49話
子供と顔を合わせたのは、彼の姉が現れてから十日経った頃であった。
「ご心配をおかけいたしました。すっかりと快調。憂なく万全です」
「それはよかった」
子供の鼻は擦り切れて赤くなっていたが声の通りはよく快活で顔色もよかった。本人が言う通り発熱とそれに伴う諸症状は治ったのだろう。思えば俺も子供時分はよく風邪を引いたものだが、熱がひけばそれまで寝込んでいたのが嘘だったかのように好き勝手をしたものだ。若い身体の回復力が懐かしく、また羨ましい。
だが、いくら若いとはいえ体調を崩せば学校を休まざるを得なかっただろう。一日二日であれば彼の叡智博学に陰りはなかろうが、今日まで休んでいたとすれば大変な遅れである。その辺り、悩んではいないだろうか。少々、心を配った方がいいような気がした。
俺は話の取っ掛かりに一つ聞いてみようかと思い、子供の方を見た。
「しかし、しばらく学校を休んでいたんじゃないかい。巻き返すのは大変だね」
「それは問題ありません。欠席期間中に進んだ授業内容は予習の範囲でした」
「そうか。素晴らしいね」
杞憂であった。
俺などは一日欠席しただけで置いてけ堀となっていたのだが、やはりこの子供は聡明で秀才だなと改めて感心する。
「……」
だが子供は、もはやお決まりとなった、考え込むような、何かについて思い悩むような渋い表情を浮かべ返答を保留する。俺は、やれやれこれはまたいつものやつが始まったぞ。と、面白半分気怠さ半分で、「どうしたんだい」と聞いてみる事にしたのだった。
「長く休んでいて思ったのですが、学校での集団教育というのは、果たして必要なのでしょうか」
「……」
ほら、やはり小難しく、また子供らしい疑問が投げられた。俺はまた、悪影響を与えない範囲で月並み外の言葉を彼に与えなくてはならなくなってしまった。
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