38話
「言葉は選んでいるけれど、本心を伝えていただいているという事でしょうか」
子供の言葉に頷く。姑息な言い回しをしているため後ろめたさはあるものの俺自身は彼が述べた通りでいるつもりだ。殊に否定する内容もない。
「……両親も、ちゃんと話を聞いてくれればいいのに」
「親には親の気持ちがあるのさ。月並みの正論を並べているだけのように聞こえるかもしれないけれど、嫌な事も親として言わざるを得ないんだよ」
今度は子供がうぅんと頷く。その様子はどこか空々しく演技がかっていて、さっきの自分はこんな風に見えていたのかと恥ずかしくなった。
「それでもやっぱり、あれしろこれしろとやかましくされたり、一々口出しをされるのは気に入らないです」
そうだろうなと思った。親の小言が煩わしいのはしっかりと育てられている証拠だ。自由と意思が尊重しされ、自我が育くまれてきたからこそ抑圧を嫌い疎ましく感じるのである。「君の親はしっかりと君の事を考えているぞ」と伝えてやりたいが不毛なので伏せておく。いつか大人になって、自分が子供を持ったら思い出して、自ら気が付いてほしい。
「お互い人間なんだ。意見の対立もあるだろうから、根気よく相手していったらいいんじゃないかい」
「先が思いやられます」
やれやれといったような仕草を見せるも子供は最初より朗らかになったような気がした。愚痴を吐きだし幾らか楽になったのであれば幸いである。
「そういえばお姉ちゃんも、親について毎日文句を言っていました」
「今は言っていないのかい」
「はい。あまり一緒にいないというのもありますが、大学まで行かしてもらって悪口はいえない。なんて掌を返しています」
「そうか」
恐らく君もいずれそうなる。
と、軽口を叩いてやろうかと思ったがやめておいた。
俺は席を立った子供を見送り、少しだけ昔の事を思い出した。ろくでもない記憶ばかりなのだが、しかし、どうにも……
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