62話

 恥ずべき過去の過ちをわざわざ告白するというのは、自らの弱みを掲げ「ほら、俺は惨めだろう」と喧伝する卑劣な行いである。子供を前にし、どうしてそんな真似をしたのかとネガティブとなり、苦悶が湧き立つ。数日経てば記憶を消し飛ばさんと絶叫しかねない、いや、きっと絶叫するであろう失言。言うんじゃなかったと早速嫌な汗が浮かぶ。何故俺は自らの汚点を現時点において一番知られたくない人間に曝け出してしまったのだろう。深い溜息を呑み歯を噛み締め、この後子供に抱かれる、軽蔑と哀れみを恐れた。それらが俺を傷付ける事は明白で、今後、彼と対等に会話する事ができなくなるのもまた自明だった。

 俺は彼に対してこんなつまらない話をしてもいいだろうと判断してしまった己の俗悪さが許せなかった。親兄弟でもない、一回り程も歳の離れた子供に何を求めたのだと、心底からうんざりとした。俺はその程度の人間だ。生きる価値もなく、価値のない人生を存え、存え……死ぬ。しかし、かつてと違い今更自死など考えられず、生涯にわたって苦しみ抜き、寿命まで待たねばならない。なんとも自業自得の不幸である。





「どうして死のうと思ったのですか」



 子供の問いには答えたくなかったが、自ら口にしてしまった以上「この話はやめよう」とは恥の上塗りとなるため言えない。俺は、自白を行う犯人のように己が罪禍を噛み締めて語らねばならなかった。




「俺はなんともならない人間でね。どうにも、人にできる事ができないくせに、人並み以上になりたいと願ってしまったんだ」




 振り返りたくもないかつての自分を見つめる。今から数年、十数年も前の事。俺は今よりも浅慮でくだらない人間だった。格好をつけて言葉を選ぶ必要もない。馬鹿だ。俺は紛れもなく馬鹿だった。そして今も変わらず馬鹿である。俺が自死を思いついたのは、その馬鹿さ加減を自覚し、ほとほと愛想が尽きたためであった。

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