第28話 輝ける消化試合

『はい、今年もお疲れ様でした~』

『早い早いw サラマンダーよりも早いw』

『二位確定。四年連続二位www』

『三年連続の下克上に期待』

『金剛寺監督、リーグ優勝今年も果たせず。Aクラス入りを果たす』

『金剛寺有能なんか? 無能なんか?』

『分からん。無能ではないと思うけど、そもそも戦力が揃いすぎ疑惑は付いて回る』

『金剛寺になってから頭角表した選手って誰や? ピッチャーの植村と阿部ぐらいちゃうんか?』

『言うてもオジキ、選手時代晩年はバッティングコーチ兼任みたいなもんやったやろ』

『守備も上手かったし、若い頃は盗塁も多かったしな。万能プレイヤーやったから、その頃に育てた選手……それでもあんまおらんのか?』

『スタメンが固まりすぎやからやろ。ほとんど怪我せんし、白石は骨折しても出てきてホームラン打つし』

『骨など飾りです。偉い人にはそれが分からんのです』

『いやw いやww』

『さすがに反対の打席で打っててそれはないw』

『片手で打ってたよな、ほぼ。それでホームランも打ってるし』

『ショートであんだけ無茶苦茶動いてても怪我せんのに、上杉と殴り合ったら骨折れるんやもんな』

『白石は三年目と五年目で欠場してるな。今年もまた全試合フル出場だな』

『一応骨折した試合は離脱してるぞ』

『骨折してから五試合はホームランなしか。さすがにな』

『むしろ反対の打席で、しかも骨折していてホームラン打てる方がおかしい』

『白石に常識を求めても仕方がない』




~~~




『なんかもう白石の話になってもたから話すけど、今年はどうやろ?』

『五冠王はほぼ決定で、最多安打の可能性も微少』

『普通にピッチャーが勝負してくれたらええんやけどね』

『白石と真っ向勝負したのって、もう佐藤兄弟と上杉ぐらい?』

『特定の誰かと言うより、レックスとスターズは比較的勝負してる印象』

『佐竹も金原も打たれとったよな。レックスは樋口が許さんのか』

『樋口は自軍のピッチャーに対してもドSw』

『まあ申告敬遠は普通に使ってるけどな』

『二塁に大江がいるときとか、ピッチャーがいる時か』

『それは俺でも歩かせる。しゃーない』

『せごどんそこからスリーラン今年何回あったよ』

『知らんけどけっこう打ってるイメージはある』

『せごどんおらんかったら、シーズン200回ぐらいフォアボールでもおかしくないな』

『現在打率0.419 出塁率0.6 安打155 打点153 ホームラン66 盗塁77 これは途中記録である。繰り返す。これは途中記録である』

『安打だけは二位か。一位誰や』

『緒方』

『緒方? せめて樋口じゃなくて? あいつそんなに打っとったんか』

『緒方は二番やから、打席の回ってくる回数少しだけ多いよな』

『ライガースの方が得点多いから、打席数は白石の方が多い。でも勝負してもらえる回数が圧倒的に少ない』

『樋口はむしろ得点圏打率高いから、勝負は避けられがち。でもレックスの打点と打率ではトップ』

『あいつはむしろインサイドワークやろ。レックスの平均失点見てると笑える』

『二位と一点以上の差があるからな。まあ我がライガースのことなんやけど』

『これで何か追い越される可能性のあるタイトルってあるんか?』

『打点がわずかに。西郷が136打点』

『SS砲でどんだけ打ってるねんwww』

『草も生えないSS砲。生えてるけどなwww』

『で、残り14試合で、どこまで伸ばせる?』

『打率が鬼やから、敬遠の嵐になりそうなんよね』

『だいたい二試合に一本は確実に打ってるから、その通りなら7本で73本になるな』

『wwwボンズかよwww』

『あっちはもっと多い試合数やけどね』

『143試合で73本打ったら、二試合に一本以上のペースや。ほんま常識が狂う』

『MLBの試合数なら余裕で世界記録狙えるんちゃう?』

『どうかな。あっちのピッチャーの方がレベルが高い。いや、もちろんトップは日本の方が高いけど、それでも平均値では向こうの方が高い』




~~~




『白石海外FAなんかせんよね?』

『海外行きたいなら、普通にポスティングでもう行ってるやろ』

『けど複数年契約、頑なに拒んでるからなあ』

『複数年契約で安心してしまうのが怖いって、野球に対してはとことんストイックやな』

『おかげで毎年年俸伸びてるけどなw』

『今いくらぐらいなん?』

『インセンティブなしで、今年は13億』

『ファッ!?』

『他のスタメン全員合わせたよりも、白石一人の方が多くないか?』

『多い。ただし白石の年俸は本人談で、他の選手は推定』

『ここまで多くていいんか?』

『分からん。過去にも現在にも比較対象になるバッターがおらんから、比較のしようがない。あとショート査定もあると思うし』

『上杉でも12億か。ライガースはともかくスターズ、よく金があるな』

『あっちはあっちで上杉一人で、めちゃくちゃ宣伝効果あるしな』

『あ~、嫁さんとCMとか出てたからなあ』

『美女と野獣w』

『上 杉 の 嫁 は 可 愛 い』

『白石は結婚まだか?』

『少なくとも公開はしてないよな』

『佐藤の妹と仲がいい』

『それは学校が同じだったし、まあ普通やろ。むしろあっち側がラブラブ?』

『野球のためだけに生きてるって感じがするよな』




 直史と上杉が死闘を繰り広げるのと同じ時間、ライガースは甲子園でフェニックスと対戦していた。

 ライガースの投手陣は調整に入っているが、それでもそこそこは投げさせる。

 本日の先発は阿部で、どこまで勝ち星を積めるかが重要になっている。

 今年はここまで12勝6敗。

 だが負けた六試合の対戦相手の先発は、上杉が三回に直史が二回、そして武史が一回。

 それは負けても仕方ないような、というピッチャーに当たっているのが不幸である。


 今年はあと、シーズンの登板は今日も合わせて二回か三回。

 充分に年俸はアップする成績であるが、なんとか三つ勝たせて15勝に乗せてやりたい。

 そう思う大介なのだが、大介に出来るのは点を取ることだけ。

 それも相手のピッチャーはとことん大介を警戒して、外でばかり勝負してくる。

 いや、勝負と言うよりは半分逃げているのか。


 今日もフォアボールで歩かされて、168個目の四死球。

 自身の持つシーズン172四死球も、今年は更新できそうだ。

(もう下手に走るなって言われてるしな)

 下手に走って一塁が空くと、西郷が歩かされる。

 グラントもホームランは多いのだが、打率が西郷よりはかなり落ちる。

 なので西郷の勝負の機会を減らさないために、盗塁をこれ以上増やすのは憚られる。


 大介はもうこれまでに、通算で600以上の盗塁をしている。

 実は通算記録で言うならば、打撃よりも盗塁で、歴代二位にまで数を増やしているのだ。

 NPB史上唯一の、通算500本塁打600盗塁。

 まだ今年が九年目のショートがこれである。


 シーズン打率も上位六位までが、大介の記録となっている。

 そして今年は、さらにそれを上回るだろう。

 おそらく大介の後にはこれを上回るバッターは出てこない。

 あとは大介自身が、世界記録のホームランを打てるかどうか。


 このままの割合で打っていくなら、おそらく超える。

 九年目の今年で、既に569本。

 まだ27歳であるのだ。

 年俸も既にかつてない領域にあるが、ライガースは最初の年俸更改時の条件を、今までしっかり守ってきた。

 25試合も休んだシーズンも、二冠王を達成。

 最も上げ幅が小さかった年でも、一億の追加となっている。




 今年、セ・リーグの投手には上杉や武史に加え、直史までもが入ってきた。

 この三人と対戦すれば、それだけバッターの成績は落ちるはずだ。

 しかし大介は逆に、打点を除けば今年がキャリアハイになる予測。

 本人もそうだろうな、と分かっている。


 スーパーエース級のピッチャーが増えたことで、逆に大介のモチベーションが、シーズンを通じて維持されているのだ。

 そのためわずかになったチャンスを、確実に決めにいっている。

 1.5を超えた時点で、人間じゃないと言われたOPSも、今年はさらに上昇。

 1.6というのは平均的に見れば、出塁率が八割近くになっているのと同じようなものなのだ。


 直史と上杉、どちらが勝つのか。

 他の球場のスコアは、点数だけが伝わるようにしてある。

 大介にとってもあの二人の対決は、自分が休んででも見てみたいものだ。

 だがどうやら予想通りの、0ゲームが続いているらしい。


 二打席連続で歩かされることになってしまった大介。

 三打席目は、なんと満塁で回ってきた。

 ここで敬遠されたらそれはそれで伝説なのだが、試合自体がライガース優勢のため、そこまでして追加点を防ごうという意図が、フェニックス側にはない。

 大介は実は、満塁ホームランはプロにおいて二度しか打ったことがない。

 あまりにも長打の確率が高いため、満塁でも逃げ気味のピッチングをされるからだ。

 その外の球が甘く入ったところを、打つのが大介。

 それはこの打席も同じであった。


 アウトローへの微妙なボールを、そのまま左方向へ。

 ライナー軌道ではなくフライ軌道で、スタンドの中段にまで運ぶ。

 グランドスラムで一気に打点は四。

 そしてホームランは67本となった。

 この後の四打席目と五打席目は、当然のように敬遠。

 四死球記録の更新も、かなり現実的に見えてきた。




 リーグ戦の優勝と、上位の順位が決まってしまった今、セ・リーグで注目されるのは記録である。

 直史もたいがいなことをやっているが、それでも上杉や武史の前例があるだけに、そしてローテの先発であるために、毎試合がお祭り騒ぎになるわけではない。

 そしてグラウンドスラムを打った大介も、フェニックスとの二戦目は調子に乗ってしまった。

 珍しく四打席とも打てるところにボールが来たのに、野手正面への打球で出塁なし。

 するとライガースの打線全体も調子が落ちて、フェニックスに黒星を喫する。


 今年のフェニックスとの試合は、あと二試合。

 14勝9敗と勝ち越してはいるのだが、圧倒的な数字でもない。

 実は負け越しているセの球団は、一つだけ。

 厄介なことにスターズには負け越しているのである。


 面白いもので、ライガースはレックスに勝ち越している。

 そしてレックスはスターズに勝ち越している。

 この上位三チームでは、三すくみの関係が成立しているのだ。

 それでも弱いチーム相手に、間違いなく圧倒的に勝っているのはレックス。

 勝てる試合を取りこぼさないところが、今年のレックスの強さと言っていい。


 翌日は甲子園でタイタンズと一試合を行い、神宮に移動してレックスと三試合が行われる。

 その後は今度はドームでタイタンズと一試合をしてから、甲子園でレックスと三連戦。

 雨天順延などがあったため、このあたりは移動も試合もぐちゃぐちゃになっている。

 特に野天型の球場がホームグラウンドであると、ややこしいことになるものだ。


 ローテの順番を見るに、レックスとの試合、甲子園で直史と当たりそうである。

 だが九月のこの時期、天気が崩れる予報が多く、共に野天型球場のレックスとライガースの試合は、流れる可能性もある。

 大介としては自分の調子を、レックス戦の中でも対直史の試合に向けて、調整していきたい。

 それが雨で流れるというのは、都合が悪いことなのだ。


 だが高校時代の直史の様子から判断すれば、おそらく予定が狂って調整が難しくなるのは、直史の方が大きいだろう。

 並の相手ならば不調は不調なリに抑えてしまうかもしれないが、自分はそこまで甘く見られている存在ではないという、自負心が大介にはある。

 残り12試合。

 打率の更新はもう間違いないのだから、大介としては積極的にホームランを狙っていきたい。

 やはり70本という数字には、夢がある。

 試合数が増えない限りは、おそらく更新不可能であるという夢。

 現時点で67本と、無理な数字ではない。

 だがシーズン終盤、対戦相手がどう考えてくるか。


 比較的大介との対決を避けない、レックス、スターズ、フェニックスとの試合が多いのが幸運である。

 だがレックスとスターズは、大介をも抑え込む戦力を持っている。

 シーズン終盤ローテが崩れて、スターズは上杉をあまり投げさせないようにするかもしれない。

 それはレックスも同じことだが、あちらは直史も武史も、基本的には中六日で登板。

 上杉に比べれば疲労度は、かなり低いはずなのだ。




 シーズン132試合目、タイタンズとの試合。

 Bクラスが確定しているタイタンズは、若手の選手を起用してくる。

 来年に向けての経験を積ませるためのものなのかもしれないが、ライガース打線に打たれて、心が折れる可能性も考えてはいないのか。

 ライガースは大原が先発し、6-4で勝利。

 大介には五打席が回ってきたが、そのうち打てるコースにボールが投げられたのは三打席。

 無理に打ちにいって打点は追加されたものの、ホームランには届かず。

 70本に届くかどうか、大阪のライガースファンをやきもきさせる。


 逃げるというよりは、大介に対してはまともにストライクを投げられない。

 それが若手としては当然の気持ちなのだろう。

 続いては神宮でレックスと対戦し、その後甲子園で対戦し、レックス相手の対決は今シーズン終了。

 問題はポストシーズンのプレイオフである。


 このままの日程であると、直史はおそらく神宮の試合では投げてこない。

 甲子園では投げてきて、その一試合で今年のレギュラーシーズンの対戦は終わりだ。

 そう思っていたのだが、関東に雨雲がやってくる。

 レックス相手の三連戦が、全て雨で中止になってしまった。


 これは順延となった試合が、予備とされていた九月下旬に、一気に行われることになる。

 ならばそちらでも、直史が投げてくるのではないか。

 記録を達成するだけならば、他のピッチャーの方が打つのは簡単だ。

 だが他のピッチャーなら、大介との勝負を避けてくるのが普通だ。


 直史なら、樋口と合わせて大介相手でも逃げない。

 それは約束だからとかではなく、直史の性格からして逃げないと思うからだ。

 勝てる勝負で、逃げないのが直史だ。

 ここまでずっと抑えてきて、終盤だからといって逃げるとは、思わないのが大介である。


 133試合目は、今度はドームでのタイタンズ戦。

 タイタンズ相手は、今季最終戦である。

 タイタンズはここで、エース本多を投入してくる。

 対するライガースも真田が投げるが、おそらく無理に完投させようとは思わないだろう。


 レックスもライガースも、主戦力の欠けはない。

 ならばどちらが、短期決戦で強いかが問題になる。

 疲労を抜くために、主力に無理をさせてはいけない。

 タイタンズは逆に、もう全力で観客を楽しませることを考える。


 ライガースは、大介の記録がかかっている。

 ドームであっても、たとて敵であっても、大介のバッティングを見に来る。

 そのために大介が相手でも、臆すことなく投げる本多を選んだのか。


 リーグ戦の順位が決まったシーズン終盤。

 記録を賭けた試合が、まだ残されている。

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