60話
普遍的であり誰もが等しく一度は思案する物事というのは、歳をとるにつれ語り難くなる。
「本日は、生と死について聞かせていただきたく」
子供の面持ちはいたって真面目だったが俺はコーヒーを噴き出さぬよう気を付けなくてはならなかった。そんな議題を一片の疑いもなく口にできる彼の姿にコメディの要素を見出したからである。
「また唐突じゃないかい」
ようやっとコーヒーを呑み込んだ俺は別段気にも留めない風を装ったが含み笑が漏れ彼を軽んずるような態度となってしまった気もするが、子供は構うものかと立て続けに捲し立ててくるのだった。
「学校で大造じいさんとガンやごんぎつねを学んだのですが、それに伴い生と死について作文を書けとの課題が出されたのです。ひとまず自力で書き上げようと努力はしたのですが若輩者の僕では力及ばず浅慮の末破綻。藁をもすがる思いでこうしてお願いをしているわけでございす」
「なるほど。俺は藁か」
「申し訳ございません。言葉の綾です」
「冗談さ」
「お人が悪い」
一笑いの後に思案。「ふむ」などと物知り顔でそれらしいポーズを取るも一文すら浮かばず。生死など漠然が過ぎるテーマについて一家言残せるような人物であれば俺はこんなところでコーヒーなど飲んでいないだろう。役者不足は否めず、子供の評した通り藁が如く頼りない存在であるのは否めない。それでも何か残さなくてはならないだろうという発生源不明の責任感に悩みながら、苦し紛れのクエスチョンを投げ掛けたのだった。
「例えば、君は生きる事や死ぬ事について、どのようなヴィジョンが浮かぶかな」
「生は躍動を死は停止です」
「そうか」
解決に至らぬ返答を賜り、より深く掘り下げ擦り合わせていく必要があると認識。捻くれた中高生が愉しむような会話をするため、再度悩む。
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