47話
なし崩し的に交際を始める心理とはどのようなものか。人恋しいとか退屈とかといった隙間を埋めるためだろうか。だとしたら、キスの一つや二つ抵抗なく実行できるのではないだろうか。私見だが、受動的な感情由来であれば相手の要求は受け入れるように思う。遊興に付き合うのはいいが肉体的な繋がりは御免だというスタンスは友愛に近いだろうか。彼女が彼に抱いている気持ちが友人へのそれであればプラトニックな関係性を維持したいという言い分も分からないでもない。世の中にはぬいぐるみペニスショックという心理現象がある。性的対象として見られない人間から愛欲が発せられた場合、生理的嫌悪が生じるというものなのだが、二人の状況に合致するような気もする。しかし、彼女は別段嫌悪感を抱いているわけではなく、将来自分が不快感を被る事を懸念しての拒絶であるわけだから、件の現象とは少し違うだろうか。恐らく違う。振り出しに戻る。
逆に俺だったらどういう時、好きかどうかも分からない人間と番になるだろうか。特に寂しいわけでもなく、性的欲求を満たしたいわけでもない場合で交際を始める条件……それは……
「見栄とかおありにありませんか」
思いついた質問を投げてみると、女は目を泳がせた。
「……見栄ですか」
「はい。交際相手がいると、見栄を張りたいわけではございませんか」
「……」
彼女は気不味そうに、また、気恥ずかしそうに「うぅ」と小さく唸り、コーヒーを一口含んで俺と視線を合わせる。
「……実のところ、それは、あります」
罪人の告白のように重く女は言葉を落とす。咎めているわけではないのに居た堪れなく、自身が悪徳を働いているようで心がいたくなる。
「そう深刻にならなくとも。いいじゃないですか見栄だって。相手の男性には少し悪いですが、今日日軽薄な理由で男女交際を始めるなんて珍しい話じゃありませんし」
「……動機が情けないなのです」
「情けない」
「はい……」
女は視線を落として口を結び、コーヒーが入ったカップを弄んでいたが、少し経って腹を決めたのか、改めてこちらを向き直して告白をするのだった。
「弟の友人にガールフレンドがいて、私にボーイフレンドがいない事に、焦りと羨望がありました」
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