37話
故に、「ご両親は君の事を考えているんだよ」とは中々言い出せず、うぅむと腕を組み悩んでみせた。別段必要のない素振りで、もしかしたらとんでもない大根ぶりを披露しており内心失笑されているかもしれない。しかし、思い付きで言っているわけではないと印象付けるためのパフォーマンスはやっておかなければならないような気がした。実際に思い付きで言っているかどうかはこの際置いておく(正直自分でも分からないのだ)。
「親なんてのはそんなもんだよ。安定した生活こそが最も大切だと思っているんだから。自身の苦労だったり過ちだったりを鑑みて、同じ轍を踏んでほしくないと、そう願っているんだ」
「それは分かります。しかし、だからといって過干渉は如何なものかと。僕にだって意思があるんですから」
「そうだね。その通りだよ。だから君が立腹するのも無理ない事だと俺は思う。けれど、親には親の立場があるんだ。しばらくはそれを尊重してやればいいんじゃないかな。親の方だって、子供が言いなりになるなんて考えていないだろうからね」
「なんだか化かし合いをしているみたいですね」
「そうとも。結局血が繋がっていても心から分かり合うなんて事は無理なんだ。だから適当に折り合いをつけていくしかない」
俺の言葉を聞いた子供は考えるようにして指を顎に置き、しばし沈黙した後、こう尋ねた。
「……そちらも僕に対して心にも無い発言をしていらっしゃるんでしょうか」
思わぬ返しに心音が上がる。下手は言えない。ちゃんとこの子供の気持ちと俺の気持ちに向き合った答えを出さねばならないと思案し少し目を閉じる。言葉を組み立て、理屈を作り、固まった内容を吐き出す。
「そうかもしれない。だが、僕は君の親じゃないから幾らか無責任な事も言えるし、本音も出せる。君とは良い関係を築けているとは思うがまだ出会って間もない。美辞麗句や甘言で取り繕ったり、肉身のように煩くいう間柄じゃないんだ。中には建前や装飾はあったろうけれど、基本的には心のままに接しているよ」
結果として回りくどくケムに巻くような表現となってしまった。
まるきり真実というわけではないが嘘は言っていない。それが逆に卑劣なような気がして良心が痛む。やはり俺は、人付き合いが向いていない。
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