34話
この子供と話す時はいつも頭を使わなければならない。何をどのように申せば上手く伝わるか。如何にして話をもっていけば悪影響を及ぼさずにいられるか。そんな風に無闇に悩んでしまって、今回もまた例に倣い僅かな時間を使ってアンサーを差し込まなければならないのかと汗を流していたところ、今回は間髪入れず、子供が続けて口を開いたのだった。
「でも、そういえば僕も、昔に背の小さい友達を指差して揶揄ってしまった覚えがあります」
下を向き声を絞り出す子供。どうやら随分と悔恨の念があるようで、「うぅん」としばらく唸っている。
「……それは……可哀想な事をしたね」
俺は一瞬、「そんな事もあるさ」と考えなしに肩をもってやろうとしたがすぐにやめた。もしここで安易に彼の過ちを肯定してしまったら、それは彼が受けた屈辱さえ甘受しなければならないと言うに等しいからである。
「はい……本当に、ひどい事をしたなと思います……」
人に短躯と言っただけでこうまで自罰的になるかという具合の落ち込みよう。真面目な彼らしいといえば彼らしいが、あまり気に病むのもよろしくないため、フォローしてやるのが賢明だろう。
「それも経験さ。人間、どうやったって他者を傷付けないなんて事はないし、他者に傷付けられないなんて事もないんだ。今君がこうして、"悪かった"と思えるのであれば、それは良い事だと思うよ。まぁ、相手の子は堪ったもんじゃないと思うけれど」
「そうなんですよ。相手の気持ちが問題なんですよ。如何なる理由があろうとも他者の尊厳を軽視するのは絶対によくないんですよ。仮に僕がこれから先どれだけの善業を積もうが彼を馬鹿にしたという事実は消しようがなく、生涯ついて回るんです。覆しようのないカルマができてしまったんです」
青く染まる子供の顔からはこの世に絶望したかのような迫力を感じた。仏教的なニュアンスさえ含む彼の悩みを俺は受け止める事ができるのか。あまり自信がない。
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