ただでも冷静に見返すと、あの小此木のプレイはエラーと言うより、ヒットをエラーに抑えたというべきでは?』
『確かに逆方向に跳ねたから、ライト前に抜けててもおかしくなかった』
『バウンドも高かったし、タイミング的に投げてもセーフじゃね?』
『でも白石だったから、内野安打にしていた可能性はある』
『つまり投げることを失敗することで、小此木はヒットをエラーにした?』
『さすがにそれはないw エラーのあと死にそうな顔してたし』
『ほうほう、103球も投げてたんか』
『白石の第三打席がな。あれでどんだけ投げさせられたんだ?』
『17球だっけ?』
『それでもほぼ100球か。鬼畜メガネは相変わらずのリードだな』
『そのメガネに乾杯』
『ヒーローインタビュー佐藤兄』
『インタビューする方も、またかとか思ってたりして』
『まあ投げる試合ほとんど完封してるしな。ホームラン打たれた試合は点差がありすぎたから油断したとも言える』
『お、いいこと言ってる』
『やっぱりピッチャーからしてもあれはヒットと思ったんだな』
『後輩をフォローできる兄貴、さすがの弁護士w』
『後輩じゃねえぞ。年齢差はあるが同期入団だぞ』
『そうだったw しかしあの喋り方弁護士ぽくて笑えるんだが』
『基本的に理路整然で感情的にならないからな。言ってる内容は面白いというか、なるほどと思わせるんだけど』
『インタビューは弟の方が面白いな』
『佐藤弟の三大装備「本当に?」「気づきませんでした」「知りませんでした」お前どんだけ野球の歴史に興味ないねんというw』
『佐藤兄弟は三男除いたら、野球を仕事としてしか考えてないよな』
『三男っているの?』
『おい!w』
『そりゃ知らんかもしれんがw 今年のファルコンズの勝ち頭だぞw』
『まあ育ちが仙台なんで知らんのかもしれんが』
『白い軌跡嫁。普及活動』
『そろそろ携帯用に文庫版出てほしいんだが』
『電子でいいじゃん。いまどき紙にこだわる理由がどこに?』
『いや、あれは巻末にデータとか載ってるから、確かに紙の方が読みやすい』
『紙で買って、外で読むために電子も買う。著作者ウマー』
『それもまあ、佐藤兄貴の嫁さんなんだが』
あの打球を、実質的なヒットと、考えるべきだろうか。
レックスバッテリーは、確実にしとめに来ていた。
それを打つまでは良かったし、打球の勢いもそれなりにあった。
だがセカンド小此木のファインプレイによって、エラーになってしまった。
こういうことはプロ野球にはよくあることで、守備範囲があまりに広いため、追いついてしまってキャッチしきれずにエラーということはある。
大介にしても失策扱いはそこそこあるが、それでもゴールデングラブに輝いているのだ。
(せめてヒットになってたらな)
ライガースのレックス相手のノーヒット記録は、いまだに続いている。
西郷にバッティングに集中してもらうため、盗塁は放棄していた。
だが盗塁はしないにしても、もう少しリードを広げたりして、プレッシャーを与えるべきであったろうか。
後から考えればあの初球のカーブは、走るにはチャンスであった。
逆に走らないと完全に読まれていたのか。
ただ直史のクイックは速かったし、走るには樋口の肩を考えても微妙であった。
ミスと言うならば最初から走る気はなしと、ちゃんとベンチに伝えるべきだったのか。
それでも西郷は初球を見送ったかもしれないが。
これで直史はライガース戦3勝0敗。
それも許したランナーさえ一人と、セの他のチームの中で唯一、ヒットを打たれていない。
ライガースはレックス相手に、12勝9敗と、チームとしては勝ち越している。
だがプレイオフのレックス戦で、直史が投げてきたらどうなるのか。
六試合のうち、三試合を勝てばレックスは日本シリーズに進める。
六連戦であるが直史なら、二試合は投げてきてもおかしくない。
プレイオフの前に、わずかでもいいから、打てるという確信がほしい。
もちろん今日も打球の行方などを見れば、ヒットになっていてもおかしくないシーンはあった。
打たして取るというのが、実際はかなり運任せだとは、統計で確かなことだと言える。
だからこれは、ただの印象問題とも言える。
しかしそれでも、ジンクスを大切にする人間は、今でもいる。
苦手意識があるまま、プレイオフで直史と対戦したくはない。
レックスと対戦するのは、あと一カード。
雨で流れてしまったため、最終三連戦となったカードが一つ。
日程的には直史が投げてきても、全くおかしくはない。
ライガースと違ってクライマックスシリーズのファーストステージで投げる必要がないので、そこからでも調整は出来るだろう。
だが実際にどう登板機会を作るかは、レックスの首脳陣が考えることだ。
ただレックスのフロントとしては、神宮でのライガースを相手に、直史に投げさせたいと思うのではないだろうか。
どのみちこれは、自分の考えるべきことではない。
次の試合に意識を切り替えるのが早いのが、大介の長所である。
翌日の試合もライガースはレックスに敗北した。
ただここはライガースが谷間のローテであり、レックスの先発が武史であっただけに、ある程度は仕方がないとも言える。
ライガースにとって、そして大介にとって重要なのは、個人成績だ。
結局このレックスとの対決では、大介のホームラン記録は伸びなかった。
68本のまま、残り8試合となる。
次の試合は甲子園で、カップスとの最終戦。
カップスはここで、大介にとってあまり相性のよくない、細田を先発に持ってくる。
高校時代の印象だけではなく、実際に細田のカーブも、真田のスライダーと同じく、左打者にとっては攻略の難しい球だ。
ここでの大介はヒットを打って打点は増やしたものの、ホームランはまだそのままである。
残り7試合。
ここからはスターズ(甲子園)、スターズ(神奈川スタジアム)、フェニックス(甲子園)、フェニックス(甲子園)、神宮三連戦。
終盤の調整があるために、スターズと甲子園でやった翌日に神奈川に移動と、なんともおかしなことになってしまっている。
当初はちゃんと二連戦をどちらかでやる予定になっていたのに、それまた天候でずれてしまっては仕方がない。
それはいいのだがその次が、ホームランの出にくいライガースの本拠地甲子園。
ただ大介は本拠地なだけに、甲子園でもホームランを打つことには慣れている。
神宮での三連戦はこれまた、はっきり言ってホームランは出やすい。
ただここでレックスが直史を先発させてくると、やはりホームランは難しくなる。
それに、それ以前の問題があった。
スターズの試合に、上杉が投げてくるローテになっている。
おそらく地元最終戦に、上杉は投げてくるのだろう。
ならばそこでもやはり、ホームランを打つのは難しいか。
だが上杉はちゃんと勝負をしてくるので、その意味ではありがたい。
甲子園でのスターズとの試合、大介に待望の69号が出た。
ただし試合自体は、大原に負け星がついてしまった。
世間の注目は、やはり大介の打撃記録に集まっている。
直史の方も色々と注目はされているが、やはり先発はローテが空く。
高校野球はエースこそがチームの顔であったが、プロになると毎試合出る野手の露出の方が多くなる。
もっとも直史は、高校時代からあまり、そういった露出は控えていたが。
あの頃も大介が色々とやらかす記録を作っていたのと、直史が他のピッチャーに登板機会を分けていたため、大阪光陰戦などの少ない試合で、直史の実力は評価されていたものだ。
舞台を神奈川スタジアムに移し、大介は大記録である70号ホームランを狙う。
ただしそれを阻むべく、スターズは少しローテをずらして、上杉を先発として出してきた。
登板間隔的には、これは全くおかしくもないことなのだが。
ここで大介は、選択を迫られる。
ホームランを狙っていっていいのか、それともあくまでチームの勝利を目指すのか。
ライガースは真田を先発に持ってきて、今シーズンの最終先発としている。
日付的にはあと一回は投げられそうなのだが、順位も確定している今、クライマックスシリーズに合わせて、調整の段階に入るのだ。
だからピッチャーのレベルであれば、それほど劣ってはいない。
ここで上杉に勝っておくことは、プレイオフでの有利にもつながる。
「そもそもホームラン以外で上杉から点を取るほうが難しいだろう」
金剛寺はばっさりと言ってしまった。
上杉から点を取るパターンは、つまるところランナーを置いてのバッティングが問題となる。
ただ上杉としては、大介以外のバッターでは、ヒットを打つことすら難しい。
ランナーがスコアリングポジションにいるならば、確かにヒットで一点も考えられるだろう。
だがそんな状況になれば、その時はその時だ。
基本的に大介は、ホームラン以外は狙わなくていい。
全打席ホームラン狙い。
なんという頭の悪い指示だろうと、出した金剛寺も思ったし、首脳陣の全員も思ったし、大介も思った。
だが、同時にこれは、なんというロマンの塊であろうか、とも思うのだ。
記念すべき70号ホームランなら、それに相応しいピッチャーから打ちたい。
上杉ならば完全に、その条件を満たしているだろう。
今季ここまで、上杉はまだ一度しか負けていない。
その負けた一度は、ライガースの継投策に負けたものだ。
もし直史が最後のカードに投げてこなければ、これがレギュラーシーズンでは、興奮できる最後の試合になるだろう。
大介にしてもプレイオフを前に、不完全燃焼だった直史との対決を、ここで完全に燃やし尽くしておきたい。
その灰の中から、プレイオフを戦う信念は発生するのだ。
レギュラーシーズンと同じ戦い方では、プレイオフは勝てない。
直史に付け入る隙があるとしたら、プレイオフをまだ未経験であるという点だろう。
もっとも似たような感覚の、WBCを経験はしているのだが。
三年間で五度しか機会のない甲子園に比べれば、プロ野球のプレイオフは、別にそれほどこだわりはない。
直史はそんな、良くも悪くも平常心であるのだが、大介は違う。
レギュラーシーズン用のスペックを、プレイオフ用に引き上げる。
このスターズとの最終戦は、そのためのいいきっかけになるのであろう。
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