36話
家族とは血によって繋がったままならない関係性であり、疎ましかろうが嫌いになろうが根本から断絶するというのは不可能なのである。
「最近、親が口うるさくて……」
彼の口から親という単語が発せられ俺は少しどきりとした。やはり歳が離れた子供と茶を飲むというのは後ろめたさを感じていたからである。そしていったい何に対して口うるさいのかも気になるところで、よもや日毎に消費されるカフェオレ代について苦言を呈しているのだとしたら申し訳なく、快諾いただけるとしたら喜んでその分支払わせていただく心算であったが、どうやら違うようだった。
「将来どうするのかとか、何処の大学に入りたいかだとか、暇があれば聞いてくるんです。そんな事、まだ決まってないのに」
「総理大臣になりたいんじゃないのかい」
「将来的にはそうですね。しかし、親はそんな答え求めていませんから。短期、中期目標をあげて、そのためのプロセスと進捗を言わないと納得しないんです」
「それは大変だね」
「えぇ。本当に」
うんざりしたようにカフェオレを啜る子供を見て少し同情するも、親の考え自体は否定できない自分がいた。
俺は子供がいないため育みの苦楽は想像の外ではあるが、子供の頃にもっと努力しておけばよかったと思う事はある。社会というのは博愛的である反面、結果主義としての一面を持っていて、成し遂げられなかった人間は相応の境遇しか与えられないのである。別段今の生活に大きな不満があるわけではないのだが、周りと比較して自己嫌悪を感じ時もない事はない。たらればでしかなく無益だが、一人でいるとセンチメンタルとなる夜もあり、眠れなくなったりするのだ。
そんな思いを我が子にさせたいかといえば勿論そんなはずはないし、この子供の親も同じ気持ちだろう。不要な感傷など抱くような人生など程度が低いのだ。憂なく、胸を張って王道を進むのが一番に決まっている。
だが子供にとってそんなものは知った事ではないというのも分からなくはない。親の心子知らずとは、まったく真理だ。
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