33話

 とはいえ俺が力になれるようなものでもなく、できる事といえばコンプレックスが和らぐよう何かにつけて肯定してやるくらいなものである。金言など与えられるわけもなし、ただのらりくらりと屁理屈のような一言を投げる程度の助力が精一杯だ。向こうとてそれは承知のうえ。そうとも。承知していてほしい。



「アメリカなんかじゃ眼鏡ってだけで石を投げられるそうです。なんとも狭量な話です。世界は眼鏡に厳しすぎる」



 そんな風に大袈裟に言われると締めた口元が綻んでしまって、息と共に笑い声が漏れた。



「笑う事ないじゃないですか」


「今のはそう仕向けただろう」



 子供から険がとれ朗らかとなる。哀怒よりも喜楽の方が、彼には似合っていた。このまま笑い話にしていただけないだろうかと密かに願うも、再び影が差すまで然程時間は掛からなかった。



「でも、やっぱり気持ちのいいものじゃないんです。以前、将来就きたい仕事について馬鹿にされましたが、あの時とは違って完全に悪意がある。今日日ルッキズムによるヘイトスピードだなんて考えられませんよ。アメリカにしろ日本にしろ、未だに人の身体的特徴や欠点を論って小馬鹿にする文化があります。そうした低俗な習慣、僕はよくないと思うなぁ」



 相変わらず難しい言葉を使ってのお気持ち表明。この子供らしいといえばらしいが、このまま鬱憤を貯め続けると自己否定が走り卑屈となってしまうかもしれん。傲慢や慢心の類が悪徳であるのはいうまでもないが、度の過ぎた卑下もまた善徳とはいい難い。少し気を晴らしてやらねば未来が心配となるような、そんな様子であった。であれば、同じ店で同じ卓を囲う仲として、幾らか溜飲を下げる手助けをしてやらないと思った。そうはいっても、俺には屁理屈のような一言を投げるくらいしかできないのだが。



「気持ちは分かる。確かに、人を小馬鹿にするのは言語道断だ」



 ひとまずそう述べて、次になんと切り出そうか考える。導きは、未だない。

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