123話
諦められないからこそ、俺は諦めようとしてきた。手に入らないものを望むのはあまりに惨めで心細い。人肌が恋しくなるのを耐え忍ぶのは牢獄に入れられたような気分で、俺は罪人の孤独に咽ぶのだった。これについては毎日というわけでもなく、時折やってくる陰差す時期に限った事であって、普段は達観したような心持ちで歯牙にも掛けないのだが、どういうわけか、どうしようもなく寂しさが溢れる夜があって、そんな夜は肩を抱いて眠るのである。掌は温かいのに、いつまで経っても寒さは消えない。満潮となった悲しみが、涙となって溢れるまでは幾許もかからず、俺は布団の中で丸まるのである。
だがそんな醜態を晒す人間が女など求めてはいけない。強く、精神的に独律していなくては番などなってはならない。未だ大人になりきれない俺は、誰にも迷惑をかけないよう一人で静かに生きていかねばならない。
女を女として受け入れられないのはそうした理由がある。俺は彼女を好きだろうが嫌いだろうが異性として見る事を拒み、内々に生じる煩悩や欲求を遮断しているのだ。そんな状態で、人を愛せるわけがないだろう。
愛。
その一文字に、考える。
俺は、私を愛しているのかと聞いてきた彼女に肯定の返事をした。愛せるわけがないと自覚しながら俺は愛していると言ったのだ。それは、彼女に対して、また俺自身に対して虚偽を述べたと同義ではないか。
ここでいう愛というのが男女の間で共有される、所謂恋愛という種類のものでない事は承知しているし、彼女本人にも説明済みである。それをもって虚偽と断ずるのは的が外れているだろう。しかし、その愛とこの愛との違いはなんなのか。愛しているけど好きではないといったロジックがまかり通るものなのか。恋愛の達人がいれば伺いたいところであるが、俺は一人であった。何もかも、持て余す。
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