57話
「仲がいいですし、いい奴だなと思っています」
「なるほど。これまで諍いがあった事はあるかい」
「ありません。お互いやんちゃなタイプでもないので」
「そうかい。では、彼にとって余程のでき事だったわけだ」
「そうだと思います……」
顔を青くしていく子供を見ていると心苦しくなる。彼の悔恨は痛い程伝わり、助けてやりたいと思うのだが俺は無力で、根本的な解決など望むべくもなく、助けになる言葉さえ与えられるかどうか不明である。いっそ語らず、「なるようになるさ」と投げやりに対した方がまだマシかもしれないが、俺は彼に声をかけてやりたいという衝動が働くのだった。それは間違いなくエゴイズムだし、子供じみた機微ではあるが、止まる事はできなかった。
「彼は何に対して怒りを感じたんだろうね」
「それは、僕が助けなかったからではないでしょうか」
「それもあるかもしれないけれど、同情的な態度を取られたのが嫌だったんじゃないかな」
「そんな態度はしていないつもりです」
「君はそうかもしれない。でも、相手の気持ちになって考えてみよう。悪童たちに点数の低かった模試を読み上げられ大いに揶揄われた後、友人から慰めの言葉を投げられたらどうだろうか。偽善的な奴と思うんじゃないだろうか」
「……」
「人によって捉え方は異なるし、もしかしたらたまたま感傷的になっていただけかもしれないから、この予想はまったく的外れかもしれない。けれど、彼が君に対して不満を持った事は確かなんだ。それは何故かと考えると、助けてくれなかったという理由よりも、君の発言に要因があるような気がする。どうかな。君は、彼に対してちゃんと接していたかな」
「……」
「……」
沈黙。
子供は何か言いたげに口を動かすが声にならない。なんと言うべかか、それともなにを言うべきか悩んでいるのだろうか。
俺は後悔していた。もっと言い方があったんじゃないか。偉そうな事をほざき、悦に浸りたかっただけじゃないのかと沈む。
子供は何を思ったのだろう。何を感じたのだろう。俺を嫌いになったかもしれない。もう二度と会ってくれないかもしれない。不安が過り、心臓が重くなっていく。余計な事を言ったと、潰れそうになる。
暗澹な気持ちの中、子供が再び口を開いたのは、コーヒーの湯気が立ち消えた頃であった。
「僕は少し、彼を見下していました」
彼の言葉には敵意も憎悪もなく、代わりに懺悔のような弱々しさがあった。
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