119話
それにしてもこれは劣情なのだろうか。
言い訳するわけではないが、俺は彼女を肉体的な欲望の吐口にしたいわけではなく、また、純粋な恋愛感情のようなものを抱いているわけでもない。こういってしまうと木の股を女体と錯覚してしまうくらいの多感さを持ちながら女(というより愛情だろうか)という存在を神聖視し、恋慕を寄せた相手を穢したくないなどといった欺瞞めいた正義感を掲げる未熟な少年のようではあるが、実際にそのような心持ちとなっているのだから他に説明のしようがないわけであり、したり顔をして、「俺は本当の愛を知っているんだ」というような底の覗ける痴言を吹聴するわけでもないのだから、別段構わないだろう。心底にしまっておけば恥も恥となり得ない。俺の若く未熟な感性は誰にも露見しないわけである。
しかし実際にはどうだろうか。俺は果たして、本当に彼女に対してどうも思ってないのだろうか。
無論、良心や倫理、理知、理性の部分においては微塵もその気配なく、「どうなのか」と問われれば「どうもこうもない」と身の潔白を証明してみせるだろう。だが、人間の根源にある動物的部分においてはそうではなく、現に流れる血を迸らせているのだ。それをもって「一抹もやましいところはない」などと嘯けばたちまち自嘲が引き起こり、俺は自らの矛盾を論え、内心にて声高に自分自身を非難するだろう。そしてその自虐もまた己が自意識を擁護するための代替行為にしか過ぎず、結局のところは自己満足へと帰結するわけである。これは、俺の望むところではない。あくまで客観的かつ合理的な判断を俺が俺自身に下し、独りよがりな完結を避けるべきである。女がケーキを迷っているこの時間で、俺はそうした答えを導かなければならない。
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